第149話 のうまくさんまんだばーざらだん
文字数 1,505文字
昨夜はまあ眠れたような眠れなかったような
わたしがモヤの、その、…用足し…を見張って鳥やら獣やら虫やらがよってたかってモヤを覗きにきたのを「しっ!しっ!」って追い払って、だからもう覗きなど出ないだろうから見張らなくてもいいと言ったのにモヤは「聴かれません!」とわたしがしゃがんでその、…用足し…が終わるまで背中を向けたままではあるけれどもおそらくは砂地にその、…水…?がかかる微かな音をも聴きのがすまいとして精神を集中させてたものだからふたりとも気持ちが昂ってギャランの車内に戻ってからも眠れなくて、モヤがさ
「足が火照るんだ…足裏をシャムのふとももに当てて冷やしていい?」
なんて言うからもう眠いのに眠れないから好きにすれば、って言ったらモヤはすごく滑らかですべすべした足裏をわたしのハムストリングスにどういう風に足を器用に折り曲げてやったのかわからないけど、その足裏を、ぴと、って当ててくれた
気持ちよかった…白状すると
さて、四十五番札所 海岸山 岩屋寺
標高700mのまるで岩のような山の中におわすお堂
ご本尊は弘法大師さまがお彫りになったという不動明王
「のうまくさんまんだーばーざらだんせんだーまーかろしゃーだーそわたやうんたらたーかんまん!」
先人がおられた
ご婦人で、白の装束がまさしく本当に死装束であることを具現しているような緊張感のある参拝の様子だった
「こんにちは!」
声も高くて大きい
「お疲れ様です。お不動さまの真言ですね」
「ええ。わたしはね、本当に仙人になるつもりですのよ」
伝説ではなくそれは事実であろう
このお山で法華三昧をして自由自在に空を飛べる仙人になった女子がおられたそうだ
その女子の仙人は弘法大師さまのご修行の様子に心服されたようなのだけれども、今目の前にいるそのご婦人も、そういう大功徳を既にしてこの娑婆で積み尽くしたような顔色をしておられる
わたしもモヤも彼女にあやかりたくなった
「では、イメージなさい」
ご婦人の言われるままに目を閉じてその言わんとするところをイメージする
「さあ、観たところあなた方おふたりは普通の人ではないわね?」
「それはあなたさまの方でしょう」
モヤがそう言うとご婦人は、ほほ、と笑ってそうして死装束の袖から伸ばしたやはり白の右手首をまっすぐに返し、二の腕はぴったり耳腔をふさぐようにくっつけて、つまりはまっすぐに天上に右拳を突き上げるようなポーズを撮った
「炎!」
ひとこと言って拳をさらにぐいんと
「金属音!」
錫杖が擦れる音をイメージするようだ
「火の粉舞う!」
護摩を焚いてそうしてその炎に宝剣をかざす時、ヂッヂッヂッ、と小気味よい音と一緒に火の粉があがって
あかあかとその明滅に照らしあげられる不動明王がはっきりとまぶたの裏に観えた
「観えますか?おふたりとも」
ご婦人の、本人がやや高揚したようなその呼びかけに、一瞬は何を言っているんだこのひとは、思ったけれども自然と観えた
護摩を焚くそのBGMのようにお不動さまの真言を称える僧たち
段々とその読経と真言のスピードが激しさを増したかと思うと
「これより皆さまの厄除けのためにお祓いをさせていただきますので頭をお垂れください」
若い剃髪した僧がふたりお不動さまの前に進み出て参拝する人間たちの方に向かい祓え串を、ばさっ、ばさっ、と振りながら真言を称える
声が大となって、ふたりの若い僧は祓え串のスゥイングを最大にした
「一切の災厄にぃ〜い…」
数瞬間溜めて、来た!
「勝ぁーつ!!!」
そこでわたしとモヤは我に返った
「あ?あのひとは?」
空を見上げると
巨大な鳶が大音声で鳴きながら上空を旋回していた
わたしがモヤの、その、…用足し…を見張って鳥やら獣やら虫やらがよってたかってモヤを覗きにきたのを「しっ!しっ!」って追い払って、だからもう覗きなど出ないだろうから見張らなくてもいいと言ったのにモヤは「聴かれません!」とわたしがしゃがんでその、…用足し…が終わるまで背中を向けたままではあるけれどもおそらくは砂地にその、…水…?がかかる微かな音をも聴きのがすまいとして精神を集中させてたものだからふたりとも気持ちが昂ってギャランの車内に戻ってからも眠れなくて、モヤがさ
「足が火照るんだ…足裏をシャムのふとももに当てて冷やしていい?」
なんて言うからもう眠いのに眠れないから好きにすれば、って言ったらモヤはすごく滑らかですべすべした足裏をわたしのハムストリングスにどういう風に足を器用に折り曲げてやったのかわからないけど、その足裏を、ぴと、って当ててくれた
気持ちよかった…白状すると
さて、四十五番札所 海岸山 岩屋寺
標高700mのまるで岩のような山の中におわすお堂
ご本尊は弘法大師さまがお彫りになったという不動明王
「のうまくさんまんだーばーざらだんせんだーまーかろしゃーだーそわたやうんたらたーかんまん!」
先人がおられた
ご婦人で、白の装束がまさしく本当に死装束であることを具現しているような緊張感のある参拝の様子だった
「こんにちは!」
声も高くて大きい
「お疲れ様です。お不動さまの真言ですね」
「ええ。わたしはね、本当に仙人になるつもりですのよ」
伝説ではなくそれは事実であろう
このお山で法華三昧をして自由自在に空を飛べる仙人になった女子がおられたそうだ
その女子の仙人は弘法大師さまのご修行の様子に心服されたようなのだけれども、今目の前にいるそのご婦人も、そういう大功徳を既にしてこの娑婆で積み尽くしたような顔色をしておられる
わたしもモヤも彼女にあやかりたくなった
「では、イメージなさい」
ご婦人の言われるままに目を閉じてその言わんとするところをイメージする
「さあ、観たところあなた方おふたりは普通の人ではないわね?」
「それはあなたさまの方でしょう」
モヤがそう言うとご婦人は、ほほ、と笑ってそうして死装束の袖から伸ばしたやはり白の右手首をまっすぐに返し、二の腕はぴったり耳腔をふさぐようにくっつけて、つまりはまっすぐに天上に右拳を突き上げるようなポーズを撮った
「炎!」
ひとこと言って拳をさらにぐいんと
「金属音!」
錫杖が擦れる音をイメージするようだ
「火の粉舞う!」
護摩を焚いてそうしてその炎に宝剣をかざす時、ヂッヂッヂッ、と小気味よい音と一緒に火の粉があがって
あかあかとその明滅に照らしあげられる不動明王がはっきりとまぶたの裏に観えた
「観えますか?おふたりとも」
ご婦人の、本人がやや高揚したようなその呼びかけに、一瞬は何を言っているんだこのひとは、思ったけれども自然と観えた
護摩を焚くそのBGMのようにお不動さまの真言を称える僧たち
段々とその読経と真言のスピードが激しさを増したかと思うと
「これより皆さまの厄除けのためにお祓いをさせていただきますので頭をお垂れください」
若い剃髪した僧がふたりお不動さまの前に進み出て参拝する人間たちの方に向かい祓え串を、ばさっ、ばさっ、と振りながら真言を称える
声が大となって、ふたりの若い僧は祓え串のスゥイングを最大にした
「一切の災厄にぃ〜い…」
数瞬間溜めて、来た!
「勝ぁーつ!!!」
そこでわたしとモヤは我に返った
「あ?あのひとは?」
空を見上げると
巨大な鳶が大音声で鳴きながら上空を旋回していた