第182話 4回戦(25) Final Round

文字数 1,053文字

ーー当たった!
 しかし、このアイゼンの作戦には弱点もある。自らスーパー・ヴェローチェの力を利用したとはいえ、回転の勢いはすさまじい。自分の回る体をコントロールすることは出来るが、すぐには止められない。どんな技術を持ったスキーヤーでも、急斜面を上手く滑れても、急には止められない。それと同じだ。
 体の勢いを止められなければ回転は続く。縦回転しているので逆さまになる状態は避けられない。そのタイミング。尻尾がついたアイゼンの臀部は、隣にいるタンザの前に無防備に晒されることになる。
 ビンゴの鈴は3点。アイゼンの尻尾は5点。ビンゴの鈴を奪っても、自分の尻尾を奪われては意味がない。2点損をする。もちろんアイゼンはその対処法も考えていた。タンザにアイゼンを見る余裕をなくす。
 アイゼンの動きを見たギンジロウは、合わせてタンザに攻撃を仕掛けにいった。コンビネーションNo.5は位置の入れ替えではない。タイミングを合わせた同時攻撃だったのだ。
 タンザは足によるスーパー・ヴェローチェ。ギンジロウは防御無効の竹刀での一閃突き。両者は共に必殺技を持っている。実力も拮抗している。だが、おそらく勝負は一瞬で決まる。綻びのように小さな要因が、大きな結果の差を生み出すだろう。
 緊張の中での動き出し。
 機を掴むのは、待つことしかできなかったタンザではない。あらかじめ作戦を立てていたギンジロウだ。アイゼンに合わせて踏み込む。
 竹刀で鈴を奪うには、タンザの足が届く距離まで近づかなくてはならない。だが、スーパー・ヴェローチェを当てられたら一巻の終わりだ。1番良いことはタンザにスーパー・ヴェローチェを無駄撃ちさせることだ。ギンジロウは近づくフリをしてスピード重視の高速ちょっかいをかけた。いつでも避けられる距離に身を置いて的を絞らせない。攻撃箇所を散らし、本気の打突をしない。
ーーちぃ。
 タンザは歯噛みした。ギンジロウには隙がない。お遊びの剣道とは違う。速度のみだが、全ての攻撃がワナに見える。取って喰おうとすると最大のカウンターが待ち構えているようだ。竹刀を奪おうと手を伸ばすと、伸ばした手の甲を狙われる。他の攻撃も肘膝の関節や鎖骨や腰骨や金的など、攻撃を受け続けるとダメージの溜まっていく部位ばかりを狙ってくる。
ーーこの中の一撃からカウンターを狙う。
 アイゼンがビンゴに仕掛けた攻撃も気になる。だが、ビンゴには絶対の信頼を抱いている。負けることはないだろう。まずはギンジロウからだ。タンザはカウンターのタイミングを測っていた。
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