第96話 2回戦(10) Second Round

文字数 653文字

 その頃サオリは、まるで糸の切れた操り人形の如く、ぐったりとハニーポットの中でしゃがみこんでいた。意識を失っていたようだ。
クマオが服の裾を引っ張る。
ーーん?
 ボンヤリした目でクマオを見ると、クマオは手を上げ、何かを腕指している。
 上を向くと、鈴を首につけた誰かが立っている。男は大声で笑っていた。
ーーあ。試合中?
 サオリは、無意識に腕を伸ばした。
 それは、熟れた果実のように簡単にもぎ取れた。
「32分51秒。ネコチーム。黄金薔薇十字団。オポポニーチェ・フラテルニタティス。アウトー」
ーーえっ?
 サオリは、手の中にある温かい鈴と、ぼんやりとしたオポポニーチェの顔を、交互に見比べた。
「オーポポポポポ。やられましたね、お嬢さん」
 オポポニーチェは嬉しそうにサオリに微笑みかけた後、陽気に自分から非常口へと向かっていった。
 サオリは、どちらを向いているのかよく分からないそのガチャ目が、なぜか優しさに満ちていると思った。後ろ姿をボンヤリと眺め続けた。
 が、意識がハッキリしてくると、自分に近づいてくる足音を感じる。
ーーヤバッ。
「シャキットシテ!」シロピルが檄を飛ばす。
 足音の正体は、タンザであった。サオリは、寝起きでボーッとしたまま、立ち上がって身構える。
 目が合う。
 タンザは、サオリを見つめたまま、立ち止まった。追ってこない。
ーーん?
「コイノヨカン?」アオピルが首を捻る。
 サオリはハニーポットに乗ったまま、タンザから徐々に遠ざかっていった。
 タンザはいつまでも、サオリの大きな黒い瞳を見つめ続けていた。
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