第133話 3回戦(14) Third Round

文字数 1,908文字

 だが、カンショウは鬼気迫っている。触れるもの皆傷つける。坊主無双状態だ。
 真言立川流は残り1人。味方はいない。助けにきたギンジロウでさえもを敵と見なす。
ーーすわ、敵襲か! 龍神落首掌!!
 鋭い手刀。
 ギンジロウは、こうなる可能性も予測していた。
 間一髪よけ、カンショウのドゥームバギーの近くに降り立つ。
 坂になっているため足場が悪い。しかもドゥームバギーは動いている。追いかけなければならない。
 ギンジロウは足場を確かめ、3メートル以内、10秒以内のルールを守りながら、カンショウたちの後を追った。
ーー今回は時間稼ぎが目的だ。まず最低限、自分の鈴を守る。オポポニーチェ本体を見極められたら攻撃する。これがプランA。
 ただ、幻覚の正体はまだ分からない。ギンジロウ自身もパターンAはありえないと思っているが、熟視することで気づくこともあるだろう。
ーー幻覚が分からなくても、観照の鈴が首から離れる瞬間だけは絶対に本体がいる。 
 カンショウが鈴を奪られた瞬間に、攻撃力の強い打撃を見舞ってオポポニーチェを倒す。これがプランBだ。
 正当ではない戦法も考えている。
ーーもし、絶対に観照が負けるとわかった時には、俺があいつの鈴を奪う。
 プランCだ。
 誰から奪おうが、点は同じく3点だ。奪われるくらいなら奪わなければ点差は開いていく。同情なんてしていたら自分が負ける。
 百戦錬磨のギンジロウには、いざという時にも慌てないコツがある。
 全ての作戦が失敗する可能性を予め考えておくことだ。
ーー全てが難しかったら一旦逃げ、ボルサリーノの鈴を奪って沙織さんと合流。1周終わるまで俺たちの鈴を守り抜く。
 プランDだ。
 ギンジロウはすぐに動き出せるように、爪先立ちで膝を大きくかがめた。騎士団とはいえ、得意な技術は剣術だけではない。近接戦闘術も自衛隊トップクラスの腕前を持っている。
 ギンジロウは構えながら、じっくりとカンショウを追っていった。
 カンショウは変わらず、気配を感じた方向に、広範囲に当たるような大振りの攻撃を仕掛けている。少しでも触れられればあの拳速だ。一気に連撃に巻き込める自信があるのだろう。
 だが、何十回と拳尖を飛ばしても当たらない。
 闇の中で青白く光る亡霊に邪魔されながら、複数の怪紳士に取り囲まれている。
ーーあれは神経を削られる。
 最初は防御も念頭に入れていたカンショウだが、20秒もすると徐々に隙ができていく。心身ともにバランスが悪い。
ーーダメだな。
 カンショウの負けは見えてきた。
 だが、オポポニーチェの幻覚はまだ分からない。
ーーよし、プランBかCにしよう。このままでは鈴を奪られて終わるだけだ。
 ギンジロウは一跳びでカンショウの鈴を奪える距離まで近づき、さらに間合いを詰めていった。
 その時はすぐにおとずれる。

ーー立川流八十八式戦闘術、紅蓮回旋。
 カンショウは大きな回し蹴りを放った。
 またも空振り。
 軸足が滑り、大きくバランスを崩す。
ーー体勢を立て直さねば。
 その瞬間、カンショウは耳にキスをされた感触がした。
 柔らかい唇。
「あん」突然のことだ。顔に似合わぬ吐息が漏れる。
「オポポ」オポポニーチェの声。
 胸元の鈴が動く。

 カンショウの鈴が取られるか否か。
 瞬間、ギンジロウは攻撃を仕掛けた。
 一直線にカンショウに向かう。
 技は腕十字タックル。
 自分の鈴を守りながら、カンショウもろともオポポニーチェを吹き飛ばす作戦だ。
 ドガッ!!
 命中。
 ところが、蹴散らせたのはカンショウだけ。理論的にはいるはずだったオポポニーチェの感触は不在だった。
「4時24分11秒。ネコチーム。真言立川流。観照。アウトー。真言立川流はこれで全滅となります」
「オポポポー」
 オポポニーチェの声が響きながら闇に溶けていく。
 カンショウとオポポニーチェの戦いは、わずか1分で終わりを迎えた。
ーーやばい。
 今度は自分が狙われる番だ。ギンジロウは離れて、あたりを警戒した。オポポニーチェはどこにもいない。
ーー逃したか。
 人の気配はない。構えをとき、岩と墓場の間に挟まって尻餅をついているカンショウを見る。ギンジロウのタックルに対して、受け身だけはかろうじてとれていたようだ。
ーーすまない。悪気はなかったんだ。
 ギンジロウはカンショウに頭を下げた。
ーーいいんだ。理由はわかる。
 カンショウは不気味な笑みでギンジロウを見つめた。舌が細長く、チロチロと動いている。
ーーチェッ。やっぱ少しも許されてないか。
 鋭い目つきを見ればわかる。
ーーどうせ嫌われるなら、今の攻撃で観照の鈴を奪っておけばよかったな。
 ギンジロウは少し拗ねた後、すぐに戦いに集中した。
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