第224話 イタリア大使館(3) Embassy
文字数 1,610文字
「クローピル!」娘が小人を呼ぶ。
小人は少女の元まで下がると、三メートル以上の巨人に膨んだ。
大きな口を開け、娘を一口で飲み込む。
ーーあっ!
黒い巨人が振り向く。巨人の口から、娘が顔を出している。
ーーなんだ?
巨人は、タンザと同じボクシングの構えをとって、ゆっくりと近づいてくる。
軽いジャブ。
タンザはガード。だが、たった一発で、腕の骨が折れた。
凄まじく重い一撃。
これ以上喰らえば、防御をしていても負けてしまう。
だが、今の一撃で、タンザは作戦を思いついた。
ーー攻撃のスピードは速ぇ。だが、捉えられないほどの速さじゃねえ。
黒い巨人は笑いながら、次の一撃を振り落とす。
ーー今!
タンザは両足を踏ん張り、地面にスーパーヴェローチェをかけた。その反動とひねりを利用。左腕でスーパーヴェローチェを放つ。
全ての力が左拳に凝縮させている。さらにカウンター。
威力は普通の三倍以上。
これが隠していた必殺の一撃。スーパーヴェローチェ・フルマックスだ。
タンザの勝負勘は、黒い巨人の胴体に深々と突き刺さった。
ーーやった。
と同時に、タンザの左腕に鈍痛が響く。
「ざーんねん♪」
黒い巨人の腹を突き破って、娘が出てくる。手には、日傘を広げている。
ーー日傘で遮られた、か。
大技には隙ができる。
その後に来る巨人の右フック。
タンザは、見切ることができなかった。
ズドォ。
骨と内臓が一気に砕けて潰れる。
タンザは吹き飛ばされ、豪快に倒れ伏した。
ーー立たなきゃ。俺が立たねぇと、みんなを守ることが出来ねぇ。
だが、心とは裏腹に、体が全く機能しない。
ーーう、動けねぇ。
視線の先には、腰を抜かして壁際に座り込むボルサリーノが見える。
ーー逃げろ!
タンザは目で指示をしたが、ボルサリーノは動かない。
ボルサリーノに、ゴスロリ少女が近づく。巨人は黒い小人に戻り、少女の肩に乗っている。
「どうだ? トマスはあったか?」ワシ鼻の御者が娘に尋ねる。
「んーん。この人たち、持ってないみたい♪」少女は、閉じた傘で、ボルサリーノの身体をまさぐりながら答える。
「ジョン。何か情報はないか?」御者は、後ろにいる郵便局員にも尋ねる。郵便局員、ジョン・パーマーは、空中でしきりに指を動かしている。
「あ!」何かを見つけたようだ。
「ご主人様。こんな情報を発見いたしました!」
ジョンは、空中で指をスライドさせ、一枚の紙を御者の目の前で停止させた。
「どれどれ」御者は、ソフトリーゼントをひと撫でして読む。
『勝者に贈られた護良親王の髑髏は、リリウス・ヌドリーナから真言立川流へと譲り渡されました。ただし、その所有者は、真言立川流ではなく、ダビデ王の騎士団となるそうです』
「なるほど」
ーーならば、ここには用がない。
御者は、娘に向かって言った。
「すまん。サオシュヤント。こいつらは勝ったが、トマスを譲ってしまったらしい」
サオシュヤントと呼ばれた小娘は、楽しそうにボルサリーノを傘で叩いていた。が、御者の話を聞いて、その攻撃をやめた。
「じゃ、そこ行く」
「案内はしたい。けど、そいつらと戦うのはまだ先なんだ。時が来るまで待っていてくれ」
「じゃ、帰る」
サオシュヤントは、体を振って返り血を払い、畳んだ日傘を振り回しながら、馬車へと戻った。大ヤコブも続いて乗り込む。
カランカラン。
ジョン・パーマーが鐘を鳴らす。
馬車はゆっくりと暗闇に溶けていき、やがて、イタリア大使館の中庭には、平常が戻っていた。
すぐに大使館職員が集まって来る。結界が解けたのだ。
「どうしたんだ!」
「大丈夫か?」
「すぐに救急車を!!」
ビンゴは完全に倒れている。ボルサリーノは逃げられなかったようだ。刀折れ、鼻折れ、小便漏れ、矢尽きている。
ーー仲間を……守れなかった……。
みんなの声を聞きながら、タンザは思った。
ーーちっ。錬金術、か。俺も覚えねぇと、な。
タンザは、ゆっくりと意識を失っていった。
小人は少女の元まで下がると、三メートル以上の巨人に膨んだ。
大きな口を開け、娘を一口で飲み込む。
ーーあっ!
黒い巨人が振り向く。巨人の口から、娘が顔を出している。
ーーなんだ?
巨人は、タンザと同じボクシングの構えをとって、ゆっくりと近づいてくる。
軽いジャブ。
タンザはガード。だが、たった一発で、腕の骨が折れた。
凄まじく重い一撃。
これ以上喰らえば、防御をしていても負けてしまう。
だが、今の一撃で、タンザは作戦を思いついた。
ーー攻撃のスピードは速ぇ。だが、捉えられないほどの速さじゃねえ。
黒い巨人は笑いながら、次の一撃を振り落とす。
ーー今!
タンザは両足を踏ん張り、地面にスーパーヴェローチェをかけた。その反動とひねりを利用。左腕でスーパーヴェローチェを放つ。
全ての力が左拳に凝縮させている。さらにカウンター。
威力は普通の三倍以上。
これが隠していた必殺の一撃。スーパーヴェローチェ・フルマックスだ。
タンザの勝負勘は、黒い巨人の胴体に深々と突き刺さった。
ーーやった。
と同時に、タンザの左腕に鈍痛が響く。
「ざーんねん♪」
黒い巨人の腹を突き破って、娘が出てくる。手には、日傘を広げている。
ーー日傘で遮られた、か。
大技には隙ができる。
その後に来る巨人の右フック。
タンザは、見切ることができなかった。
ズドォ。
骨と内臓が一気に砕けて潰れる。
タンザは吹き飛ばされ、豪快に倒れ伏した。
ーー立たなきゃ。俺が立たねぇと、みんなを守ることが出来ねぇ。
だが、心とは裏腹に、体が全く機能しない。
ーーう、動けねぇ。
視線の先には、腰を抜かして壁際に座り込むボルサリーノが見える。
ーー逃げろ!
タンザは目で指示をしたが、ボルサリーノは動かない。
ボルサリーノに、ゴスロリ少女が近づく。巨人は黒い小人に戻り、少女の肩に乗っている。
「どうだ? トマスはあったか?」ワシ鼻の御者が娘に尋ねる。
「んーん。この人たち、持ってないみたい♪」少女は、閉じた傘で、ボルサリーノの身体をまさぐりながら答える。
「ジョン。何か情報はないか?」御者は、後ろにいる郵便局員にも尋ねる。郵便局員、ジョン・パーマーは、空中でしきりに指を動かしている。
「あ!」何かを見つけたようだ。
「ご主人様。こんな情報を発見いたしました!」
ジョンは、空中で指をスライドさせ、一枚の紙を御者の目の前で停止させた。
「どれどれ」御者は、ソフトリーゼントをひと撫でして読む。
『勝者に贈られた護良親王の髑髏は、リリウス・ヌドリーナから真言立川流へと譲り渡されました。ただし、その所有者は、真言立川流ではなく、ダビデ王の騎士団となるそうです』
「なるほど」
ーーならば、ここには用がない。
御者は、娘に向かって言った。
「すまん。サオシュヤント。こいつらは勝ったが、トマスを譲ってしまったらしい」
サオシュヤントと呼ばれた小娘は、楽しそうにボルサリーノを傘で叩いていた。が、御者の話を聞いて、その攻撃をやめた。
「じゃ、そこ行く」
「案内はしたい。けど、そいつらと戦うのはまだ先なんだ。時が来るまで待っていてくれ」
「じゃ、帰る」
サオシュヤントは、体を振って返り血を払い、畳んだ日傘を振り回しながら、馬車へと戻った。大ヤコブも続いて乗り込む。
カランカラン。
ジョン・パーマーが鐘を鳴らす。
馬車はゆっくりと暗闇に溶けていき、やがて、イタリア大使館の中庭には、平常が戻っていた。
すぐに大使館職員が集まって来る。結界が解けたのだ。
「どうしたんだ!」
「大丈夫か?」
「すぐに救急車を!!」
ビンゴは完全に倒れている。ボルサリーノは逃げられなかったようだ。刀折れ、鼻折れ、小便漏れ、矢尽きている。
ーー仲間を……守れなかった……。
みんなの声を聞きながら、タンザは思った。
ーーちっ。錬金術、か。俺も覚えねぇと、な。
タンザは、ゆっくりと意識を失っていった。