第171話 4回戦(14) Final Round

文字数 1,375文字

 ボルサリーノがオポポニーチェを倒した。大金星。同じバトーに乗っているアイゼンとタンザは目を合わせ、歯を見せずにお互い笑顔を見せた。
ーーボル。やるじゃねぇか。
ーーまずはひとつ。
 声には出さずにうなづく。2人の思いは同じだ。ボルサリーノかサオリ。どちらかがフォーの鈴をとってくる。
ーーさて、後は。
ーー私たちが決着をつける番ね。
「ラーガ・ラージャ」タンザはたけっている。
「ええ」アイゼンの目も光る。
「決着にふさわしい舞台はあるのか?」
「もちろん。1番目立つ場所。全海賊の見守る中で、本物の勝者を決めましょう」
「おう」
 同じバトーに乗っているので2人は近距離だ。残っているチームも自分たちしかいない。不意打ちを仕掛ければ優勝に近づく。だが、2人はまったく動かなかった。アイゼンが共闘を申し込んだ時、タンザも交換条件を出していたからだ。それは、「他の2チームを倒した後は、逃げ回らずに正面から決着をつける」という条件だ。

 最終戦の前、タンザの中には計算があった。
 黄金薔薇十字団を傷つかずに倒すことを前提とするアイゼンの戦略が当たり、2チームが共に無傷で残ったとする。その時の得点は僅差になっているだろう。
 鈴と尻尾の得点差は2点。ダビデ王の騎士団に6点差を持ったまま逃げきられると、リリウス・ヌドリーナが負ける状況になっていることも考えられる。そして2回戦のアイゼンたちの敏捷性から判断すると、タンザたちが追いかける状況になることは得策ではない。全員が自分たちよりも身軽だ。
 一方、タンザは戦闘力に自信があった。ボルサリーノはともかく、殺戮の巨神兵の異名を持つタンザとビンゴだ。喧嘩では一度も負けたことがない。2対3でも1対3でも、正面から戦ったら必ず勝てる。
 試合とは、より自分の長所に状況を近づけた方が勝利するものだ。そしてタンザは卑怯者ではない。美学がある。リリウス・ヌドリーナはアウトロー集団ではない。紳士的なヌドランゲタだ。正々堂々。真正面から闘いたい。それがタンザという男だ。
 もちろんこの状況は、タンザが迂闊に尻尾の得点についてのルールを変更しろと言ったことが一因とはいえなくもない。3回戦でオポポニーチェの提案に軽々しく乗ったことも一因かもしれない。だが、タンザは自分の行動はカッコいいと思っていたし、もし過去に戻れたとしても同じことを繰り返しているだろう。タンザは1ミリの後悔もなく、この最終局面へと向かっていた。

 リリウス・ヌドリーナとダビデ王の騎士団。決勝戦にふさわしい直接対決まで待ったなしだ。バトーは淡々と2人を運んでいく。
「しかし、まさかお前が俺たちの最後の障壁になるとはな。思いもよらなかったぜ」
「私は全て計算していたよ。あなたたちがこの後で私たちに負けるところまで、ね」
 いつもなら笑い飛ばすタンザの表情が真面目な顔つきになる。
「なるほど。それは用心しておこう」百戦錬磨のタンザは戦いの肝を知っている。油断はない。
 しかし、油断をさせずに集中させることで視野を狭めることもアイゼンの作戦だということまでは気づいていない。
ーー私の作戦は必ず成功する。
 アイゼンはゾーンに入っている。自分は神だと心から思っている。神と悪魔の戦いは、この2人の主役が決定づけるといっていいだろう。そして物語の重要人物たちも集結の準備を整えていた。
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