第118話 VIPルームB(2) VIP Room B

文字数 1,596文字

「どうされました?」ラブリオラが尋ねる。 
「うむ。持ち込んだ武器の使用は禁止されている。GRCがFを使用している件、委員会に報告せねばなるまい」思い立ったら即行動するタイプだ。アルフレッドは内線の受話器に手をかけた。が、アントワネットが止める。両者は目を合わせた。アントワネットはアルフレッドに対して首を振った。
「それは難しいでしょう」
「何故だ?」アルフレッドは視線を逸らさない。
「Fの使用が禁じられれば、我々のH2も禁止されてしまうからです」
「H2は汎用型Fを目指してはいる。だが、まだFだとは認知されていないのだろう?」
「ええ。ですが、SVというH2は、武器であることは疑いようがございません。もしGRCのFが禁止されるのならば、我々のSVも訴えられてしまいます」
 アルフレッドは頭の回転がいい。すぐに言葉の意味がわかった。
 スーパー・ヴェローチェの使用を禁止されれば、今回の発表会では、ホープ・ファンタジー・ランクHの販売ができなくなる。遺伝子組み替え人間しか販売できないのであれば、宣伝効果は半減する。
ーーううむ……。
 アルフレッドはソファーへと戻った。
「ということは、次戦からは、オポポニーチェのFに注意しながら試合を続行せねばならぬのだな」唸りながら腕を組む。
ーーお披露目会と気軽に考えていたが、まさかCランクのザ・ゲームに錬金術師が出場しているとは。
 アルフレッドはここまで考えて、さらに疑問が湧いた。
「タンザたちは、あれがFだということに気づいておるのか?」
「いえ。気づいておりません。タンザたちは、錬金術がこの世に存在するということ自体を知りません」マルコが捕捉する。
「ならば、先ほど幻覚を体感した理由も理解できておらぬのだな?」
「分かっておりません。ですがタンザなら、黄金薔薇十字団という組織の特徴から、錬金術が本当に存在しているという事実まで到達する可能性が高い、と思います」タンザは体だけではない。頭の回転も優れている。だから自分の義兄弟なのだ。マルコは自信を持って断言した。
「錬金術だと認識できた? ならば何故、タンザはGRCのルール変更にむざむざと乗ったのだ? 危険だと認識できたのなら、避難するのが道理ではないのか?」アルフレッドはデュポン一族を背負っている。負ける可能性がある危険な賭けはしない。
 このまま普通のルールでいけば、リリウス・ヌドリーナが勝つ可能性が高かった。なのに、わざわざ、未知の危険に足を突っ込む。その気持ちが理解できなかった。
「おそれながら。タンザは、リリウス・ヌドリーナの代表としてこの試合に出場しております。この看板を背負った男は、逃げるという選択肢を選べません」マルコは、自分の胸に手を添えた。
「ならば、タンザは勝てるのだな?」アルフレッドは念を押した。
「勝てるかどうかではありません。勝つのです」礼儀は正しいが、マルコもアルフレッドにたいして一歩も引かない。義兄弟であるタンザとビンゴと一蓮托生。それだけの行持がある。
ーー決意は伝わった。
 この取引は、失敗しても大した打撃はない。損失はせいぜい10億ドルといったところだろう。研究し直して、さらに良い商品を作れば、簡単に取り戻せる額だ。
 科学者気質であるものの、アルフレッドもまた、誇り高い男が好きだった。
「それが聞ければ問題はない。私はこの勝負、リリウス・ヌドリーナに任せる。結果はどうでもいい。ただ、じっと見届けよう」
 アルフレッドは覚悟を決めた。さすがは現実世界に大きな影響を与えられるほどの力を持つデュポン家の現役経営者だ。この時のアルフレッドの顔つきは、世界のハゲの中で一番魅力的な顔だった。
ーーこれだから、この男を信用してしまうのだ。
 マルコは、自分以外の誰も信じないことにしている。だが、アルフレッドを見ていると、この男は同志にふさわしい、という感情がこみあげてきた。
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