第144話 ファンシィダンス(2) Fancy Dance 

文字数 2,300文字

 カンショウもジャクジョウも、今度も何も喋らない。だが、先ほどまでと態度が違う。しおらしい。カンレンは、彼らの膝に手を乗せた。2人の気持ちが分かっているのだ。
「それは、ほぼ立川流が管理しても良い。そう思っても差し支えはございませんか?」カンレンは優しく質問をした。アイゼンの口調も柔らかくなる。
「ええ。試合後、ドクロが本物だと認証できたら、すぐにその場でお渡しいたします。後は依頼する時だけお貸しください。KOKにとって、護良親王のドクロは管理するだけのものです。普段は必要ありません。倉庫に眠らせるだけではなく、価値の分かる方に大事に使用していただく。それが道具の正しい使い方だと思います」
 カンレンとアイゼンは同じ気持ちだ。ダビデ王の騎士団の勝利のためだけに進む。それ以外は両者とも目的に届かない。だが人間は、感情と目先のことでしか物事を考えられない。カンショウとジャクジョウには理解しきれない。特にカンショウは、負けても宗派のために命をかけるという特攻精神に溢れていた。
「お前がドクロを渡してくれる理由がどうしても分からない。KOKk
勝利のために、我々を騙しているわけではあるまいな?」カンショウは元々、他人から信用されない人生を送ってきた。ゆえに他人が信じられない。修行によって克服できたような気がしたが、窮地の時には本性が顔をのぞかせる。
「確かに勝ちたい。けれども美学がある。人を騙して勝ちたいとは思っておりません。1回戦から思い出してください。私たちが攻撃したことは一度もないはずです」
 2回戦でジャクジョウが倒された時にも助けにいった。3回戦では互いに背中を守り合った。カンショウの危機にはギンジロウが助けにいった。アイゼンの言葉は事実によって証明されている。
 カンショウも納得せざるを得ない。偶然の事実が策略として仕上げられている事には気づかずに。
 アイゼンは続けた。
「私たちにとって、この試合はKOKの入団試験。それ以上でもそれ以下でもありません。そしてKOKは、オーパーツを管理する組織です。危険な事に使用されない限り、管理する必要はありません。みなさんはドクロを取り戻したい。私たちは勝ちたい。お互いに目指すところが違うのです」
 全員が分かっている。けれどもカンショウは、試合を放棄して鈴を渡すという行為が耐え難かった。
「確かに、俺たちはもう優勝できない」カンショウは苦悶の表情を浮かべながら続けた。
「だが、お前たちは優勝できるのか?」
 ジャクジョウも追随する。
「うむ。拙僧らが共に手を組み、ある程度まで協力して敵を減らし、その後で貴殿らに鈴を渡す。その方が優勝する確率が高いのではないだろうか?」
ーーまだそんなことを言っているのか? 数字で考えてみろ。めんどくさい奴らだな。
 それでもアイゼンは心を殺し、静かに、慈愛に満ちた表情で答えた。
「はい。それはありがたい申し出です。ですが現在、GRCは52点。ヌドランゲタは41点。私たちは28点です。みなさんの鈴をいただけて37点、尻尾のアドバンテージを足して43点。これでようやく戦える最低条件が整います。もし、みなさんの鈴がひとつでも他のチームに渡ると、私たちは絶対に優勝できなくなります」
「しかし、お前たちが勝てるというこん」カンレンはカンショウの口元に手を上げ、話を遮った。
「分かりました。いえ。最初から分かっておりました」カンレンは続ける。カンショウも口をつぐんだ。
「拙僧らも、駄々をこねる子どもではございません。確率からいったら貴方の策の方が勝算が高い。そんなことは分かっております。ただ、この、くぐもった気持ちが何というか……」カンレンはそこまで言って、後ろにいるカンショウとジャクジョウの気持ちを慮った。アイゼンはカンレンのことが気に入っている。さらに優位な案を提出することにした。
「お気持ち、お察しします。それでは、こういうのはどうでしょう? 契約を結んでいただけたあかつきには、この試合中だけでなく、これ以降もKOKと真言立川流が友好協定を結ぶというのは」
 真言立川流は組織価値でいえばC+ランク。ダビデ王の騎士団はA+++ランクだ。対等な立場になれる組織ではない。格が違う。真言立川流の3人は、あまりにも破格な約束に目を見張って驚いた。
「それは! ……素晴らしくありがたいことだが……、そんなことが可能なのですか?」カンレンは恐る恐る聞いた。カンショウは細い目が3倍くらい大きくなっている。
「ええ。私たちが勝利すればKOKに入団することができます。入団できれば自由に意見を言い合うことができます。みなさんがどれだけ誠実な方々なのかを懇々と口説けば、必ずやダビデ王も首を縦に振るでしょう」アイゼンは堂々と答えた。
ーーこ、神々しい。
 カンレンは思わずひれ伏してしまいそうになった。ケガをした肩を押さえているカンショウも、腹を押さえているジャクジョウも、「その条件ならばお願いします」という顔をしている。タイミングは今しかない。
「次の試合、すぐに私たちの鈴をお渡ししましょう」カンレンは立ち上がり、自分の半分の年齢の少女に対する態度とは思えないほど丁寧に頭を下げた。年齢や性別を気にしない。カンレンには生まれ持った気品の良さがあった。
「このような話をお持ちくださって誠にありがとうございます。貴方に従います」
 他の2人も立ち上がり、同様に頭を下げた。アイゼンは軽く手を挙げ、観音菩薩のような手つきをした。
 軽い契約書を書く。
 アイゼンがラウンジから出ていった後、真言立川流の3人は、知らず扉に向かって頭を下げていた。
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