第169話 4回戦(12) Final Round

文字数 1,023文字

 水の中に立ち尽くすオポポニーチェ。同じ場所で座り込んでいるボルサリーノ。城壁に隠れて呼吸を整えているサオリ。辺りを警戒するクマオ。
「オボボン。オボボン」フォーが端正なルックスに似合わぬ奇妙な声を上げた。バトーから水に飛び降り、オポポニーチェの元へと歩いて近寄る。心配そうな表情。おそらくオポポニーチェからの指示がなければ何もできないのだろう。オポポニーチェは肩を震わせながらボルサリーノを睨みつけている。
ーーは、早く連れていって欲しいでヤンス。
 ボルサリーノは恐ろしさで顔を上げられない。バンダナを巻いた海賊スタッフ4名が、オポポニーチェを非常口へと誘導しにきている。もう少しで到着する。オポポニーチェは、彼らに気づいて顔を上げた。無表情。
「昏君」中国語で一言言い放つ。同時に自分の右腕を一振り、カマのようにして薙ぎ払った。
 ブン。
 浅い水に座っているボルサリーノに丸い物体が落ちてくる。
ーーバレーボール?
 ボルサリーノは女子バレーボール観覧が趣味のひとつだ。アジアとイタリアのチームが強いので、観ていて面白い。
 トサ。
 両手で受け取る。赤ん坊のように生暖かい。落ちてきたのは端正なフォーの首だった。

「キャーーーー!!!!
 ワイアヌエヌエ・カジノはいくつかの悲鳴の後、静寂に包まれた。世の中のありとあらゆる刺激的な遊びをおこない、金のためなら人の命など軽いと考える嗜虐性の高い貴族や金持ちも客の中にはいる。だが、彼らでさえも一様に黙りこくる。
 フォーが海の藻屑と化したからではない。笑顔だったオポポニーチェの急激な怒りの爆発がその理由だった。画面の向こう側からでも刺さるような殺気を浴びせられ、腰が抜けたもの、漏らしてしまったものも少なからずいる。
「なっ……」解説進行役のクーでさえも言葉を失った。
 突然の事態。ザ・ゲーム委員会は迷った。人を殺してはいけない。これはルールにある。守られなければならない。だが、殺害した相手は敵ではない。味方だ。試合には何の有利にもならない。味方を殺すという前例は過去にない。そして、フォーは人ではない。ホムンクルスだ。このケースももちろんない。
 委員会はすぐさま対応を考えた。が、委員長のクーは解説席にいる。さすがにこの事態を他の委員だけで決定するわけにもいかない。
「ちょっと失礼します」クーは笑顔で解説席からはずれ、委員会室へと入った。机を囲んで会議をしていた8人の委員会メンバーは、一斉にクーの方を向く。
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