第165話 4回戦(8) Final Round

文字数 1,330文字

「撃てー!!」サオリは叫び、砲台のリズムに合わせて、宝の山で拾った黄金の壺や小箱を投げ始めた。軽くて小さいコインはクマオが投げる。何も持てないピョーピルたちは声を枯らして応援だ。もちろんクマオの力ではコインでも1メートルは飛ばない。だが、誰かがいるという確信をオポポニーチェに与えることには成功した。
 だが、サオリが持ってきたお宝の数は多くない。すぐに弾は尽きる。そしてオポポニーチェは、すでにサオリが攻撃しているバトーにはいない。さらに後ろのバトーへと避難している。逃げきれなかったフォーにはサオリの投げた骨や壺が当たっているが、オポポニーチェにとってそんなことはどうでもよかった。サオリと遊ぶことしか眼中になかった。
「オポポ。エスゼロちゃーん」
 サオリが攻撃してきた時、オポポニーチェの頭の中にはふたつの戦略が浮かんだ。
ひとつはサオリたちの立て篭もる要塞を攻め落とした後で、ゆっくりとアイゼンとタンザを狩り取る作戦。もうひとつはアイゼンとタンザを倒した後で、ゆっくりとサオリたち要塞軍と戦う作戦だ。
 戦略家として優れているアイゼン。芸術家として優れているサオリ。闘いたいのはどちらか。オポポニーチェは大いに悩んだ。
ーーだって、この子たちって、私の創造力を増大させてくれるんですもの。
 オポポニーチェは戦闘を芸術だと思っている。こんなにもレアな逸材たち。本当は両方とも、思う様堪能したい。だが、アイゼンを取ると要塞から離れてしまう。サオリを取るとアイゼンたちが離れてしまう。どちらかを取らなければならないとしたら……。 
ーー私はね、美味しいものは最後に取っておきたいタイプなのですよ。
 オポポニーチェは単身、アイゼンとタンザのいるバトーへと乗り込んだ。エリクシール・ポワゾンをただ使用すれば対戦相手を倒すことは容易い。透明になり、気配も消して鈴や尻尾を奪えばいい。だがそれをしないのは、オポポニーチェが単に美しくないと思っているからだ。
ーーオポポ。美しい戦闘が思いつきました。
 頭の中に思い浮かんだ創造は壮大な戦闘風景だ。エリクシール・ポワゾンを使用してこの想像を形にすると、確実に他のことには頭が回らない。でもやりたい。今しか作れない一枚の戦闘芸術を完成させたい。
 オポポニーチェは自分を透明化させたまま、バトーの端に腰を下ろした。じっくりと集中するためだ。しゃがむことによって不意の事故も防ぐことができる。
「オーッポッポッポッポ! 甦れ! 中世の大海賊たちよ!!
 要塞の向かいに浮かぶ海賊船に自分の幻像を出現させる。もちろん格好は海賊の親玉だ。船の上にはたくさんの海賊たちも出現させる。全員が武器を持ち、要塞に睨みをきかす。
「エスゼロちゃん。あなた方の死出への旅立ち、美しく彩って差し上げましょう」
 幻影オポポニーチェは右手を振り下ろす。海賊船からは次々と要塞に向かって砲弾が撃ち込まれる。小舟で要塞に近づき、城壁を登ってくるたくさんの海賊たちもいる。海賊の顔は全員オポポニーチェだ。
ーーわー、わー。大混乱。
 サオリは面白くて仕方がなかった。
「オーッポッポッポッ。楽しいパーチーですねー」
 幻影オポポニーチェは、オーケストラの指揮者のように腕を振った。
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