第182話 捨身・写真・シャーシン

文字数 1,558文字

 第七十二番札所 我拝師山 延命院 曼荼羅寺
 
 第七十三番札所 我拝師山 求聞持院 出釈迦寺

 トンビと数多の鳥獣虫微生物鉱石草木花たちが、戦死した

 殉死したのだ

「人間は、バカだ」
「うんわかる」
「人間は、大馬鹿者だ」
「うんわかる」
「なぜに兵器を平気で造る」
「なぜになぜに」
「なぜに兵士を平時に殺す」
「なぜになぜに」
「なぜに生類ザバザバ殺す」
「なぜになぜに」
「争いなぞ為さずとも、食わねば死する罰当たり」
「罰、罰」
「人類科学で救うとて、誰ぞ鳥をか救えたか」
「ああ、無理なこと無理なこと」
「人類政治で救うとて、誰ぞ林野を救えたか」
「ああ、無理なこと無理なこと」
「この地はお大師さまの土地」
「ありがたしありがたし」
「この地は神仏生きる土地」
「ありがたしありがたし」
「ご幼少の真魚さまは、その身を尽くす試しにと、仏の道の試しにと、その身を嶽から捨てられた、われただ知るはお釈迦さま、悟りのその句を知るために、鬼のあかあかした口に、餌食になりて教えをと、定めて口腔飛びこんだ、あれやその鬼真実は、仏が姿を変えし鬼、たちまちみほとけ顕現し、悟りの道のど真ん中、お釈迦さまのその道を、真魚さましっかとなぞらえた、ああありがたやありがたや、曼荼羅しっかと胸に抱き、いざやわれらもその道を、歩いてゆこう歩きましょう、お大師さまの如くにと、身を捨て去りしトンビたち、身を捨て去りし生類を、あわれみたたえて行きましょう、さあ行きましょうゆきましょう、仏敵調伏する道は、そやつを済度いたしましょう、済度済度また済度、滅ぼすよりもまた済度、なぜなら済度のその道が、ゆいいつそやつを倒す法、救いの道が倒す法、ああ言やこう言うそのやから、お大師さまのお力で、済度し尽くし倒しましょう、あり得ぬことと諦むな、成せば成るとはその成を、ココロに刻む者同士、同志同士のわれらこそ、今こそ娑婆をぞ治世せん、トンビは我の同志なり、生類すべてが同志なり、愚かな人間すまぬこと、この大地をぞ治世せん、この大空を治世せん、人間ごときはできぬれど、われの親さま成し遂げる、神仏親さま成し遂げる、われの恩人成し遂げる、お大師さまと成し遂げる、同行ふたりのこの四国、必ず成してみせましょう!」

 わたしは聴いた

 ヒョロロォー、とゆう辞世の句

 モヤは聴いた
 
 ぶうんと唸りしハチの音

「モヤ どうしてBC兵器(生物兵器)がいけないかわかる?」
「うんわかる 今ならわかる」
「モヤ 答えを」
「細菌たちの輪廻を剥奪するから」
「おお見事」
「輪廻でよりよく生まれ変わりたいという細菌たちのその努力を、赤子を殺生することで台無しにするから」
「その通り」
「条約などは片手落ち、人間のみの保身のみ、憂えて造る片手落ち、国際機関も片手落ち、誰も細菌憐れまぬ、疫病意味すら理解せぬ、ああ思いだせなぜに船、贅を極めし船旅が、なぜに疫病広めしか、やることなすこと忘れたか、トンビの方こそ偉いもの、毛虫の方こそ偉いもの、自ら恩ある大自然、神仏与えし大自然、恩に報いるためにとて、大難小難無難へと、神の国土を護ったよ、護国の戦士はトンビたち、人間利己利己我利我利の、なさけないやら苦いやら、ああ残念だ残念だ、人間からは真の武士、もはや生まれぬ定めかも」
「モヤ」
「はい、シャム」
「今のわたしたちならできるはず」
「はい」
「ゼニンを済度できるはず」
「はい」
「ゼニンは油断をついてきた」
「はいそうだ」
「ゼニンは隙を突いてきた」
「そのとおり」
「いまのモヤとわたしには微塵の死角もありはせぬ、なぜならトンビが身を尽くし、お手本示してくれたから、誰も恨まず憎からず、ゼニンを済度いたしましょう」

 わたしたちは、お大師さまの捨身の嶽を遥かに拝み、モヤとわたしとで写真を撮った

 なんの写真ですって?

 別れを惜しむツーショット
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