第149話 黄金色的散歩(2) Golden Stroll

文字数 1,554文字

ーーS2ランクのアルキメスト! 山中さんより上? 人間価値Cランク? なんで? 出場しちゃダメー!
 サオリは疑問をもったが、2人の楽しそうな笑い声を聞いているうちにどうでもよくなってしまった。すでに4回戦。サイは投げられている。結果は変えられない。
ーーま……いっか。楽しいし。
 サオリもつられて笑った。ひとしきり笑った後、オポポニーチェはサオリを優しい目で見つめた。
「エスゼロさん。クマオさん」
ーーん?
 サオリとクマオも笑うのを止めてオポポニーチェを見る。
「お二人とも。黄金薔薇十字団に入団なさる気はなくて? いつでも歓迎いたしますわよ」サオリもこんなに笑った後だとオポポニーチェにたいする緊張感が薄れている。気軽に聞きたいことが口をついて出る。
「オポさんの黄金薔薇十字団て何するとこ?」
 オポポニーチェは真剣な顔をして答えた。
「私たち黄金薔薇十字団はね、錬金術や神秘学を通して人間自体をさらなる高みへと進化させる研究をしているのですよ」
「更なる高み?」抽象的すぎて意味がわからない。
「そう。更なる高み」オポポニーチェは月を見上げた後、視線をサオリに戻した。
「錬金術って知ってるわよね? 普通の金属を金に変成させる秘術」
ーーもちろん。
 サオリはうなづいた。オポポニーチェは話を続ける。
「昔は錬金術なんて嘘だったのよ。王様たちから金を巻き上げるための詐欺師たちの常套文句。今でいうテロメアやNFTのようなもの。けれども人間て凄いわね。最近では核分裂や核融合させることによって、理論的には金を作れるようになったの」
ーーへー。
「同じように人間自身も完全体に変性、つまり神になろうとあがき続けてきたの。その結果、目標を持ったことで進化が加速しているわ。オリンピック見てる?」
 サオリはうなづいた。
「毎回記録が更新されていくでしょ? 高みを目指すもの同士が集まって切磋琢磨する。すると限界を超えていける。これが人間の、種族としての存在すべき姿だと思うの」
 サオリは、こんなことを聞いたことがなかった。耳心地が新鮮だ。
ーー新しいこと。知りたい。
 興味がある。
「面白そ。でも……」
 頭にはカトゥーやダビデ王の顔が浮かぶ。
「アタピ、やっぱKOKに入りたい……」
 オポポニーチェは少し悲しい顔をした後で笑顔になった。
「エスゼロちゃんは若いものね。いいわ。とにかく後1戦、
お互い楽しみましょ。それで、もし闘いで心を通わせて同じ組織に入りたいと思ってくれたら、また私に声をかけてくださらない? いつでも歓迎しちゃうから」オポポニーチェはサオリにウインクをした。
ーーこんな面白い人だったんだ!
 サオリは興奮した。慣れないウインクを両目ともつぶりながら不器用に返す。
「沙織ー。凄いやないか! 黄金薔薇十字団のオポポニーチェ直々のお誘いとはさ」クマオが腰を叩く。
「でもアタピ、まだオポさんが凄い人て実感ない……」
「せいぜい派手なオカマてイメージしかない」シロピルがサオリの思いを補足する。
「オーポポポポポポポ。ま、今のところはね。だけどこの試合が終わる頃、沙織ちゃんも私に夢中になっているわよ」
 オポポニーチェはいつの間にかウエスタンリバー鉄道の駅のホームに戻っている。いつの間にか幻術を使われていたのだ。
「じゃあねん。オーポポポポポポ」
 サオリに手を振り、赤い鉄道に乗りこんでいった。
「あいつ、ワイのこと知っとるなんて見どころあんなー」
「僕たちの声も聞こえてたみたいね!」ピョーピルも興奮気味だ。
ーーあっ! そういえば!!
 サオリは考えたいことが山積みになった。
「最終戦の呼び出しまで残り40分です」
 思考を遮るようにアナウンスが聞こえる。
「アタピたちも帰ろ!」
「おう!」
 サオリはクマオの手を握り、一緒にラウンジへと戻っていった。
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