第102話 2回戦(16) Second Round

文字数 2,243文字

「50分経過。残り10分だよー」
 3番目のエリア、乗壺口の近くまできたサオリは、タンザとビンゴ、それにアイゼンの気配を感じていた。
ーー仙術、天空地形図もしていないのに、アタピ、気配を感じられてる! しかも、いつもよりもはっきりと!!
 調子に乗ったサオリは、仙術、忍び寄る薄ら影法師を使い、乗り口の端から、そっとタンザとビンゴに近づこうと思った。ちょうど2人にそって影ができている。
ーー蜂蜜タイムやな。
 サオリとクマオは、目を合わせてニヤリと笑った。「誰にも気づかれないゲーム」のスタートだ。
 まず最初に、アイゼンの近くを通る。サオリの仙術、忍び寄る薄ら影法師は、アイゼンよりも完成度が低い。いつもなら見つかってしまう。
 だが、アイゼンは半眼で座禅を組み、ピクリとも動かない。神経をタンザとビンゴに集中して、それ以外は回復に向けているためだ。サオリが動くとは露ほども考えていない。
ーーふふん。アイちゃん抜いた!
 サオリとクマオは、またも目を合わせて笑った。このまま、「タンザとビンゴの後ろまで行こう大会」のスタートだ。
 5メートル。
 4メートル。
 3メートル。
 2メートル。
「55分経過。残り5分だよー」
 1メートル。
 ゆっくりと。
 ゆっくりと。
 ビンゴの足下まできても気づかれない。サオリはしゃがみながら、ビンゴの足の横をそっとすり抜け、本のオブジェの裏側に回った。
ーーセーフ!! セセセ、セーフ!!!
 サオリとクマオは確認するように目を合わせ、満面の笑みを贈りあった。サオリには不安が全くない。ただただ、体中が無敵感で満ちあふれている。
ーー楽しー。
 後はいよいよ、「マフィアの尻尾を芋掘りゲーム」だけだ。タンザとビンゴは、サオリの存在に気づいていない。
ーーこれはいけそう。
 2本同時に尻尾を引っ張れば10点獲得。2回戦は終了する。

 ビンゴとタンザは、座禅を組むアイゼンを見ながら話をしていた。
「しかし兄弟。あのラーガ・ラージャて女、やけにクレバーだな。じっとあそこから動きゃしねぇ」
「ああ。おかげで俺たちも完全に休めねー。後半戦で俺たちの邪魔になるのは、案外あの女だったりしてな」
「でも、よく見ると、あいつ、美人だよな」
「……油断するなよ」
 タンザは、胸に忍ばせていたハンカチで額の汗を拭った。冷房は効いている。だが、動いた後の大きな体にとっては、どんなところでも暑い。

 サオリは、ジリジリとしゃがみながら近づき、ついに2人の真下まで辿り着いた。
 少し間が空き、タンザが話を変えた。
「そういえばビンゴ。残りの1人。エスゼロ。あいつはどう思う?」
ーーあ! アタピのこと!!
 自分の話が出て、サオリは一瞬、動きが止まった。自分の評価は聞きたいものだ。
「うーん。可愛いけど……、ただの子供だな」
「ズコー」アオピルがこける。
 サオリも何かを期待していた訳ではなかったが、なんだかなーという気持ちになった。
「そうだよな。ただの子供だよな」タンザは唸って、続けた。
「ただ……、あのオポポニーチェから鈴を奪いやがった」
「偶然だろ」ビンゴは特に気にしていない。
 ビンゴの言葉を聞き、タンザが慎重に言葉を選びなおす。
「オレはなんか、あの子には引っかかるところがあるんだよ」
「……どんなところだ?」タンザの真剣な声に、ビンゴも自分のテンションを変える。ビンゴは答えた。
「まず、フタバエンドの推薦選手だというところだ。フタバエンドが推薦した選手は、ほとんどが有名になっただろ?」
「兄弟らしくもねー。ロリコンにでもなっちまったか? 俺らの顧客の政治家みてーだな。ははは」
 ビンゴの笑いにつられることなく、真剣な顔でタンザは続ける。
「それにもうひとつある。あの娘の目。なぜか、カトゥーのことを思い出した」
 カトゥー。その名前を聞いて、ビンゴは真剣な顔になった。
ーーパパのことだ!
 サオリは、自分の心音が聞こえるほどに興味を覚えた。ただ、サオリの驚きは2人の知るところではない。もちろん全く無視される。
「わー。心臓トクトクいってる」シロピルがサオリの胸に耳を当てる。
「得々セール!」キーピルもサオリの胸に耳を当てる。
「10年くらい前に行方不明になったあの人か。確かにあの人がいなきゃ、今の俺たちはなかったかもしれねぇ。ブラザーは、カトゥーのことが好きだもんな」
 タンザは、遠い目をして話した。
「ああ。オレは、あの人が死ぬはずがねーと思っている。すげー男だった。仲間や目的のためなら、どんな強敵にも立ち向かう精神力。そして、それに見合うだけの力。オレもあの人に出会わなければ、今でも両親がいない事を愚痴りながら、貧民街でその日暮らしの生活を送っていただろう。生き甲斐もなく、遺伝子研究所の実験体として命を削りながらな」
ーーそれはそうだな。
 ビンゴも同意してうなづく。
「オレは、あの日から、カトゥーを見習って、大事なものを守るために力をつけてきた。リリウス・ヌドリーナというオレの家族とその誇り。研究所の仲間たち。オレは、誰からであろうとも、必ずヤツらを守ってみせる。もちろんお前のこともな、ビンゴ。そして、いつかまたカトゥーに会えた時、胸を張って握手を交わせる生き方をするんだ」
「ブラザー……」
「いい話だな」ミドピルが泣きそうな顔になる。
ーーうん……。パパ……。でも、試合は試合……。尻尾をとらないと……。
 サオリは、両目に涙をいっぱい溜めながらも、タンザとビンゴのお尻に両手を伸ばした。
 2本の尻尾に手が触れる。
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