第105話 試合結果 Result

文字数 2,398文字

 2回戦が終わった。ワイアヌエヌエ・カジノは大盛況だ。巨大スクリーンにはジミニー・クリケットがうつっている。クリケットは偉い素振りを見せたいのだろう。声を低くし、大仰な手振りで話しだした。
「おほ、おっほん。それでは、第2試合の結果と総合順位を発表いたします!」クリケットは、助手から渡された紙を受け取り、カメラに目線を向けた。
「輝ける第1位は……自分たちの尻尾2本で10点。真言立川流の寂乗、黄金薔薇十字団のフォーとシザー、ダビデ王の騎士団のエスゼロ。鈴4つで12点。合計22点で、リリウス・ヌドリーナ!」
「全チームから鈴を奪ってますね」クーが感心する。
 ワイアヌエヌエ・カジノの客が騒いでいる。
「圧巻だな」マックス・ビーも納得の内容だ。
 クリケットが客の反応を見ながら、両手を突き出して歓声を押さえる。
「まーまー、みなさま。気持ちはわかりますよー! でも、落ち着いて! 続いて、第2位を発表させてください! 自分たちの鈴1つで3点。リリウス・ヌドリーナ、ボルサリーノの尻尾で5点。黄金薔薇十字団、オポポニーチェの鈴で3点。合計11点! いよいよやって来ました! フタバエンド推薦チーム、ダビデ王の騎士団! KOK!」
「あのオポポニーチェから鈴を奪ったところは評価しよう」マックス・ビーは素直に、グローブのように分厚い手で拍手をした。
「はい。さすがはフタバエンド推薦チームですね! 次回も期待しましょう!!
 カジノ内は、アイゼンとサオリのどちらが可愛いか論争が、酒の匂いと混ざり合って化学反応を起こしている。しかし、それに混じってピリピリとした不純な感情もみられる。はやく第三位の発表をしてくれと急かす声だ。
「お待たせしましたお客さま。そうです。みなさまも、2回戦の圧勝で、リリウス・ヌドリーナの勝利が確信に変わった、という顔はしてらっしゃいませんね。ダビデ王の騎士団が勝つ可能性が高い、という顔もしてらっしゃいませんね! それはなぜか。このチームが出てきたからなのではないでしょうか? 第3位。真言立川流の観蓮と観照、ダビデ王の騎士団のイノギンの鈴、3つで9点。黄金薔薇十字団! GRC!!
「オポポニーチェ、ついに出てきたねぇ」フタバは楽しみが止まらない。
 同様に、ワイアヌエヌエ内の客もたかぶっていた。人間は、誰もが見たことない、美しくて不気味な光景には心が震える。オポポニーチェの一瞬見せた、あの、全ての競技者を圧巻する時間と空間の支配は、見ている客たちの心をも支配した。
「最後は、今回もやられてしまいました。真言立川流。0点です」
「彼らはもうダメだろう。だが、寂乗は頑丈だな。あれだけ叩かれまくって、よく死なずにすんでいる」褒めるところが少ない中、マックス・ビーが呆れ顔でつぶやく。
「はい。ただ私が思いますに、個人の実力、特に観蓮なんかは、タンザと一騎打ちをしても負けないほどの力を秘めているように思われます。けれども、なぜか点をとれませんね」クーは、一応フォローする。ここで真言立川流が完全脱落してしまうと、彼らに賭ける客の人数が減ってしまうだ。
 人間は、自分のポジションを優位に進めるために話をすることが多い。クーが、ザ・ゲームが盛り上がることを考えた解説プランを練るのは当然だろう。
「ふん。おおかた、山に閉じこもってイヤラシい事ばかりやってるから、こんな結果になるんだろう」真言立川流の性交の儀式についての皮肉だ。マックス・ビーは口にこそ出してはいなかったが、真言立川流の教義にたいして好意的ではない。楽して性行為をおこなえることに対する原始的な嫉妬の気持ちもある。
 解説席の中は、感情の渦が、カジノ内の冷房でも止められないくらいに熱くなっていた。
 クリケットは話を続けた。
「次に、第2試合のMVPです! リリウス・ヌドリーナ所属、タンザ・ドゥルベッコ!!
「1回戦に続いて、またもMVPはタンザですね」クーがフタバに話を振る。
「タンザは強いね。前半中盤後半と隙がない」フタバが得意の、将棋の棋士ジョークを言う。
「でも、おいら負けないよ、ですか。フタバは、その棋士がお好きですね」クーはハワイ生まれにも関わらず将棋が好きだ。すぐにそのネタに飛びついた。
 緊張させる時はマックス・ビーに、緩和させる時にはフタバに話をふると上手くいく。解説席の雰囲気は完全に元に戻った。
 フタバとクーがふざけあっているが、マックス・ビーはなんのことだかわからない。気にせず話をすすめる。
「タンザは、今回の試合でも鈴を3つ奪っている。MVPもうなづけるな」
「はい。でも、もし最後にエスゼロがタンザとビンゴから尻尾を奪っていたら、MVPはエスゼロでしたねー」競技者の人気にバランスを取りたい。クーがマックス・ビーに言う。
 マックス・ビーは驚いた顔をした後、イヤラシい目つきでクーに顔を近づけた。
「色気付いたか、クー。あんな子供に」
「い、いや、別に私は……、エスゼロの事が好きになった訳ではありませんよ。た、確かに可愛いですけど!」
「じゃー、ラーガ・ラージャがお好みかい?」フタバが茶化す。
「わ、私はそういう目で試合を見ておりません!! 中立な立場で、ちょ、ちょっと、やめてくださいよぉ」ごついクーが、なんだか可愛くいじられている。
 笑顔だったフタバは、クーから「やめてください」という言葉を言われた途端、プイと反対側に顔を向け、無表情な顔をして動かなくなった。今、自分の中で流行っている遊びである。あっちに振られ、こっちに振られ、クーの委員長としての威厳は形なしだ。ただし、人間的な魅力は溢れている。
 巨大スクリーンは白くなり、クリケットは、右下に映るワイプへと移動した。
「それでは次に、2回戦開始前の予想と、現在までの総合得点をおさらいいたしましょう!」
 スクリーンには、大きく順位表が映し出された。
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