第110話 控室 Lounge

文字数 1,586文字

 テレビには、ホーンテッドマンションの3Dマップと、オポポニーチェの挑戦状VTRと、アトラクションツアーが流れている。競技者のラウンジからは、解説席やカジノの様子を見ることはできない。カジノ会場の客から、競技者に有利な情報を漏らされないためだ。
 サオリはテレビを見ながら、次のアトラクションの地図を頭の中に入れていた。けれども、なぜだか上の空。ただただ、ぼんやりとテレビから出る光を眺めてしまう。試合の全てが他人事だ。
ーーパパ。大足マヒアとどんな関係があったんだろ?
 タンザの話が頭から離れない。けれどもピョーピルたちは、オポポニーチェに夢中だった。3回戦の挑戦状が面白かったのだ。
「オポポー。あの人はホーント、人を楽しませる気があるね!」シロピルが感心したように腕を組む。
「オポポポポー」キーピルも真似をする。
 クマオもテレビを見ながら、オポポニーチェが出るたびに大興奮している。
「かっこいー。ワイ、あいつ好きや。おもろいなー。笑けんでー。なー、沙織」
 インタビュアーが帰り、他の2人から離れた位置に座っていたサオリは、クマオの問いかけに浮かない表情を見せた。
「う、うん……」
 部屋にはサオリとアイゼンとギンジロウの3人だけ。ネコたちも休憩時間だ。監視カメラもないので、ラウンジの中の様子は誰にも見られていない。クマオは遠慮なく動きまわり、ソファーに座るサオリの顔の近くまで転がってきた。下から覗き込む。
「どしたー」心配そうだ。
 サオリは慌てて、試合のことを考えているようなフリをし、ピョーピルたちの話していたことを思い返し、それについての説明をした。
「イタリアおじさんズは強いけど、理解できる強さだからまだいいの。でも、おポポの人、相当強いんでしょ? アタピ寝てて、そういう部分をまったく見てない。分かんないから、なんか不安」
 サオリは、先ほどオポポニーチェから鈴を奪ったことを、夢うつつでしか覚えていない。強いという結果はわかっているが、自分の目では見ていない。アイゼンとギンジロウから話は聞いたが、それ以外には情報が何もない。クマオも同様だ。
「せやなー。ま、考えてもしゃーないやろ。あいつも、本気でドクロが欲しいとかじゃなくて、たまたま試合に当選しちゃったからディズニーに遊びにきましたー、てな感覚なんやろ」クマオは楽天的だ。1回戦をリュックの中で見ていた限りでは、ただティーカップに乗って楽しんでいただけだ。3回戦の挑戦状も、ただ自分が楽しむためだけにおこなっているように思っている。
「だといいけど」サオリも楽天的になろうとした。
「あいつ、変やもんなー。オポポー」クマオが、笑いを我慢できないとでもいうようにソファーを転がる。
「沙織? なんか言った?」クマオとの声が聞こえたのだろう。アイゼンがたずねる。
「んーんー。なんもー」サオリはすぐに答えた。個性的だと思われているので、大して気にされてはいない。
「そ。私、ちょっと外に行ってくるね」アイゼンが扉に向かっていった。
「はーい」サオリは空元気な返事をした。
 ここまで何の成果も出せていないギンジロウは、2人だけになることに自信がない。アイゼンがロビーにある洗面所に入った音を聞いた後、すぐに立ち上がった。
「あ。俺もちょっと。夜風に当たってくるよ」ギンジロウも、模擬刀を持って出て行く。素振りをして、精神統一でもするのだろう。
「はーい」サオリは惰性で返事をした。
「あいよー」キーピルも真似をする。
 そして、ラウンジには誰もいなくなった。
「誰もいなくなった控え室はワイが守るでー。オーポポポポポ」クマオがはしゃぐ。
ーー誰もいない。
 サオリはなんだか、久しぶりにホッとした。緊張していたことにも気づかないほど緊張していたようだ。ソファーの心地よさを初めて感じる。そして、気がつく間もなく、いつのまにか眠りに落ちていた。
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