第65話 1回戦(3) First Round

文字数 1,934文字

「試合開始から、10分が経過したドー。黄金薔薇十字団。試合場へドーン」
「オーッポッポッポッポ」
 オポポニーチェは高い声で笑った。フォーとシザーが後につづく。
 オポポニーチェは高級そうなタキシード。フォーとシザーは、太陽柄と月柄のスーツで身を固めている。照明と音楽が、服装と見事にマッチしている。
 オポポニーチェはアトラクションの中に入って立ち止まり、ティーカップを指で追っていた。
「んー」
 ティーカップが止まり、ガチャガチャしていた照明も音楽もおさまる。
「あれにしましょう」
 オポポニーチェはビッコをひきながら、少し遠くにある青いティーカップに乗りこんだ。フォーとシザーも慌てて後を追う。
 ブザーが鳴り、再びコーヒーカップが動きはじめる。
 コーヒーカップだけではなく、地面も動く。
 歩いている最中だったフォーとシザーは、まだティーカップに乗れていない。地面が動いたことに驚き、慌ててオポポニーチェの乗るティーカップへと飛び乗ろうとする。
 フォーは、頭から飛んで入る。
 シザーは飛んだが届かない。かろうじてカップの縁に掴まり、3回転ほど引きずられた後、まるでおもちゃ箱に放り投げられた手足の長いお人形さんのように、無様な形でカップの中へと引っ張り上げられた。
 3人は楽しそうだ。まるでただ遊びにきたかのように、ただ夢中で、ティーカップを回している。

ーーはっ! こいつは面白い!
 フタバはニヤニヤが止まらなかった。キャラクターのある生物は面白い。一気にファンになる。口を開けたら、つい、「おーっぽっぽっぽっぽ」と真似してしまいそうだ。
「オポポニーチェはティーカップに乗りました。これは、どんな意図で乗り込んだのでしょうか?」クーは主催者だ。あくまでも真面目に解説する。
「うーん。遊んでいるようにしか見えん。だが、ひとつだけ分かることがある。彼がもし、薔薇堕ちのオポポニーチェだとしたら、こんな奴ではないだろう。精神に異常をきたしているとしか思えない」
「試合中ですもんね」クーも同意する。
「ああ。アトラクションを楽しむだなんて信じられない。回転中に後ろから蹴られたりしたらどうするんだ?」

 だが、マックス・ビーの心配とは裏腹に、簡単に攻撃できるはずのタンザとビンゴは、柵に座ったまま動こうとしない。ニヤニヤしながら、笑ってオポポニーチェたちを眺めている。

「しかし、リリウス・ヌドリーナは、全く攻撃する気配がないですね」
 マックス・ビーは、自分の言葉の擁護をする。
「これは1回戦だ。普通なら、もっとお互いが牽制しあい、接触できるタイミングを見つけた瞬間、弾けるように戦い合うもんだ」
「私にはチャンスに思えるのですが、なぜチャンスを棒に振っているのですか?」
「馬鹿なだけだ」マックス・ビーは吐き捨てるように言った。
「というと?」
「チーム数が少ない時間帯のほうが、相手の鈴や尻尾を奪いやすい。こんなことは自明の利だ。強い戦闘力を持っているかと思って期待したが、しょせんはCランク。体は一人前だが、頭脳が足りないようだな」
 現役時代は、筋肉の核弾頭といわれ、いつも一直線の熱い戦いを繰り広げていたマックス・ビーとしては、なんとも歯痒い展開となっていた。

「15分経ったドー。ダビデ王の騎士団。試合場に、入るドーン」
 低い鉄柵についた扉を開く。
 サオリたちは、アイゼンを先頭にして、アトラクション内の円周上の通路に入った。ここは回らない。
 大体、休憩も含めて5分間隔で動いているのだろう。回っていたティーカップが、ゆっくりと止まる。
 暗めの照明。
 止まった音楽。
 柵に座っていたタンザが、サオリたちを見ながら、ゆっくりと立ちあがった。
「まだ1回線だ。試合場にも入らずに試合が終わってしまうのは、いくら女子供のチームとはいえ、あまりにも可哀想だったからな」指を鳴らして不敵に笑う。
 オポポニーチェは、乗っているコーヒーカップの縁に片足をかけ、アイゼンに向かって大きく手を振ってくる。
「待ってましたよ、子猫ちゃん。これからあなた方を、立派なロボトミーにして差し上げまShow!!
「大人気だな」シロピルが不安を隠す。
ーーこわっ。
 サオリは、自信満々なアイゼンの後ろで身震いをした。

 試合が動く予感を感じる。カジノの客たちは興奮し始めた。
「ダビデ王の騎士団が入った瞬間、場がざわつきましたね」クーはその状況を説明する。
「フタバ効果、かね?」マックス・ビーはフタバを見た。
「違うよ」フタバはそれ以上何も言わなかった。
 真剣に見たいからだ。
ーー主役が登場すれば、どんな物語でも、彼らを中心に回りはじめるってもんさ。
 フタパは、椅子からずり落ちていた体を持ち上げ、姿勢良く巨大スクリーンに集中した。
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