第170話 OFFぅ

文字数 773文字

「さあどこ行きたい?」

 いっぱい泣いたので気分転換が必要だねと泣いてくれた当のモヤがわたしに気遣ってギャランを走らせてくれた

 ま、照れ隠しもあるんだろう

 わたしは病気になって橋の上から濁流を見下ろす前の、幾人ものひとたちとの捨てないやりとりを思い起こす

 みんなみんな、悲しいことのひとつひたつを持ってたよね

「ついたよ」

 モヤが連れてきてくれたのは公園

 本州や九州や北海道や沖縄から四国に来たひとが寄る公園じゃなくて地元のひとたちが散歩や平日のお昼休みにお弁当を食べにくるような公園

 だから何か特別な風景があるわけじゃない

 木があって

 草があって

 花があって

 アリだとか

 クモだとか

 ツバメや

 スズメや

 カラスとか

 時折猫も

 散歩に付き合う犬も

 風

 日の光

 温い気温

 ドクダミの香り

 爽やかな

 砂地からふぅぅとのぼってくる湿気

 全部全部いい

 すごくいい

「モヤ。ソフトクリームごちそうしてあげる」

 キッチンカーが公園の入り口に停まっていてソフトクリームの機械を積んでて、おねえさんがくるくると巻いてくれた

 ああ、ソフトクリームで『巻いてくれた』は変かもしれないけどおねえさんの手の動かし方がとてもよくて、少しコーンを傾けて、巻きながら傾きを微妙に緩やかにしたり急にしたり

 面白いのは床に平行にコーンを持つんじゃなくて、傾けてクリーム本体もかなりの角度で傾いて、ぼとっ、て落としたりしないかが心配になるぐらいにじっと観てたらいつのまにか完成してた

「おいしいね」
「うん。おいしいよ」

 それから写真を撮った

 公園の草木花

 虫

 風

 あとは…

「ほら。いいお顔して」
「へらっ」

 照れてる

 モヤが照れてる

「かわいい」
「わたしばっかり撮らないで」
「でも撮るのはわたし。だからモヤに勝機ってないよ」

 かわいくかわいく撮ってあげたい

 大切なモヤだから

 かけがえがないから
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