第131話 3回戦(12) Third Round

文字数 1,151文字

 亡霊は幻術だ。浄衣が当たってもすり抜ける。何の手応えもない。
 それでも自信を無くさず、カンレンはなおも浄衣を振り回した。
ーーむっ。
 細い糸を散らばせている左手に微妙な重みを感じる。
ーー左後方4メートル!
 カンレンは振り返り、投網のようにして浄衣を滑らせた。
ーーー捕らえたり!
 姿は見えないが、大きなモノを掴んだ感触がある。
 タコ坊主は、凧揚げでもしているかのように器用に浄衣を動かした。
 まっすぐに伸びていた浄衣が巻かれていく。
 10秒後。
 カンレンの足元には、浄衣でグルグル巻きにされたミイラが転がっていた。ミイラは悶えている。布がピッタリと張り付いているのでフォルムが丸わかりだ。
 男。
 胸には苺大福くらいの大きな出っ張り。
 鈴だろう。
 亡霊たちは狼狽えたが、敵討ちだとばかりに、恐ろしい形相でカンレンの筋肉質な体をすり抜けていく。もちろん、誰も触れることはできない。カンレン自身も、もはや幻覚を気にしてはいない。
「拙僧を侮ったのが貴殿の敗因だ」カンレンは、ミイラ巻きをされて悶えている男の鈴に手を伸ばした。
 その時、耳元で声がする。
「貴方の敗因も教えてください」
ーーちぃ!
 カンレンは背中に冷気を感じて裏拳を放った。誰もいない。ドゥームバギーに当たる。
 前方のドゥームバギーから一足飛びでカンショウが助けにくる。異変に気づいたのだ。
ーー我が拳足、刃となりて闇を断たん! 立川流八十八式戦闘術、不動明王刃!!
 手を槍のように尖らせ、カンレンの首の脇を鋭く突き刺す。
「残念」オポポニーチェはすんでのところでその一撃を躱した。
「オーポポポポ」手には鈴を持っている。
 オポポニーチェは笑いながら亡霊に紛れ、墓場の影へと消えていった。
「4時23分10秒。ネコチーム。真言立川流、観蓮。アウトー」
 アナウンスと同時に、ドゥームバギーは再び動き出す。
 軽快な音楽も微かに聞こえ始める。
「ちっ」
 カンショウは細心の注意を払いながら、ミイラのように巻き付いている法衣の上から鈴をつまんだ。悶えているだけ。さしたる抵抗もない。
 引っ張る。
 鈴は簡単に取れた。
「4時23分28秒。ネズミチーム。黄金薔薇十字団。フォー。アウトー」アナウンスが流れる。ミイラ男がフォーであるという確認が取れた。
ーーあと1人。オポポニーチェの尻尾を奪れば、ボルサリーノの鈴など容易に奪える。さすれば俺たちは一気に33ポイントを獲得出来る。優勝の目も出てくる。
 カンショウは自分を救ってくれた真言立川流のために恩返しがしたい。その思いでいっぱいだ。しかし、その高潔な心は誰にも分かってもらえない。外見が狡猾そうに見えるからだ。
 カンショウは元から細い目を更に細くさせ、意地悪そうな顔で舌なめずりをし、獲物を物色するかのように周囲を見回した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み