第180話 4回戦(23) Final Round

文字数 1,053文字

 払った動作に合わせ、目の前にいたアイゼンの姿が消える。フェアリーダンスと呼ばれる不規則な動きから、膝の力を抜いて瞬時に懐に潜る歩法。剣道大会の決勝で見せた動きだ。
 これは仙術ではない。アイゼン独自の技なので技名はまだ無いが、アイゼンはAwakenと呼んでいる。相手の目の前にいた妖精が突然消え、全ては夢だったと思わせるイメージから名付けたものだ。
 ビンゴは、この技のことをボルサリーノから聞いていた。だが、実際に体感してみると全く違う。本当にアイゼンがいなくなったのだ。
ーー左? 右? 下?
 ビンゴはアイゼンより60センチも身長が高い。上からの攻撃はないはずだ。だが、大きい分、死角も多い。
ーー見えねぇ。
 ビンゴは守るため、右腕は伸ばしたまま、左手を自分の鈴の下に戻した。鈴を握ってもよかったのだが、H2ファンタジーのスーパー・ヴェローチェは、ビンゴの両手の甲に内蔵されている。竹刀で突かれれば壊れてしまうかもしれない。
 それに、左手のひらを下に向けていれば、相手の姿を捉えた瞬間にスーパー・ヴェローチェを発動できる。溜めなく瞬時に発動できるところがスーパー・ヴェローチェの強みだ。
 ビンゴは、アイゼンの姿を視界の端に捉えた。
ーーやはり真下!
 身長が違うので、普通ならアイゼンの攻撃は鈴に届かない。だが、竹刀があれば届いてしまう。懐に潜り込まれ、下から竹刀を突き上げられたら、鈴を守るのは左手だけだ。
 そこそこの危機。だが、ビンゴは慌てない。歴戦の勇士の経験値と自信を持っている。
ーーSV。
 ビンゴは防御用の左手ではなく、突き出している右手の手首を折り曲げて、スーパー・ヴェローチェを発動した。標的はアイゼンの背中だ。一撃で尻尾を奪いにいく。
 大きな手のひらが唸りを上げてアイゼンの背後から襲いかかる。必殺技のスカッチ・ア・モスケ。日本語でいうハエ叩きだ。
 注意すべき点は、アイゼンの素早さである。ビンゴは破壊力重視の拳骨ではなく、捕獲重視の広範囲攻撃をとった。40センチはある手のひらをさらに大きく拡げ、左右に逃げられないようにする。しかも正面ではなく、背後からの攻撃。さしものアイゼンも避けられないだろう。
 そして、もし外した場合も問題ない。大きく避ければアイゼンはバランスを崩す。人間の構造上、さらに避けるには膝を曲げて溜めを作らなければならないが、それだけの時間を与える気はない。そのまま左手でスーパー・ヴェローチェを発動する。これならは、どんな策を弄しようとも逃げられない。
 完璧な二段構えだ。
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