第187話 ほんとうのことしか言わない女

文字数 1,353文字

 わたしは三日三晩車を走らせた

 食べ物を食べた記憶がない

 水を飲んだ記憶がない

 給油した記憶もなければ

 眠った記憶も無かった

 ただ脳のフラッシュ・メモリに残るのは

 シャムの微笑ばかりなり

「…仕事しよっか」

 四国上空に達した際に不発のまま墜落した大陸間弾道弾は着弾を狙ったものではなく日本海に‘落とす’つもりだったものが機器の故障で跳びすぎたのであり外務省が隣国に厳重抗議をしようとしているところに隣国と国境付近のさらにその隣国で核ミサイルの事故による爆発が起こり両国の民間人軍人合わせて少なくとも40万人が蒸発したとみられ、抗議も国会で議決されていた経済制裁と自衛隊艦艇派遣も一旦見合わされ、救援・支援活動を行おうにも放射能の濃度が一年経たないと防護服を着ても入国不能となったため世界じゅうのどの国も手助けができず官位あるひとたちはともかく、ごく普通の国民たちを実質見殺しにせざるを得なかった全世界が

 そしてわたしだけが知ってたことだけれども我が国を救ったのは四国のトンビたちと、毛虫に変化したシャムを胃に消化しながら編隊を組んで日本海を越えて飛んで渡ったツバメたちであるということを、それが『ほんとうのこと』なのだと

 けれどもわたしはその涙が滲むぐらい切なくて素晴らしい『ほんとうのこと』だけでなく、ゼニンと隣国とその隣国の、自分自身に都合のよい解釈をして得られた信念だけで戦争を起こすかどうかを極めて個人的に言ってみれば我欲のために決めることができるそういう立場、さらに踏み込んで言うと自分の感傷やら自分の家族を思いやる心やらそのクセその家族の中には舅・姑やら年寄りは含まれていないコア?家族のご都合だったりとか、そういう個人のココロさえ満足なら世の中全体がどうであろうと特に問題は生じない、というぐらいの感覚で本当に戦争を起こしてしまった大馬鹿者が存在しさらにその大馬鹿もの同志が幼稚園の園児のような仲良し感覚で‘おー、この国ちょっとシメとくか!」という程度の気軽さで宣戦布告したり老兵の首を掻いて手柄にしたり自分の病気の具合を見ながら時としてどうせ死ぬんだから国民も巻き添えにして自分の面子を保とうとかいうほんとうのほんとうにそういううんこ垂れみたいなことで戦争を引き起こしたあいつらは

 いざ戦闘が始まっても毎日風呂に入り、口では倹約を唱えるが自分自身は華美な成人病まっしぐらの食材調達と摂取を頑なに維持しつつ、つまりは身内を『捨てて』自分は『捨てない』

 そういう奴らがノリで戦争を始めて始まってしまってから自分の責任などと猛アピールするのに国が滅びゆくのを防ぐどころか転落に拍車をかけるだけの=可愛いというては欲おこしを文字通りほんとうにやっているということにわたしはああどうでもいいやと思ってしまった

 思ってしまったのに

 ゲンムのバカ

ゲンム:連れて行くから
モヤ: 誰を?
ゲンム:ほんとうのことしか言わない女子

 ああ、わがままな性格の子ってことか
 高校生か大学生かだけでも聞いておこうかな

ゲンム:一桁
モヤ: ?
ゲンム:5歳
モヤ: へえ…えっ、5歳?
ゲンム:そう その子、ほんとうのことしかいわない
モヤ: ほんとうのこと‘しか’?
ゲンム:そう

 肝心なこと、訊いておこうか

モヤ: 名前は?
ゲンム:ミコ
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