第81話 訪問者 Caller

文字数 2,211文字

 2回戦のステージを見終えたカンレンは、小さく唸った。
ーー熟考したい。
 同じラウンジ内にカンショウやジャクジョウがいると集中できない。どうしても心配してしまう。だが、カンレンは優しい男だ。怪我人に向かって、どこかに行ってくれだなんて、口が裂けても言えない。
 カンレンの様子を見ていたジャクジョウが起き上がった。カンショウと目を合わせ、互いにうなづく。どうやら2人とも同じ考えだったようだ。
「観蓮さま。我々は移動します。用事がございましたらお呼びください」
ーーそんな! 気を遣うことなど……。
 言いかけたが、カンレンは考えた。勝ち筋を見つけるためには、どうしても熟考しなくてはならない。今いっときの感情で勝利の可能性を減らしては、3000人の信者たちに申し訳が立たない。
「……すまない」
 カンレンは唇を噛み、ジャクジョウたちの提案を受け入れた。
「いえ」
「勝ちましょう!」2人はラウンジから出ていった。だだっ広く赤い和風空間にカンレン1人。
ーー勝つぞ。
 テレビでは、2回戦の3Dマップとアトラクションツアーが繰り返し流れている。カンレンはあぐらをかき、半眼で勝利の方程式を探していた。
ーーふむう。ネズミチームからネコチームになる利点は、相手と相対しなければ鈴を奪られること心配がないという点だな。拙僧らが防御に徹すれば、滅多なことで鈴を奪られるはずがない。1対1ならば勝てるはずだ。
 カンレンは1回戦でのタンザたちの動きを思い出した。
ーーいや、相手の戦力については、拙僧が想像する以上に強いと想定しておこう。
 1回戦ではいいようにやられてしまった。2回戦ではリリウス・ヌドリーナを倒さなくては話にならない。
ーー拙僧は当初、弱そうなボルサリーノが穴だと思っていた。だが戦ってみると違う。彼は近寄ってこない。ゆえに捕まえにくい。しかしヌドランゲタにある他の穴を見つけた。それがビンゴだ。危険と見られていた腕。あれは長すぎる。初めてだったので対応ができなかったが、懐に潜りさえすれば攻撃し放題だ。拙僧ならば、十割の可能性で勝てる。
 徐々に光が見えてくる。
ーーそして、拙僧ら自身がたっぷり味わったが、チームは1人倒すだけで一気に脆くなる。ビンゴさえ倒せれば、残りはタンザとボルサリーノだけ。数的有利になれば、勝利を奪うことができる。
 けれどもこれは、リリウス・ヌドリーナと真言立川流との対抗戦ではない。黄金薔薇十字団とダビデ王の騎士団。他の2チームも、虎視眈々と得点を狙っている。
ーーKOKは試合後に、屋根の上に上がってきた時の動き以外は見ていない。あの体格だ。おそらくは身軽さが一番の武器なのだろう。素早さならば観照も負けてはおらぬ。ラーガ・ラージャとエスゼロを一瞬だけでも押さえさせれば、拙僧と寂乗の2人がかりでイノギンの鈴を奪うことは難しくない。
 ダビデ王の騎士団への対策も着々と練られていく。
ーー不気味なのはGRCだ。正直、拙僧が、あそこまで簡単に尻尾を奪られてしまうとは思わなんだ。
 1回戦は大敗した。だが、カンショウとジャクジョウにたいしての怒りは微塵もない。むしろ感謝している。にもかかわらず、カンレンは心の奥底に大きな怒りを抱えている。その理由は、自分のミスが敗北に向かって試合を加速させた、ということが分かっているからだ。
ーー先ほどはタンザに集中した結果、防御をおろそかにしてしまった。拙僧にあるまじきことだ。同じ過ちは繰り返さぬ。さらに注意深く戦うと誓おう。そうすれば、オポポニーチェになど遅れはとるまい。
 3チーム、全てに対しての一応の対応策は考えついた。だが、試合は他の3チームとの戦略戦だ。
ーーもし他の3チームが、まず拙僧らを脱落させようと考えてきたら、どのようにするべきだろうか? どこに隠れ、どこで戦い、どこから切り崩していくべきか? 2回戦こそは長期戦にして、1つでも多くの鈴と尻尾を取らねばならぬ。
 ここが1番の考えどころだ。カンレンは大きく呼吸を整えた。
ーーしかし、一番の強敵であるリリウス・ヌドリーナは絶対的に敵である。この図式は、拙僧らにとって、思った以上の不利になりそうだ。
 カンレンは立ち上がり、半顔だった目を完全に閉じた。集中力は他の五感に割り振られる。聴覚があがる。
 下の階で話し合いがおこなわれているようだ。1人はジャクジョウの声。
「観蓮さまは瞑想中だ。誰にも会わぬ」話し相手は外にいる。話の内容は聞こえないが、無理やりラウンジに入ってこようとしているようだ。
 カンレンは、さらに耳を澄ませた。
「触るな! 休憩時間中に拙僧に触れるのは、ルール違反になるぞ!」
「観蓮に伝えてくれ。ラーガ・ラージャが来た! それだけでいい」
 透き通るようにはっきりとした声だ。カンレンのいるラウンジにまで響いてくる。
「うるさい! 観蓮さまは誰にも会わぬ! これ以上騒ぐというのなら、委員会に連絡して、罰を与えてもらうぞ」
「待て! 寂乗!!」カンレンは上の階から叫んだ。 
「ラーガ・ラージャならば通せ」
「は? は!」ジャクジョウは、一度驚いた顔を見せたが、すぐに道を開ける。 
ーーまさかKOKの方から、我々のいるラウンジを探して会いに来てくれるとは、な。
 階段を登ってきたアイゼンは、カンレンには光り輝いて見えた。
ーー勝利の女神が拙僧らの元にやってきた、か。
 カンレンは、荼枳尼天のご加護に心から感謝した。
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