第175話 テロリストをも救う法

文字数 2,615文字

 第六十六番札所 巨鼇山 千手院 雲辺寺

 要はテロリストだよ

 宗教的な

 ところでわたしは宗教という言葉を極力使いたくない

 教えであって教えでないから

 それは誰も否定することのできない、世界観なんてものでも信念なんてものでも心の持ちようなんてものでも決してない

 宗教というよりは、事実

 物理的な現象として現に存在している事実

 あなたの人格がココロと切り離せないように

 あなたの表情が単にあなたの感情に左右されるだけでなくって

 ねえ聴いて

 聴いてよ

 あなたのココロに一番近いって言われてる臓器の鼓動を

 距離的にも形状的にもココロに一番近いって言われるともなしに言われてるその臓器の

 血管が詰まって筋肉が痙攣することを心筋梗塞という

「父さん!」
「わ」

 モヤが突然父親を叫んだ

 その父親はどうやら自分が夢の中で仏のお告げを受けたと言ったらしい

 父親自身が仏から直接夢の中で告げられたと

 仏は「そのままやっていればよい」と父親の所業を全面肯定するのみならず、まるでその父親が行っている所業を世を救うための善事のように告げてくれたと

 けれどもここで問題がある

 その父親が我が身のことを正しいと言えば言うほど

 仏の教えにかなっていると言えば言うほど

 モヤを死へと近づけていく

 まだ分からぬのか

 そなたの我欲の願望が

 ゆめまぼろしを観せただけ

 そらごとたわごとただそれだ

 けれどももはやどうにもならない

 モヤは親なし子として成人した

 成人し聖人となった

 その父親のようでない

 その母親のようでない

 モヤは決して捨てはせぬ

 犬猫鼠を捨てるよに

 ぽいと大地へ捨てはせぬ

「モヤ。あなたのおとうさんは、だめだよ」
「うん…わかってる」
「ううん、モヤ。わかってないよ。どこかでまだあなたは自分を責めている。捨てられることには自分にも何か原因があったのではないかと。赤ちゃんポストに入れられるだけの業を自分が積み重ねていたんではないかと。業じゃないよ。業じゃない。業があるとしたらそれはあなたの父親」
「うん」
「あなたの母親」
「うん」
「むしろあなたは捨てられたことで無限の業を溶かし尽くした。あなたはあとはただ幸運の道を突き進むだけ」
「でもシャム。どうしてこんなに悲しいの?両親がわたしを捨て果てたことが、どうしてこんなに悲しいの?」
「モヤ。『わたしが居るよ』なんて売り物のエンタメみたいなセリフはわたしは言わない。ただこう言うよ。『テロリストをテロリストにさせない人生を選ばせるための真の答えをモヤはカラダで掴み取った』って。テロリストには親が居た。テロリストには祖父母あり。ならば尋ねた言葉には。『なぜに汝はテロを為す。汝は自ら身勝手に、ひとりでテロになったのか。テロリストへと育ったか』テロ夫が答えてこういわく『ボクは父さん母さんの、言いつけ素直に守るだけ』テロ子が答えてこういわく『ワタシはじいさまばあさまの期待に単に沿っただけ』テロ夫とテロ子がこういわく『ボクはワタシは世の中を、遍く救いたい一途』ふざけるんじゃないよ」

 わたしはここでそのセリフを吐いた

 ふざけるんじゃないよ

 そうだよ

 全員ふざけてるんだ

 全員善人ふざけてるんだ

 わたしはテロを防ぐ道

 必死に練りに練ってみた

 その一案がテロの子を

 テロリストにはさせぬ法

 テロとは違う人生を

 その子が歩き進む法

「だからわたしはテロリストの自伝的書籍を読んだんだ」
「シャム。そうしたら?」
「お前がテロかと謗られた」
「なんてこと」
「図書館借りしその本を、舅は便所でつまみあげ、姑鬼首獲ったよに、わたしを責めに責め果てた、子らの食卓その前で、わたしを離縁に処するぞと、責めに責め抜き責め果てた。子らの未来のそのために、わたしは涙を血に変えて、流し泣きぬるその代わり、血流増しに増しまして、臥薪嘗胆いつの日か、ワナビを抜け出し空の下連ねし小説世に放つ、恩人魂世に出だす、その大願を強固した、その本願を決死した」
「シャム。ありがとう。つらかったね」
「うん。モヤ、ありがとう。モヤこそつらかったね」
「うん」

 わたしはその時に舅がつまみあげた書籍のタイトルを思い起こし、そうしてその時の決意を今こそ世のひとに語って、わたしの本願の清きことをなんとしても伝えねばとホンキで思った

「この世からテロを根絶する方法は、その子にテロとして生きる人生を選ばせないこと。この世から戦争を根絶する方法は、その子に我欲の戦争起こしの人生を選ばせないこと。この世からいじめを根絶する方法は、その子にいじめっ子としての人生を選ばせないこと。この世からカルトを根絶する方法は…モヤ、答えを」
「親が都合よく神仏を利用しないこと」

 今モヤが言った意味がわかるだろうか

 そう

 みんな、都合よく利用する

 神仏すらを

 そうして自分の人生を100%肯定するために

 それが極端な時は、神託すらをすり替える

 曲解する

 捻じ曲げる

 それってまるで愚な親が、『そなたが生きていられるも、ワシらが正しい生き方を、貫き通した結果なり』と触れ回る

 子を追い詰める

 ああボクはワタシはどうしてか、どうしてこんなにダメなのか、父さん母さん正しさを貫き通したひとなのに

 だめだよ

 まるでだめだよ

 逆じゃないのか

『われら親がこんなにも業を重ねたそのために、そなたに不憫を強いておる。ああすまなんだすまなんだ』

 これが親ではないのか

 これが真の親さまではないのか

 だからあなたも早くお気づき

 ほんとの親さまだれなのか

 あなたの恩人だれなのか

 毒親などの話じゃない

 平気で神託すり替える悪逆の徒の話なり

 テロリストをも救う法

 まごうことなく存在す

 テロの親から生まれた子

 その子を正しく確実に

 育ておおせる真の親
 
 みほとけの手に委ぬこと

 モヤよいじらしモヤ・モヤよ

 あなたはまことみほとけの

 真の親さまに拾われて

 そうしてこうして世を救う

 お手伝いを為す子なり

 われとともに恩人の

 救世の手伝いなしましょう

 平和の高天原のその

 実現奔走いたしましょう

 ふたりで手に手を取り合って

 真の仏敵たおしましょう

 たおして仏敵その子をも

 救ってわれらと同じ道

 われらと弘法大師さま

 聖徳太子さまがたの

 お仲間お遍路いたしましょう

「モヤ。あなたを拾った親さまのその若き僧侶さまは、ホンモノのほとけさま」
「シャム。あなたの育ての親さまのその恩人は、ホンモノのほとけさま」

 南無大師遍照金剛
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