第22話 決勝戦(4) Final Round

文字数 1,373文字

ーーアイちゃんが一本とった!
 テレビを観ていたサオリは、思わず拍手をした。
 ピョーピルもお祭り騒ぎだ。
ーーイェーイ!!
 サオリは走って、机に並んだピョーピルたちと順番にハイタッチをかわす。
 一番に最後にハイタッチしたのは、アカピルだ。
「やったー!」
「アイチャーン」
「あっと、ヨン・ジュー!」ピョーピルが騒ぐ。
「ミサオさんが負けて帰ってきたら、サオリはどんな顔して迎えんの?」
ーーあっ!
 アオピルの言葉で、浮かれ気分のサオリの動きは止まった。
ーーホントだ。どうしよ。試合が終わる前に出てかなきゃ。合わせる顔がない。
 サオリは椅子を引いた。立つ鳥跡を濁さず、だ。
 テレビを消す。
 ピーチーズに渡すため、ハッピーターンを3 つ取る。
ーー急いで出なきゃ。
 が、ドアノブに手をかけ、ふと足を止めた。
 なんだか、あまりにも失礼だと思ったからだ。

「雙葉生は雙葉生らしくあれ」タイミングのいいミドピルの言葉。

ーーそ。雙葉学園に籍を置かせてもらってんのに、助けてくれた人にお礼もせず、ハッピーターンを奪って逃げ出すなんて。あまりにも雙葉生らしくない。
「ハッピーターン!」アカピルの言葉で、サオリは椅子に戻った。
 太陽の絵柄の、小さなショルダーバッグを手にとる。名を太陽王といふ。
「やっと出番かーい」太陽王は、渋い声で語尾を上げておどけた。
「そうよーん」
 サオリもおどけ、太陽王の後頭部にあるチャックを開ける。
 手紙を取り出す。
 社会人が名刺を使うように、サオリも、いざという時のために、お礼の手紙を用意していた。
 「ありがとうございました by Sa0ri©」とシロピルが言っている絵が描いてある手紙だ。
 切り抜かれているシロピルの絵を立てると完成する。
ーーよし!
 部屋の出口で振り返る。
 一礼。
 廊下に出る。
 観客の声援が大きい。サオリは階段を四段飛ばしし、すぐに客席に入った。

 扉を開けた瞬間、熱気と観声でもみくちゃにされる。まるで、森の動物パーティに巻き込まれたかのような気分だ。試合はすでに終わっている。
ーー電光掲示板!
 アイゼンが勝ったのか。ミサオが勝ったのか。
ーー一秒でもはやく知りたい。
 電光掲示板は、色々な文字が書かれている。
ーーどこに勝者が書かれてんの?
 サオリが探すよりも早く、審判が高らかに、勝者の名前を呼びあげた。
「勝者。赤。フジワラノアイゼン」
 観客の声が爆発した。

ーー耳がバカになってる。
 サオリは、ピーチーズのいる最前列まで階段を降りた。カメに抱きついて喜んでいるユキチ。隣では、困った顔をしてウサが立っている。ウサは、すぐにサオリが帰ってきたことに気がついた。
「さおり!」
 手を振りながら、「見た?」という顔をするウサ。手のひらを見せて、「見た」という顔で返答するサオリ。二人は、お互いに笑顔になった。
「見て! アイ様」
 階下の試合場では、アイゼンが面を外していた。薄く落ちる汗と、涼しげな顔。まるで女神のようだ。
ーー人間は、加工アプリなしでもこんなにも美しくなれるものなんだな。
「神や英雄は、こうして創造される」ミドピルの知ったかだ。
 聞こえているのか聞こえていないのか、サオリはしらずに口を開けていた。嫉妬や祝福の気持ちが一切ない。ただ、軽々しく言葉にしてはいけない、美にたいする感動と賞賛だけが、サオリの心の中を支配していた。
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