第194話 VIPルームD(1) VIP Room D
文字数 1,596文字
VIPルームDは、他のVIPルームと比べてかなり雰囲気が異なっていた。
警備が見張っていることが多い前室にも、護衛は1人もいない。代わりに何人ものワイアヌエヌエ・カジノのスタッフがいる。
だが、ゲストの世話をしなければいけないはずのスタッフの割には、なぜかシャワーを浴びたり、くつろいでテレビを見たり、お菓子を食べているモノばかりだ。頻繁にロビーからの出入りがある。まるでスタッフの控室のようになっている。やけに騒がしく、緊張感のかけらもない。
逆に、奥の本室は静かなものだ。3人の男しかいない。テレビではクリケットが、サオリの自爆した理由について説明していた。
「サオリ……。これは、予想を上回る大馬鹿者である、な……」
動かしていた揺り椅子を止め、シワだらけの細い目を大きく見開くのは、丸メガネをかけ、長い白髭をたくわえた80歳を超えた老人だ。ゆるいローブを身にまとい、体は動けそうにない。だが、右人差し指をしきりに動かしている。ダビデ王の騎士団を引退したが、いまだ相談役として尊敬されている男。生き字引。大魔術師。エベリーン・マルコスだ。
「なんと……、そのようでしたね……」
もう1人はタキシードを着ている、モデルのような40代の白人紳士だ。ソファーに座っているのに背もたれを使用していない。姿勢がいい。執事のような恰好だが、明らかに高い身分の人間だ。フタバの親友、セバスチャン・ダビデである。
「カーッカッカッカッカッカ! やりやがったな!! 馬鹿野郎!!」
スーツを脱いでワイシャツ一枚でウォッカを瓶ごと呷る40歳代の男が、突き抜けるような大声で喜んだ。ソファーに座り、足で拍手をしている。ダビデ王の騎士団一番隊隊長、タツヤ・ヤマナカだ。
部屋に入る扉には、魔法陣が描かれている。エベリーンの使用する結界だ。ガーデンと呼ばれている。もしスタッフが突然入ってきても、3分間の間は3人が静かにテレビを観ているだけのように見える。その虚像に話しかけられている間に準備を済ませ、座っている自分たちの映像に自分を重ね合わせ、結界を解除すれば、部屋の中には不自然なところはなくなる。誰かに襲撃されても問題ない。警備が薄いのはこの為だ。
そもそも、Sランク錬金術師のヤマナカがいる部屋に襲撃しようだなんて愚か者はこの世にはいないだろうが。
3人しかいない部屋には、目玉のような生物が何十匹も飛びまわっている。エベリーンのDランク・ドープ・ファンタジー、ドーゼンズ・オブ・チャイルドだ。
このチャイルドと呼ばれる目玉のようなファンタジーにあらかじめオーラを注入しておくと、ガーデンと呼ばれる魔法陣の中ならば、遠距離からでも自由に操作することができる。普通の用途は偵察が多い。だが今回は、ダビデ王の騎士団がザ・ゲームを鑑賞するために使用されている。
今回のザ・ゲームが、No.8トマスの奪還だけを目的とするなら、ダビデ王の騎士団たちが見る必要はない。アドバイスができるわけでもないので、後で結果を聞けばいいだけの話だ。だが、今回の目的は、サオリたち3人の入団試験も兼ねている。どんな動きをするかを見なければ、どこの隊に入隊させたいかも決められない。
それに、サオリやアイゼンのことが好きな騎士は多く、みんなが彼女たちの試合を見たがっていた。
騎士団が全員持っているPカードは、リアルのあらゆる通信干渉を受けない。だが、映像を飛ばすには限界がある。しょせん電話のようなものだ。言葉で中継することはできても、臨場感を感じさせることはできない。
そこで、ドーゼンズ・オブ・チャイルドを使用できる騎士で、なおかつセバスチャンの子供の頃に家庭教師だったエベリーンに白羽の矢が立ったのだ。
そして、発案者でもあり、護衛役も兼ねられるヤマナカと、フタバの護衛もしなければならないセバスチャンが同行しているという訳だ。
警備が見張っていることが多い前室にも、護衛は1人もいない。代わりに何人ものワイアヌエヌエ・カジノのスタッフがいる。
だが、ゲストの世話をしなければいけないはずのスタッフの割には、なぜかシャワーを浴びたり、くつろいでテレビを見たり、お菓子を食べているモノばかりだ。頻繁にロビーからの出入りがある。まるでスタッフの控室のようになっている。やけに騒がしく、緊張感のかけらもない。
逆に、奥の本室は静かなものだ。3人の男しかいない。テレビではクリケットが、サオリの自爆した理由について説明していた。
「サオリ……。これは、予想を上回る大馬鹿者である、な……」
動かしていた揺り椅子を止め、シワだらけの細い目を大きく見開くのは、丸メガネをかけ、長い白髭をたくわえた80歳を超えた老人だ。ゆるいローブを身にまとい、体は動けそうにない。だが、右人差し指をしきりに動かしている。ダビデ王の騎士団を引退したが、いまだ相談役として尊敬されている男。生き字引。大魔術師。エベリーン・マルコスだ。
「なんと……、そのようでしたね……」
もう1人はタキシードを着ている、モデルのような40代の白人紳士だ。ソファーに座っているのに背もたれを使用していない。姿勢がいい。執事のような恰好だが、明らかに高い身分の人間だ。フタバの親友、セバスチャン・ダビデである。
「カーッカッカッカッカッカ! やりやがったな!! 馬鹿野郎!!」
スーツを脱いでワイシャツ一枚でウォッカを瓶ごと呷る40歳代の男が、突き抜けるような大声で喜んだ。ソファーに座り、足で拍手をしている。ダビデ王の騎士団一番隊隊長、タツヤ・ヤマナカだ。
部屋に入る扉には、魔法陣が描かれている。エベリーンの使用する結界だ。ガーデンと呼ばれている。もしスタッフが突然入ってきても、3分間の間は3人が静かにテレビを観ているだけのように見える。その虚像に話しかけられている間に準備を済ませ、座っている自分たちの映像に自分を重ね合わせ、結界を解除すれば、部屋の中には不自然なところはなくなる。誰かに襲撃されても問題ない。警備が薄いのはこの為だ。
そもそも、Sランク錬金術師のヤマナカがいる部屋に襲撃しようだなんて愚か者はこの世にはいないだろうが。
3人しかいない部屋には、目玉のような生物が何十匹も飛びまわっている。エベリーンのDランク・ドープ・ファンタジー、ドーゼンズ・オブ・チャイルドだ。
このチャイルドと呼ばれる目玉のようなファンタジーにあらかじめオーラを注入しておくと、ガーデンと呼ばれる魔法陣の中ならば、遠距離からでも自由に操作することができる。普通の用途は偵察が多い。だが今回は、ダビデ王の騎士団がザ・ゲームを鑑賞するために使用されている。
今回のザ・ゲームが、No.8トマスの奪還だけを目的とするなら、ダビデ王の騎士団たちが見る必要はない。アドバイスができるわけでもないので、後で結果を聞けばいいだけの話だ。だが、今回の目的は、サオリたち3人の入団試験も兼ねている。どんな動きをするかを見なければ、どこの隊に入隊させたいかも決められない。
それに、サオリやアイゼンのことが好きな騎士は多く、みんなが彼女たちの試合を見たがっていた。
騎士団が全員持っているPカードは、リアルのあらゆる通信干渉を受けない。だが、映像を飛ばすには限界がある。しょせん電話のようなものだ。言葉で中継することはできても、臨場感を感じさせることはできない。
そこで、ドーゼンズ・オブ・チャイルドを使用できる騎士で、なおかつセバスチャンの子供の頃に家庭教師だったエベリーンに白羽の矢が立ったのだ。
そして、発案者でもあり、護衛役も兼ねられるヤマナカと、フタバの護衛もしなければならないセバスチャンが同行しているという訳だ。