第26話 映え絵を探して下を向く

文字数 2,220文字

 ()える写真じゃないとお話にならないみたいな感じに世の中なってるからわたしはいたたまれなくて困っちゃうよ。

 大体スマホだって持ち始めたのつい先日だし。それどころかガラケーすら持ってなかったからタクには連絡先教えてあげられなくて申し訳なかったし。

 まあ今だってスマホを使うのは言夢(ゲンム)の手話がわたしは分からないからLINEで筆談の代用にして貰う時ぐらいだし。

 あ、手話とかLINEとかの代わりにジェスチャーゲームみたいにしてゲンムに伝えてもらおうかな。烈火のごとく怒るだろうけど。

 けどまあわたしはとにかく写真を撮る必要が出て来たんで昨日も撮影のためにカメラをスタンバったスマホ片手に街をウロウロしたし連休最後の今日もやっぱり街をウロウロしてる。

 何の写真かって言うと、ウチのアパートの3人娘のプロポーション、じゃなかった、プロモーション用さ。

 やっぱり自分たちの演奏を誰かに聴いてもらいたいんだって。

 下衆な言い方しちゃうけど視覚障碍ピアニスト・言語障碍ドラマー・聴覚障碍ギタリストのバンドってだけで動画でも上げれば放っといても話題性で視聴回数も伸びて有名になると思うけどさ。

 顔を出したくないんだって!

 なんだそれだよね。顔出さなかったら障碍も分かんないじゃない・・・・・って、純粋に音楽に打ち込むあの子ららしいと言えばらしいかな。

 わたしが間違ってた、って反省して引き受けちゃったんだよね。曲をWEBに上げる時にまあ静画でいいから画像付きじゃないと物理的に音源もアップロードできないからさ。写真をわたしが撮って来てあげるよ、って。

 とりあえず昨日の成果の写真を持って帰ったら昨夜はゲンムからこう言われちゃったよ。

『ゲンム:なんで地面に落ちてる花の写真なんだよ!』
「い、いや、ロックっぽくてカッコいいかと思って」
『ゲンム:()る前から散ってどうすんだよ!』

 まあ確かにその通りだから連休最後の日のラストチャンスでかなり気合入れてわたしは撮影行脚に出かけて来たわけだけどさ。
 土砂降りなんだよね。

「室内ってのもアリだよね」

 わたしはオフィスビルの中のテナントになってる市立図書館に入って2Fのメインフロアに上がってみた。

 そしたらさ、意外といい感じの被写体があるんだよね。なんかオブジェみたいなやつとか図書館の壁面も幾何学模様みたいになってて建物の造り自体がオシャレだし。
 ただね・・・・

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

 当たり前だけど、静かなんだよね。

『スマホのシャッター音って消せないんだっけ・・・・・・・・どうしようか』

 あ、そうだ。
 スカートの裾の生地にくるんでレンズだけ出して撮れば音が漏れないかもしれないな。
 やってみようか。

 わたしは書架の前の一人掛けの椅子に座って脚を組んで、ちょっと不自然な態勢だったけどスカートの裾をたくし上げてスマホをくるみ、太腿も若干晒してしまうけどその辺りに固定して壁面を撮ろうとシャッターを押した。

 キャしゅ

 ってまあそれなりに消音効果のあった小さな音でわたしが満足して立ち上がろうとしたらさ。

「と、盗撮だ!」
「あん?」

 テーブルに座って自習してた中学生?の男子がいきなり大声上げたんだよね。
 司書さんが速歩きでやって来たよ。

「どうされました?」
「この女の人が僕をスマホで盗撮したんです!」
「してないよ。壁を撮ろうとしただけだよ」
「う、嘘だ!スカートの下から撮ろうとしたんだ!」

 

っていうセリフに反応したんだろう、その辺に座ってた男どもが一斉にわたしの太腿あたりを観る。

 まあ言葉通りに捉えたら

っていうシチュでもエロティックだろうし、

って意味に捉えてもエロティックだろうし。

 ん?
 ショタ男子?

「みなさんみなさん。わたしに反論の余地を」
「なんなりと」
「その男の子、ショタに見えますか?」

 わたしは無罪放免となった。
 女性司書さんが極めて冷静で助かった。というか多分彼女の性癖なのかもね。

「あなたはわたしのショタの範疇外です」
「うえーん」

 なんて司書さんとうっすらヒゲが生え始めた中学生くんのやりとりがあったからね。

 無駄に午前中の時間を浪費してしまった。お昼の時間もわたしはスーパーのイートインで55円の缶コーヒーとベーカリーショップで半額の赤札が貼られた惣菜パンを飲み食いしながら何かいいシチュがないかとこめかみに力を入れながら記憶をたどりにたどったんだよね。

「あっ!」

 わたしはスーパーを出て踏切のすぐ横にあるお地蔵さんのお堂に向かった。この線路を走るローカル線はなかなかに趣があって単なる踏切だけども絵になる景色なんだよね。

 でもわたしの目的はこの景色全体でもお地蔵さんでもなくて。その隣にある

なんだよね。

「ただいまー」
『ゲンム:帰ったか。首尾は?』
「上々。これ見て」

 わたしはスマホの写真をゲンムに観せてあげた。

『ゲンム:・・・・・うーん・・・・・』
「どう?」
「ゲンム:これ、まずくないかなあ?」

 それはお地蔵さんの隣にあった小さな石像。

 見猿・言わ猿・聞か猿、の三体。

「分かりやすいでしょ」
『ゲンム:分かりやすいっていうか・・・・なんてセンシティブなモノ撮ってくるんだよ、シャム』

 わたしが繊細(sensitive)な女、ってことだよね。

 褒めてんだよね。
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