第127話 3回戦(8) Third Round
文字数 1,259文字
ピアノの音が聞こえてくる。
次の部屋からだ。
中央にピアノが置いてある。誰も弾いていないのに、勝手に鍵盤が動いている。
隣には棺桶が横たわっている。少しだけ開いた蓋の隙間から、ガイコツの左手が伸びてくる。中からガイコツが出てきそうだ。だが、なかなか出てこない。
ーーまた攻撃がこない。
「こけおどしか」焦れたタンザが呟いた。
瞬間、棺桶がゆっくりと開く。
ーーアトラクションの演出と違う!
出場者に緊張が走る。
ガイコツがゆっくりと立ち上がる。
と同時に、中から、1000匹以上のコウモリが一斉に飛び出した。
バサバサバサー。
コウモリの黒い体は部屋中に溢れて広がる。全員の視界が黒一色に遮られる。
「ここには999人の亡霊が住んでおり、1000人目が来るのを待っているのです。誰か希望者はおりませんかな? 私が勝手に選んでもいいんですよ。オーッポッポッポッポ」アナウンスが聞こえる。
ーーアッシは嫌でやんす。アッシは嫌でやんす。
ボルサリーノは神に祈った。頭隠して尻隠さず。コウモリが視界を隠さずとも何も見えてはいない。
「それでは、そこにいる細くて弱そうな貴方。貴方にしましょう」
ーーあっしのことー!!!
ボルサリーノは心臓が止まりそうになった。
ぶん。
屈むボルサリーノの上で、タンザが太い腕を一振りした。何かが見えたようだ。
アナウンスが聞こえる。
「4時19分1秒。ネコチーム。リリウス・ヌドリーナ。タンザ・ドゥルベッコ。アウトー」
ーーえっ? タンザさん?
ボルサリーノは顔をあげた。苦々しい顔をした大きな頭が上にある。首に鈴はついていない。
「ダンナチオーネ」
ボルサリーノたちの、ほぼ機能していないセーフティバーが上がった。
タンザは、やってきたメイドに連れられて、非常口へと消えていった。
「他の方々。もし、貴方達も亡霊になる決心がついたら、後でお会いしましょう。オポポ」オポポニーェの姿は見えない。声だけが聞こえてくる。
ーーひぃぃ。タンザさんもいなくなってしまったー。怖いでやんすー。
耳を押さえてうずくまるボルサリーノ。もう何も聞きたくない精神状態。
だが、現実は無情だ。
聞きたくないと思うがあまり、耳に意識が集中してしまう。背景音楽に混じって、手のひら越しに、微かに扉のきしむ音が聞こえる。
アイゼンは、一番離れたドゥームバギーから、その様子を眺めていた。
ーー凄いな。あの数のコウモリで自分の体を完全に隠したか。
アイゼンは考える。
ーーオポポニーェの作り出す幻覚。範囲や種類は無限なのか? だとしたら、どのような対処法を考えればいいのだろう。原理はわからない。だが、今後も幻術を使用する時にしか襲いかかってはこないだろう。アトラクションが普段と違う動きをした時には、既に幻術をかけられていると思っておいた方がいい。だが、ボルサリーノが奪われなかったのだ。とにかく鈴を守り、相手を見つけてから改めて対処する。専守防衛。これを意識してみるか。
競技者を乗せたドゥームバギーは、重厚な木製扉の向こうへと進んでいった。
次の部屋からだ。
中央にピアノが置いてある。誰も弾いていないのに、勝手に鍵盤が動いている。
隣には棺桶が横たわっている。少しだけ開いた蓋の隙間から、ガイコツの左手が伸びてくる。中からガイコツが出てきそうだ。だが、なかなか出てこない。
ーーまた攻撃がこない。
「こけおどしか」焦れたタンザが呟いた。
瞬間、棺桶がゆっくりと開く。
ーーアトラクションの演出と違う!
出場者に緊張が走る。
ガイコツがゆっくりと立ち上がる。
と同時に、中から、1000匹以上のコウモリが一斉に飛び出した。
バサバサバサー。
コウモリの黒い体は部屋中に溢れて広がる。全員の視界が黒一色に遮られる。
「ここには999人の亡霊が住んでおり、1000人目が来るのを待っているのです。誰か希望者はおりませんかな? 私が勝手に選んでもいいんですよ。オーッポッポッポッポ」アナウンスが聞こえる。
ーーアッシは嫌でやんす。アッシは嫌でやんす。
ボルサリーノは神に祈った。頭隠して尻隠さず。コウモリが視界を隠さずとも何も見えてはいない。
「それでは、そこにいる細くて弱そうな貴方。貴方にしましょう」
ーーあっしのことー!!!
ボルサリーノは心臓が止まりそうになった。
ぶん。
屈むボルサリーノの上で、タンザが太い腕を一振りした。何かが見えたようだ。
アナウンスが聞こえる。
「4時19分1秒。ネコチーム。リリウス・ヌドリーナ。タンザ・ドゥルベッコ。アウトー」
ーーえっ? タンザさん?
ボルサリーノは顔をあげた。苦々しい顔をした大きな頭が上にある。首に鈴はついていない。
「ダンナチオーネ」
ボルサリーノたちの、ほぼ機能していないセーフティバーが上がった。
タンザは、やってきたメイドに連れられて、非常口へと消えていった。
「他の方々。もし、貴方達も亡霊になる決心がついたら、後でお会いしましょう。オポポ」オポポニーェの姿は見えない。声だけが聞こえてくる。
ーーひぃぃ。タンザさんもいなくなってしまったー。怖いでやんすー。
耳を押さえてうずくまるボルサリーノ。もう何も聞きたくない精神状態。
だが、現実は無情だ。
聞きたくないと思うがあまり、耳に意識が集中してしまう。背景音楽に混じって、手のひら越しに、微かに扉のきしむ音が聞こえる。
アイゼンは、一番離れたドゥームバギーから、その様子を眺めていた。
ーー凄いな。あの数のコウモリで自分の体を完全に隠したか。
アイゼンは考える。
ーーオポポニーェの作り出す幻覚。範囲や種類は無限なのか? だとしたら、どのような対処法を考えればいいのだろう。原理はわからない。だが、今後も幻術を使用する時にしか襲いかかってはこないだろう。アトラクションが普段と違う動きをした時には、既に幻術をかけられていると思っておいた方がいい。だが、ボルサリーノが奪われなかったのだ。とにかく鈴を守り、相手を見つけてから改めて対処する。専守防衛。これを意識してみるか。
競技者を乗せたドゥームバギーは、重厚な木製扉の向こうへと進んでいった。