第215話 表彰式(2) Prize‐giving Ceremony

文字数 2,088文字

「続きまして、マン・オブ・ザ・ナイトの発表です!」 
 スクリーンに映る映像が再び変わる。最初は四回戦前の客の予想だ。

 マン・オブ・ザ・ナイト予想
1オポポニーチェ (黄金薔薇十字団)
2タンザ     (リリウス・ヌドリーナ)
3ラーガ・ラージャ(ダビデ王の騎士団)
4エスゼロ    (ダビデ王の騎士団)
5ビンゴ     (リリウス・ヌドリーナ)
6ボルサリーノ  (リリウス・ヌドリーナ)
7イノギン    (ダビデ王の騎士団)
他プレイヤーは0票のため、賭け不成立

「そして、結果はこのようになりました!」

 1票
 観蓮(ラーガ・ラージャ)

「おお」まさかの選出。客がどよめく。
 しかし、カンレンが点を渡してくれなければ、ダビデ王の騎士団はここまで勝てなかった。アイゼンにとっては、今回の躍進における、まさに影の立役者だ。
 そして、自分たちに入れられないのなら、絶対にマン・オブ・ザ・ナイトを獲れない選手に入れたいという意図もあった。アイゼンはまだ諦めていない。
「続きます!」

 1票
 エスゼロ (オポポニーチェ)

「そうだ!」
「よくやったぞ!!」いつの間にか、熱狂的なファンがついているようだ。小さい体でいくつもの活躍を見せてくれた少女に、人々は熱くレスポンスを返した。
「沙織。こういう時は、手を上げるんだよ」アイゼンが小声で囁く。
ーーこう?
 サオリが手を挙げると、人々はますます、サオリに対して、労いと尊敬の歓声を浴びせてくれた。
ーー気持ち、い。
 初めての感覚だ。
「続いてもう1人、1票入っています!!」 
ーーあ。もう、アタピの時間、終わっちゃった……。
 サオリは少し寂しかったが、心は満足で満ち溢れた。素直に、次の人をちゃんと褒めようと思えた。

 1票
 オポポニーチェ(イノギン)

 ギンジロウは、オポポニーチェだけには勝てなかった。だから投票したのだ。
「分かる!!
「面白かった!」こちらも熱狂的なファンが多い。オポポニーチェは、サオリの真似をし、手を挙げてファンの期待に応えた。
 人の夢の塊でできているファンタジーを使いこなせるファンタジスタは、キャラに優れて人気の高い錬金術師が多い。自分とかけ離れた圧倒的な個性に、人は惹かれるのだ。
「さあ。続いての発表です」歓声の静まりを待って、クリケットは発表を続ける。
 オポポニーチェは帽子を脱ぎ、優雅に深々と頭を下げた。
「第二位は、こちら!」

 3票
 タンザ(ビンゴ・ボルサリーノ・エスゼロ)

 自分のチームのリーダーに票を入れる。ビンゴとボルサリーノにとっては当然のことだ。そしてサオリは、二回戦での会話や、代表戦で正々堂々と戦ってくれたことに対して、最大限の敬意を表したかった。
「おおっ!」
「まさか!!」当然一位だと思っていた客たちは驚いた。
 だが、タンザは喜びも悲しみもしない。自分のことではないかのように、平常運転で立っている。タンザにとっては、四回戦でアイゼンに鈴を取られた瞬間から、もはや試合は終わっていたからだ。一度負けて死んでいないだけでも儲けものだ。
「そして栄光のマン・オブ・ザ・ナイト! 第一位は、この人だっ!」

 4票
 ラーガ・ラージャ(観蓮・寂乗・観照・タンザ)

「真言立川流はラーガ・ラージャの犬か?」などという野次も少しはあったが、ほとんどの客は、今度こそ、あらん限りの力を振り絞って、この、新しい英雄の誕生を祝福した。
 優勝していないチームがマン・オブ・ザ・ナイトを獲得することは極めて珍しい。だが、アイゼンには、全員を納得させるカリスマ性があった。両手を挙げて応える。
 フリーメイソンリー日本グランドマスターのタケダが、マイクを握る。
「賞金は全て、あらかじめ指定されている口座に振り込まさせていただきます!!」持っているパソコンの画面がスクリーンいっぱいに映し出され、次々と指定先の銀行口座に振り込まれていく。
「わーーーーーっっっ!!!」
 全てが終わった後、タケダは日本人らしく、深々とお辞儀をして、一歩後ろへと下がった。
 クリケットの隣に、カラカウア王がやってくる。
「続いて、優勝チーム! リリウス・ヌドリーナ!! 代表者は前にお願いします」
 タンザが前に出る。カラカウア王の元に、黒い正方形の箱が運ばれてくる。
「本物でございます。間違いございません」持ってきた鑑定士が、鑑定書と箱を恭しくカラカウア王に渡す。 
 カラカウア王は威厳を持って受け取った後、タンザの方に顔を向けた。
「優勝おめでとう。素晴らしい戦いだったぞ」
 タンザは大きすぎる左手を伸ばし、無表情で箱の中のドクロを握りしめた。ヒンヤリとする。
ーー俺たちは、こんなもんのためにプライドを懸けていたわけじゃねぇんだよな。
 タンザは、握りしめた護良親王のドクロを、客の歓声に応えるように高くかざした。護良親王のドクロは、朝日を浴びて光り輝いている。
 内面は苛立っていても、兄貴分のマルコの名声を広めなければならない。ここで癇癪を起こしても、リリウス・ヌドリーナは権力者たちからは信頼を勝ち取れない。
 タンザはそのまま、ゆっくりと、カメラに向かってお辞儀をした。
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