第187話 VTR(1) VTR

文字数 1,329文字

 何が起きたのか、誰もわからない。
 ジョニーデップが試合結果の詳細を克明に告げた。
「6時42分33秒。ネズミチーム。ダビデ王の騎士団。イノギン。アウト! 34秒。ネコチーム。リリウス・ヌドリーナ。ボルサリーノ。アウト! ネコチームは全て全滅。これにて4回戦は終了となる!」
「え???」
 一瞬の静寂の後、ワイアヌエヌエ・カジノ内の客は、狂ったように叫びだした。
「わー!」
「何を言ってるんだ!」
「判定おかしいだろ!」
 だが画面には、2本の尻尾を持って立ち尽くしているサオリの姿が映っている。自分の鈴を高く掲げているボルサリーノが映っている。判定はおかしくないのかもしれない。
「静粛に! 静粛にお願いします!!」クーがアナウンスをするが観客は止まらない。ワイアヌエヌエ・カジノはお祭り騒ぎだ。会場全体が揺れている。
ーーイノギンが負け?
 フタバが首をひねる。
「これは……どうなんでしょう」クーもハッキリとは言えない。
「よく分からないな」マックス・ビーも身を乗り出して唸る。
ーーどうしたの?
 ヒナも心中ハラハラとしている。もう給料なんてどうでもいい。観客と同じように叫び出したくなっている。
「あ。VTRが出るようです」
 観客はいまだ、審判であるジョニー・デップの判断を信じきれていない。巨大スクリーンに釘付けだ。
 スクリーンには、ギンジロウに追い詰められているボルサリーノが映し出された。
「別角度からの映像ですね。見てみましょう。さあ、ボルサリーノはイノギンと対面して震えています。さらにエスゼロが援護しにやってきました。我々が見ていた通りですね」クリケットの解説だ。
 映像では、ギンジロウがボルサリーノの顔を見ながらゆっくりと近づいていく。ボルサリーノはしゃがみながら、ガムシャラに両手を突き出している。が、薄目を開けた瞬間、慌てて自分の鈴に手をかけ……、引きちぎった。
「ここです。ボルサリーノは何を見ていたのでしょう」
 VTRを巻き戻し、ボルサリーノの視線に注目する。画面にはまた別角度からの映像が映る。ボルサリーノの猫からの映像だ。ボルサリーノの背中と、ギンジロウとサオリが映っている。
「エスゼロが近づいていますね。彼女が、あ!」
 後ろにいたサオリがギンジロウの尻尾をつかむ。左手では自分の尻尾もつかんでいる。そのまま引っ張る。その姿を見たボルサリーノが、慌てて自分の鈴を引きちぎる。死にたくないという気持ちから一転、自分から負けにいこうと決意した瞬間だ。
 ギンジロウの尻尾を先に抜いたのは、サオリの利腕である右で抜いたことと、他人から取る方が難しいから注意を向けていたこと、そして自分が失格になってからギンジロウの尻尾を抜いても、無効になってしまう可能性が高いことからだ。ボルサリーノの動きが1秒遅れていたら、サオリは普通に尻尾を2本抜き、普通に負けていた。
 VTRは終わったが、観客の疑問はおさまらない。
「なんで自分と仲間の尻尾を取ってるんだ?」
「まさか、いまだにオポポニーチェに幻覚見せられているとか?」
「だったら錬金術すげー」
「でもボルサリーノまで自分の鈴を取ったのは訳分からん」
「いや。ボルサリーノもオポポニーチェと何か話してたぞ?」
 客は口々に騒ぐ。
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