第76話 休息(1) Rest

文字数 885文字

 1回戦が終わった東京ディズニーランドでは、各選手に向かって、スタッフが寄ってくる。
「おつかれさまでした。控え室までご案内いたします」黄色いドレスのお姫様だ。
 案内された金色のクラシックカーの運転席には、先ほどと同じように、大きな亀の着ぐるみが座っていた。
「カメ」サオリが指差す。
「はい。オル・メルと言う名前ですよ。そして私はベルです」ベルは、子供をあやすような口調で教えてくれた。
「ベル。オル・メル?」
「オルは、ハワイ語で涼やかな、という意味です。メロはメロディーから名付けられました。オル・メルは音楽が好きなんですよ」
「涼しい旋律」
「よくできました」
 サオリは褒められて調子に乗ったまま、オル・メルの隣に座った。後部座席にギンジロウ。少し遅れてアイゼンが座る。
ーー音楽好きなんだ……。アタピと一緒。
 車は動き出した。

 ノリノリ気分のサオリを乗せたクラシックカーは、ファンタジーランド・エリアのすぐ隣、トゥーンタウン・エリアにある、ロジャーラビットのカートゥーンスピンの隣に停車した。たった2分ほどの時間だ。
「ここでいいんですか?」アイゼンが早口でたずねる。
「はい。次の試合は2時6分です。1時45分に迎えに来ますので、こちらのラウンジでゆっくりとお休みください」
「わかりました」トイレにでも行きたいのだろうか。アイゼンは急いで車から飛び降る。そしてそのまま、ベルからの説明もそこそこに、どこかへと駆けていった。白猫のワヲンも後を追う。
ーー行っちゃった。
 サオリは、ポカンと口を開けたまま、係員の後についていった。
 ギンジロウは、サオリと2人になれたことは嬉しかった。だがそれよりも、1回戦で活躍できなかったことに悔いが残った。
ーー不甲斐なし! サオリに好きになってもらおうと思っていたのに。これじゃあ、ただ立っているだけの、鈴がついた棒と変わらないじゃないか。
 サオリのつぶらな視線も、自分にたいする憐れみのように感じる。今は浮かれる気分にはなれない。
「俺もちょっと、散歩してきます」
 ギンジロウも車を降り、自分の荷物から模擬刀を手に取ると、夜の闇へと消えていった。

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