第126話 3回戦(7) Third Round

文字数 1,803文字

 暗い通路の先は開けている。第3のエリア、ドゥームバギー乗り場だ。乗り場には3名のメイドが待ち構えていた。メイドたちの背後には、黒革の豪華なソファーの形をしたドゥームバギーが流れてくる。
ーーわー、社長が座る椅子みたい!
 ホーンデッドマンションは楽しい。乗り物までが豪華だ。サオリは胸が高まっていった。
「皆様、足下にお気をつけてお乗りください」メイドが注意をうながす。
 サオリはドゥームバギーを見た。3人乗りだ。タンザとボルサリーノは、もちろん一緒に乗りこんでいる。タンザ一人でもいっぱいいっぱいだ。
「もし手長紳士がまだいたら、3人一度には乗れなかったね」シロピルが安心した顔をする。
「でもギュウギュウに乗ってるの、見たかったかも」ピョレットは意地悪そうに笑う。
ーーアタピ、アイちゃんと乗りたい。
 サオリの気持ちとは裏腹に、自分の隣にはギンジロウしかいない。ギンジロウはもちろん、一緒に乗る気満々だ。
ーーここで嫌な振りをすると、ギンしゃんに悪いか。
 サオリは不承不承、ドゥームバギーに乗り込んだ。ギンジロウは気をつかいすぎているように、こわごわと後から乗り込む。
ーーこういうとこ、気持ち悪い。
 仲がいいはずなのに自信なく近寄られても気持ちが悪い。もちろんリック大尉のように、最初から自信を持って近づいてくる人よりは気持ち悪くはないが。
 悪気がないとはわかっていても、意識されているとこちらも意識をしてしまう。サオリは、気持ちを抑えることができなかった。
「セーフティバーに触ってはいけない。それをひくのは私の役目」ドゥームバギーについているスピーカーから声が聞こえる。セーフティバーがゆっくりとおりる。
 ギンジロウはオシャレではないが、身長も180センチと高く、スタイルもいい。筋肉の太さも違う。ゆえにセーフティバーは、ギンジロウの筋肉質な太ももで止まった。サオリは、すっかすかのフリーダムだ。
「全然セーフティやあらへんがな」クマオがぼやいた。
 後ろにはカンショウが1人で乗り込む。その後ろに、アイゼンとカンレンが続く。
「もうひとつ。絶対にフラッシュを使わないで欲しい。亡霊達は強い光が好きではないのです」アナウンスが流れる。
 ドゥームバギーはベルトコンベアーのように一列に並び、自動的に流れていった。

 いよいよ難所の一つ。第4エリア。長い廊下に入る。ここは、オポポニーチェが攻撃しやすいエリアだ。全員の集中力が一段階上がる。
 暗い通路の左右には、たくさんの肖像画が並んでいた。肖像画に描かれた彼らの目は、すべてが赤く輝いている。
ーー来るかな? オポポノコ。
 サオリは身構えた。
 が、なにごともなく通路を抜けていく。

 次は大きな部屋。
 図書室のようだ。
 壁の上から下まで全てが本棚となっており、ぎっしり本が詰まっている。本と本の間には、いくつもの大理石の胸像が飾られている。昔の偉い英雄なのだろうか。
「なんやろな、ここ」クマオが独り言を呟く。おどろおどろしい音楽が流れているので、ギンジロウの耳には届かない。
「ここにあるのは沢山の貴重な書物。それもゾーッとするものばかり。この大理石の彫像は、音楽史上に名を残すゴーストライター達のものです」天井からアナウンスが流れる。
 ボルサリーノが唐突に叫んだ。
「あーっ、アッシの、アッシの彫像があるでやんすー!」ボルサリーノは、あまり怖いものがない。だが、幽霊や不可思議な現象だけは大の苦手だ。ホーンテッドマンションに入ってからずっと震えている。
 サオリも、胸像の顔を一つ一つ見てみた。
ーーボルさんのだけじゃない。みんなの胸像がある。
 こういう時はやはり、まず自分の彫像を探してしまう。サオリの彫像は意外と簡単に見つかった。大理石で作られているようで、無表情だ。サオリのだけ頭が小さい。
ーー写真撮れたらもっとサイコーなのに!
 サオリはなんだか嬉しかった。
「なんや沙織。エラい人みたいやな。けど、ワイのがあらへんやないか! ワイも彫像なりたいわ」
「クマオが彫像!! 笑ける!!!」シロピルが笑う。
 サオリは、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。ご機嫌な気分を隠し、クマオの頭をポンポンと軽く叩く。
 ギンジロウは、不思議な顔でサオリを見た。
 まだ、オポポニーチェは攻撃を仕掛けてこない。
 仕掛けられるのをひたすら待つという行為も疲労が溜まる。サオリ以外の全員がそう思っていた。
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