第140話 優しい川
文字数 1,027文字
わたしは川が好きだよ
だって、優しい
そういう曲をわたしの好きなロックバンドが歌ってたよ
四万十川の流れる町におわす
第三十七番札所 藤井山 五智院 岩本寺
「わあ」
モヤは芸術を解する女さ
「何度来てもこれが好き!」
背は高くて更には白のハイヒールで嵩上げまでしてるからきっと近くで見えるんだろう、天井に貼られた575枚の絵
「ねえシャム、あれみたいだと思わない?」
「アイコンかい?」
「うん!」
モヤの楽しみを堪能した後で、わたしと一緒に四万十川に行ってくれた
水が綺麗なんてもんじゃなく
川そのものがきれいなんだよ、これは
「モヤ、聴いてくれる?」
「うん。もちろん」
「わたし、川が好き」
「うん」
「でも、怖い」
「どうして」
「だって、もう自分で決めなくちゃいけないってココロが追い込まれた時に、いつも川に行ってたから」
「『自分で決めなくちゃいけない』ってなに?」
「自分で決める。自決」
「シャム…」
わたしはうつ病だ
原因が先か病気が先かはまったくわからないけど、わたしは休職してゲンムの実家にお世話になって随分とココロを潤してもらって
そうして今はモヤと一緒に四国を遍路している
やっぱり川が好きだ
「シャム。それって、川のせい?」
「ちがう」
「じゃあ、誰のせい?」
「誰だろう」
「言ってあげる。シャムに『死にたい』って思わせた奴ら全員」
「誰だろ」
「シャム。今度はわたしが訊きたい。シャムが『自分で決めよう』ってしてたとき、あなたの友だちはどうしてたの?」
「みんなして、慰めてくれた。アイスを一緒に食べたり料理したり、柿をとったり」
「でも、『自分で決め』たくなっちゃったんだよね?」
「うぅん」
わたしはできるだけ観ない・言わない・聴かない、お猿さん三人娘を悪く思いたくなかったし悪く言いたくなかったし実際悪くない
誰が悪いわけでもない
川が、とぷり、とぷり、と流してくれる
「ふっ」
「えっモヤなにかおかしかったかい?」
「だって、とぷりとぷりなんてどんぶらこどんぶらこみたいで」
「モヤどうしてわたしがココロの中で思っただけの擬音が分かるの?」
「シャムにシンクロしてるから」
そういう仕草をしないだろうと思っていたモヤが、両手で口をやわらかにカバーしてくすくすくすとわらうのが一瞬でかわいく思えて
思わずさそった
「モヤ。川に入らない?」
「まさかシャム」
「ふふ。『自分で決め』たりしないよ」
ただ、あなたの素足が
そのつま先が
清流でかわいらしくピンクに染まるのがみたいだけ
だって、優しい
そういう曲をわたしの好きなロックバンドが歌ってたよ
四万十川の流れる町におわす
第三十七番札所 藤井山 五智院 岩本寺
「わあ」
モヤは芸術を解する女さ
「何度来てもこれが好き!」
背は高くて更には白のハイヒールで嵩上げまでしてるからきっと近くで見えるんだろう、天井に貼られた575枚の絵
「ねえシャム、あれみたいだと思わない?」
「アイコンかい?」
「うん!」
モヤの楽しみを堪能した後で、わたしと一緒に四万十川に行ってくれた
水が綺麗なんてもんじゃなく
川そのものがきれいなんだよ、これは
「モヤ、聴いてくれる?」
「うん。もちろん」
「わたし、川が好き」
「うん」
「でも、怖い」
「どうして」
「だって、もう自分で決めなくちゃいけないってココロが追い込まれた時に、いつも川に行ってたから」
「『自分で決めなくちゃいけない』ってなに?」
「自分で決める。自決」
「シャム…」
わたしはうつ病だ
原因が先か病気が先かはまったくわからないけど、わたしは休職してゲンムの実家にお世話になって随分とココロを潤してもらって
そうして今はモヤと一緒に四国を遍路している
やっぱり川が好きだ
「シャム。それって、川のせい?」
「ちがう」
「じゃあ、誰のせい?」
「誰だろう」
「言ってあげる。シャムに『死にたい』って思わせた奴ら全員」
「誰だろ」
「シャム。今度はわたしが訊きたい。シャムが『自分で決めよう』ってしてたとき、あなたの友だちはどうしてたの?」
「みんなして、慰めてくれた。アイスを一緒に食べたり料理したり、柿をとったり」
「でも、『自分で決め』たくなっちゃったんだよね?」
「うぅん」
わたしはできるだけ観ない・言わない・聴かない、お猿さん三人娘を悪く思いたくなかったし悪く言いたくなかったし実際悪くない
誰が悪いわけでもない
川が、とぷり、とぷり、と流してくれる
「ふっ」
「えっモヤなにかおかしかったかい?」
「だって、とぷりとぷりなんてどんぶらこどんぶらこみたいで」
「モヤどうしてわたしがココロの中で思っただけの擬音が分かるの?」
「シャムにシンクロしてるから」
そういう仕草をしないだろうと思っていたモヤが、両手で口をやわらかにカバーしてくすくすくすとわらうのが一瞬でかわいく思えて
思わずさそった
「モヤ。川に入らない?」
「まさかシャム」
「ふふ。『自分で決め』たりしないよ」
ただ、あなたの素足が
そのつま先が
清流でかわいらしくピンクに染まるのがみたいだけ