第6話 戦略(2) Tactics

文字数 2,533文字

 ヤマナカは剣をしまい、自信たっぷりに言った。
「Death13を使おう」
 Death13はSSS級のドープ・ファンタジーで、13聖人の頭蓋骨で作られている。全てが揃えば、リアルとアルカディアを繋ぐワールドゲートが開かれる。
「Death13?」
「Death13か」
「確かにあれがあればアルカディアに行くことができる」
 円卓がざわつく。
「しかし、Death13は、先日のスカルデビル事件で世界各地に飛び散ってしまい、行方がわからなくなっているはずだ」
 ヤマナカは自信を失わない。
「ああ。けど、見つければいいだけだろ? ちなみに俺は、もう一つ見つけてるぜ」
「おお」
 円卓の間がどよめく。
「どこにあるんだ?」
「今はフリーメイソンリーの手にある」
 フリーメイソンリーとは、表向きはボランティア団体だが、裏では世界の行方を決めているイルミナティの下部組織として存在している。
「オイラ、そんなの聞いてないぞ?」
 フタバは高位フリーメイソンだ。重要な情報なら届くはずだ。
「なら調べてみろ。ザ・ゲームの、Cランク賞品に入っている」
 ザ・ゲームとは、フリーメイソンリーが組織の運営資金を稼ぐために定期的におこなっている裏世界の賭け事だ。A、B、Cのランクがある。
ーーCランク? そんなに価値の高いものが最低ランクのC? もし本当なら、それはオイラの情報検索網には引っかからない。
「プットー。調べてくれ」
「はーい」
 フタバのスマートフォンから小さな天使、プットーが飛び出し、すぐに情報を調べ始める。QPカルディアンのウイッシュだ。
「これ……かな?」
 プットーが情報を空中に映し出す。
 それは、まごうことなきドクロ、Death13だった。金色に光っている。
 ただし、賞品名は、護良親王のドクロ。説明も、「真言立川流の髑髏本尊。真言立川流は貴人のドクロを崇拝する宗教である。このドクロは貴人の中でも高位の人物のため、宗教的価値が高い。十年前に盗まれていたが先日見つけられ、フリーメイソンリーに届けられた。フリーメイソンリーは一億円で返却しようとしたが、それを拒否。よって、ザ・ゲームの賞品となった」と書かれている。
「これですか?」
「ああ。Death13、No.8トマス。俺は一度見たFは忘れない。間違いない」
 ダビデ王は、隣にいる大きく太った龍を見た。鑑定の名人、ドランクンだ。ドランクンは片眼鏡をかけて映像を見ている。
「私はまだDeath13を見たことがないし、これは映像なので確かではありません。ただ、DFであることは間違いありませんね」
 ヤマナカは「ほらな」、という顔をした。
ーーそういえば、KOKにはヤマナカというこんなに凄い策士がいたんだったな。彼に任せれば、オイラなんて必要ないんじゃないの?
「わかりました。では、こうやってひとつずつ集めていき、全て揃ったらワールドゲートを開き、KOKの精鋭とオイラでアルカディアに向かいましょう」
「いやいや。そう簡単にはいかねーんだわ、こりゃ」
 ヤマナカが甲高い早口で話を続ける。
「俺もどちらにせよDeath13を集めようと思っててな。ほら、Death13をKOKの管理下におかねーとやばいことになっちまうじゃん。それで、このNo.8トマスも、お金を払ってフリーメイソンリーから譲り受けようとしたんだわ。そうしたら、もうザ・ゲームの賞品として発表されているし、対戦相手の募集も始まっちまってるからダメだっつーのよ。始まりの一個めで、もう躓いちまった。カトゥーならなんの罪悪感もなく盗むんだろーが、俺はこう、心の臓がチーっと痛んでな」
 ヤマナカは少しも心が痛んでいない顔だ。だが、フタバのある言葉を待っている。フタバはその言葉がなにか、予想しながら話を続けた。
「ランクCのザ・ゲームなら、KOKのどなたが出場しても勝てるのではないですか? もし競技者に選出されないのでしたら、オイラの方から推薦しましょうか?」
「そうしてくれるのはありがてーがな。あいにく、世界の価値ランキングは、KOKに入団した時点で残念ながらBランクに昇格しちまうのさ。あんたもわかっているだろう? がんばって内縁から一人ぐらいはCランクの実力者を探し出せるとしても、今回のザ・ゲームは三人一組。とてもじゃねーが、探す時間がねぇ」
ーーあっ!
 KOKにはランクD以上の錬金術師しか入会できない。そのため、入会出来た時点でBランクに評価されてしまうのだった。失念だ。けれども、フタバにはまだ策があった。
「なるほど。ならば、うってつけの人物たちがいるじゃないですか。KOK相当の実力者で、しかも現在はKOKに入会していない人物がちょうど三人」
「ん?」
 ヤマナカは「誰だろう?」という顔をした後で気がついたようだ。
「なるほど。あいつらか。俺はKOKを辞めた奴に一人心当たりがあったが、お前が考えてる奴らの方が面白ぇな。なるほど。フタバ。テメェ、なかなかやるじゃねーか」
「いえいえ。お褒めに預かり、光栄です」
「カーカッカッカッカ」
 ヤマナカは笑ってどこかへ消えていった。ダビデ王は期待を込めてフタバを見つめた。
ーーやられた。オイラがこの策略を思いつくのを待っていたのか。
 フタバは、ヤマナカの頭の良さに脱帽しながら答えを話した。
「オイラ、ちょうど明日、彼らのうちの一人の試合を観に行く予定だったのです。そこで思いつきました。選手のスカウトはオイラに任せておいてください。ま、もちろん、ダビデ王にも手伝ってもらうことにはなりますが。なに、大した苦労ではありません」
ーーどんな選手かはわからないが、フタバだけでなく、ヤマナカも良い手だと言っているのだ。間違いはなかろう。
「わかった。良きにはからえ」
「はい。セバスチャン。トリュフ。この後、作戦会議だ」
ーーこれだからフタバ様についていくのは面白い。
「かしこまりましてございます」
「ニャー」
 フタバは傍観者らしく、ただ遠くから彼女の試合を眺めようと思っていたが、まさか自分が登場人物の一人に加えられるとは思いもしなかった。
「これだから人生は辞められない」
 フタバはニヤリと笑い、セバスチャン、トリュフと共にエレベーターフィッシュに乗り込んだ。 
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