第120話 3回戦(1) Third Round
文字数 2,319文字
サオリたち3人は、オル・メルの運転するクラシックカーに乗って、ホーンテッドマンションへと到着した。
大きなうすさびれた西洋風の館。音楽だけではない。雰囲気も不気味だ。庭の枯れ草は生えっぱなしで伸びている。真夜中だというのに、どこかでカラスの鳴き声が響く。
門に近づくと、既に他のチームは集まっていた。
オポポニーチェは映像で見た通り、ドラキュラの恰好をしている。フォーとシザーはゾンビの恰好だ。顔にこびりついた傷跡が、特殊メイクとは思えないほど精巧に作られている。
「ハロウィンみたい! 楽しい!!」キーピルがはしゃぐ。
ーーそ、ねー。
サオリもぶっきらぼうに同意した。
遠くからは、狼男、フランケン、ゴーゴン、半魚人、死神。その後ろには、緑の服のメイドさんが何人かやって来た。コウモリの形をしたカチューシャをつけている。
ーーわ。
顔には全く出さなかったが、サオリの楽しさはピークに達した。寝起きに仮装大会は楽しい。知らずに指がリズムを刻む。
ゴーゴンが蛇の髪の毛をかきあげ、女性にしては低い声を出した。
「皆様、よくぞ恐れずにお集まりいただけました。3回戦のホストをつとめさせていただくのは、私達怪物軍団と、私に仕える忠実なメイド達です」
メイドたちは、一斉にスカートの裾を少し持ち上げて挨拶をする。ギンジロウは可愛いと思い、少しデレデレとした。思春期なのだ。仕方がない。
ゴーゴンは続けた。
「それでは、ただいまより、3回戦を開始いたします。今回は、皆様にご了承いただいた通りの特別ルールです。もう一度おさらいしましょう」
後ろにいた死神が一歩前に出る。カメラマンの下にいるメイドの持つフリップを見ながらルールを説明する。アナウンサーのように良く通る声だ。
「3回戦、特別ルール。
一. ネズミチームはゴーストホストとして、4時6分に入場する。
一. 3組のネコチームは、5分遅れ、4時11分に入場する。案内の関係上、3チームは同時に入場する。
一. ネズミチーム以外の全てのチームは、最初の一周だけはアトラクション通りに進む事。
一. ドゥームバギーから2メートル以上、10秒以上離れてはいけない。
一. 一周回る間に全滅しなかった全てのネコチームには、無条件で20点が入る。
一. 一周回った時点でこの試合が終了しなかった場合、ネズミチームは無条件で敗北となる。
一. 更に3回戦の勝者には、ネズミチームが1周目で奪られなかった尻尾の全得点が授与される」
「以上です。何か質問はございませんか?」ゴーゴンは、化粧を塗りたくった白い顔で出場者を見回した。全員がうなづく。
「誰も異論がないようですね。それでは、ただいま時刻は午前4時4分。このまま試合を始めさせていただきます。ネズミチーム。前へ」
オポポニーチェは、ゾンビのように緩慢な動きをするフォーとシザーを付き従え、一番前まで歩いてきた。
勢いよく振り向き、参加者に向かって叫ぶ。
「オーッポッポッポッポッポ。私の名前はオポポニーチェ・フラテルニタティス! 今宵は世界で一番美しいこの私が、皆様方を心地よき地獄へとご招待いたしましょう!!! オーッポッポッポッポッ」
ゴーゴンは仕事をきちんとおこなうタイプのようだ。オポポニーチェを見ていない。じっと時計を見続けている。
「それでは始まります。5、4、3、2、1、ネズミチーム、スタートです」
「全く、かわいげのないゴーゴンさんねぇ。ドラキュラ伯爵様、お時間でございます、とか言ってくれればいいものを。まあいいわ。だって、いよいよ楽しい幽霊達との晩餐会が始まるんだもの。行くわよ。フォー。シザー」
「グルルルル」ゾンビに扮したフォーとシザーの2人は、ゆったりとした足取りでオポポニーチェの後に続いた。
「あんなにゆっくりじゃ、5分後にまだ入口付近でうろうろしてるんじゃない?」黄金薔薇十字団の後ろ姿を見ながら、シロピルがお茶目な顔をした。
ーー楽しみ。でもまだ、ちょと眠い。
「お肌のゴールデンタイム!」キーピルがサオリの頬をこする。
サオリがボーッとしながら黄金薔薇十字団の後ろ姿を追っていると、アイゼンが優しく肩を抱く。
「沙織。ちょっと待っててね」
何を待つのかは分からないが、サオリはうなづいた。アイゼンは、ギンジロウと共に真言立川流の3人に近づく。何やら話をしているようだ。
話が落ち着いたのだろう。すぐにサオリも呼ばれた。
ーーアタピ?
サオリが向かうと、真言立川流の3人が合掌して挨拶をする。サオリも真似して合掌した。
「エスゼロ。私たちは観蓮さん達と組む事になったの。よろしくね」
ーーまぁ、アイちゃんがそう決めたのなら。ついてくよ。
サオリはうなづいた。
ゴーゴンが厳かな声で言う。
「5分経ち、ゴーストホストの準備が整いました。それでは皆様。館の中へとご案内いたします」
「俺らから行くか」タンザは、堂々とゴーゴンの後ろについていく。
ネコチームは同時に入場する。とはいえ、本来ならばダビデ王の騎士団と真言立川流が先に入場するべきだ。だが、順番を無視して、リリウス・ヌドリーナが先に入っていく。
「いこーよー、沙織ー」アカピルが促す。
「レッツラゴー!」アオピルも調子がいい。
ーー行っていーかな?
アイゼンを見ると、よそ行きのおしとやかな笑みを浮かべてうなづく。
ーーやた。
目が覚めた。サオリは大きくうなづき、誘導してくれるコウモリカチューシャの小柄なメイドさんに続いて、館の中へと入っていった。キーピルが悪ふざけをして、メイドさんの腰に巻いた白いエプロンにぶら下がっている。
たくさん寝たので元気が有り余っている。サオリも何か悪戯をしたくてウズウズとしていた。
大きなうすさびれた西洋風の館。音楽だけではない。雰囲気も不気味だ。庭の枯れ草は生えっぱなしで伸びている。真夜中だというのに、どこかでカラスの鳴き声が響く。
門に近づくと、既に他のチームは集まっていた。
オポポニーチェは映像で見た通り、ドラキュラの恰好をしている。フォーとシザーはゾンビの恰好だ。顔にこびりついた傷跡が、特殊メイクとは思えないほど精巧に作られている。
「ハロウィンみたい! 楽しい!!」キーピルがはしゃぐ。
ーーそ、ねー。
サオリもぶっきらぼうに同意した。
遠くからは、狼男、フランケン、ゴーゴン、半魚人、死神。その後ろには、緑の服のメイドさんが何人かやって来た。コウモリの形をしたカチューシャをつけている。
ーーわ。
顔には全く出さなかったが、サオリの楽しさはピークに達した。寝起きに仮装大会は楽しい。知らずに指がリズムを刻む。
ゴーゴンが蛇の髪の毛をかきあげ、女性にしては低い声を出した。
「皆様、よくぞ恐れずにお集まりいただけました。3回戦のホストをつとめさせていただくのは、私達怪物軍団と、私に仕える忠実なメイド達です」
メイドたちは、一斉にスカートの裾を少し持ち上げて挨拶をする。ギンジロウは可愛いと思い、少しデレデレとした。思春期なのだ。仕方がない。
ゴーゴンは続けた。
「それでは、ただいまより、3回戦を開始いたします。今回は、皆様にご了承いただいた通りの特別ルールです。もう一度おさらいしましょう」
後ろにいた死神が一歩前に出る。カメラマンの下にいるメイドの持つフリップを見ながらルールを説明する。アナウンサーのように良く通る声だ。
「3回戦、特別ルール。
一. ネズミチームはゴーストホストとして、4時6分に入場する。
一. 3組のネコチームは、5分遅れ、4時11分に入場する。案内の関係上、3チームは同時に入場する。
一. ネズミチーム以外の全てのチームは、最初の一周だけはアトラクション通りに進む事。
一. ドゥームバギーから2メートル以上、10秒以上離れてはいけない。
一. 一周回る間に全滅しなかった全てのネコチームには、無条件で20点が入る。
一. 一周回った時点でこの試合が終了しなかった場合、ネズミチームは無条件で敗北となる。
一. 更に3回戦の勝者には、ネズミチームが1周目で奪られなかった尻尾の全得点が授与される」
「以上です。何か質問はございませんか?」ゴーゴンは、化粧を塗りたくった白い顔で出場者を見回した。全員がうなづく。
「誰も異論がないようですね。それでは、ただいま時刻は午前4時4分。このまま試合を始めさせていただきます。ネズミチーム。前へ」
オポポニーチェは、ゾンビのように緩慢な動きをするフォーとシザーを付き従え、一番前まで歩いてきた。
勢いよく振り向き、参加者に向かって叫ぶ。
「オーッポッポッポッポッポ。私の名前はオポポニーチェ・フラテルニタティス! 今宵は世界で一番美しいこの私が、皆様方を心地よき地獄へとご招待いたしましょう!!! オーッポッポッポッポッ」
ゴーゴンは仕事をきちんとおこなうタイプのようだ。オポポニーチェを見ていない。じっと時計を見続けている。
「それでは始まります。5、4、3、2、1、ネズミチーム、スタートです」
「全く、かわいげのないゴーゴンさんねぇ。ドラキュラ伯爵様、お時間でございます、とか言ってくれればいいものを。まあいいわ。だって、いよいよ楽しい幽霊達との晩餐会が始まるんだもの。行くわよ。フォー。シザー」
「グルルルル」ゾンビに扮したフォーとシザーの2人は、ゆったりとした足取りでオポポニーチェの後に続いた。
「あんなにゆっくりじゃ、5分後にまだ入口付近でうろうろしてるんじゃない?」黄金薔薇十字団の後ろ姿を見ながら、シロピルがお茶目な顔をした。
ーー楽しみ。でもまだ、ちょと眠い。
「お肌のゴールデンタイム!」キーピルがサオリの頬をこする。
サオリがボーッとしながら黄金薔薇十字団の後ろ姿を追っていると、アイゼンが優しく肩を抱く。
「沙織。ちょっと待っててね」
何を待つのかは分からないが、サオリはうなづいた。アイゼンは、ギンジロウと共に真言立川流の3人に近づく。何やら話をしているようだ。
話が落ち着いたのだろう。すぐにサオリも呼ばれた。
ーーアタピ?
サオリが向かうと、真言立川流の3人が合掌して挨拶をする。サオリも真似して合掌した。
「エスゼロ。私たちは観蓮さん達と組む事になったの。よろしくね」
ーーまぁ、アイちゃんがそう決めたのなら。ついてくよ。
サオリはうなづいた。
ゴーゴンが厳かな声で言う。
「5分経ち、ゴーストホストの準備が整いました。それでは皆様。館の中へとご案内いたします」
「俺らから行くか」タンザは、堂々とゴーゴンの後ろについていく。
ネコチームは同時に入場する。とはいえ、本来ならばダビデ王の騎士団と真言立川流が先に入場するべきだ。だが、順番を無視して、リリウス・ヌドリーナが先に入っていく。
「いこーよー、沙織ー」アカピルが促す。
「レッツラゴー!」アオピルも調子がいい。
ーー行っていーかな?
アイゼンを見ると、よそ行きのおしとやかな笑みを浮かべてうなづく。
ーーやた。
目が覚めた。サオリは大きくうなづき、誘導してくれるコウモリカチューシャの小柄なメイドさんに続いて、館の中へと入っていった。キーピルが悪ふざけをして、メイドさんの腰に巻いた白いエプロンにぶら下がっている。
たくさん寝たので元気が有り余っている。サオリも何か悪戯をしたくてウズウズとしていた。