第193話 謝罪(3) Apology

文字数 1,380文字

 大きな影。
 太陽光が遮られる。
ーーん?
 カンレンは、正体を知るために顔を上げた。
 見上げるような大男。
 タンザだ。
 不貞腐れた顔をしている。
 一瞬の緊張。
 だが、タンザは気まずそうだ。
「大人げなかった。ワリィ」
 頭を掻きながら英語で話す。
「オレたちは、リリウス・ヌドリーナをナメるなという一心で闘いに参加したんだ。けど結果、こんな小娘に情をかけられた上、彼女を泣かせて終わっちまった。こんなのは後味が悪すぎる。ここでオレたちリリウス・ヌドリーナの、イタリアンマフィアの男意気というものを見せねぇと、オレはただのごろつきになっちまう」
 タンザは、サオリの頭に手を置いた。壊さないように。丁寧に。サオリは泣くのを堪えながら、ゆっくりと目を合わせる。
「ボルさんは?」
「こいつか?」タンザはボルサリーノを睨み、首持っこをつかんで持ち上げた。宙ぶらりんのボルサリーノをサオリに見せる。顔は穏やかだ。
「ボルはよくやったよ。ただ逃げてただけじゃねぇ。よく頑張った。罰なんてとんでもねぇ。仲間として誇りに思っている」
「じゃあ……」
 サオリの顔は輝いた。
「ああ。当たりめーだ」
ーーやた!
 サオリの目がいくら大きいからといって、涙を溜めるには限界がある。
 決壊。
 涙は止めどもなく、瞳からこぼれていった。無表情な口元も緩む。
「ゼスゼドぢゃーん! タンザじゃーん!」ボルサリーノは涙と鼻水で濡れ鼠になっていた。水に落ちて吸い込んだ水分は全て出しきっただろう。
ーー今回の試合、点数上は引き分けかもしれねぇ。だが、オレたちの負けだ。例え同時優勝だという結果でも、ドクロだけはいさぎよく返そう。
 タンザはサオリを見下ろした。試合が終わればただの泣き虫小娘だ。
ーーカトゥーの娘、か。もっと話してみたかった。
 タンザは、まるで上着のようにしてボルサリーノを肩にかけ、振り返らずに堂々とビンゴの元へと戻っていった。

ーーそういうことだったのね。
ーー信じてよかった。
 ランブルスコの後部座席で応急処置をされていたアイゼンとギンジロウも、サオリが何を考えていたのかが大体分かった。

「良いものを見られましたねぇ。オポポポポ」
「ひゃっ、ひゃっ」
 様子を見ていたオポポニーチェも、自分たちの乗っているポリスワゴンの檻の中から微笑んでいる。シザーも、フォーが殺されたことなど気にしていないようだ。楽しげに柵を引っ張って喜んでいる。

 巨大スクリーンの画面では、現在、黄金薔薇十字団の団員が挨拶をしている。歳はかなり上だが、フォーやシザーにそっくりな男が、馴れていないインカムに悪戦苦闘しながらインタビューに答えている。
「つまり、彼らは私に似せて作られたただの人形なのです」
「ほー」インタビュアーが納得しているので、客も納得する。
ーー命ってなんだろう。
 そう思う客もいることはいたが、自分の身に何かが起きるわけではない。インタビュアーや他の客が納得している姿を見ると、釈然とはしないながらもすぐにまた、勝負の行方が気になっていった。なんせ自分のお金がかかっているのだから。

「選手たちは、これからシンデレラ城へと移動いたします! みなさま、ご自分のお車にお乗りください!」
 お姫様たちが選手を案内する。
 全員が乗り込み、4台のクラシックカーは、凱旋パレードのようにゆっくりと、シンデレラ城に向かって進んでいった。
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