第52話 ルール説明(4) Game Rules

文字数 2,023文字

 クリケットは気持ちよく説明を続けた。
「1回戦ごとに、勝利チームは500万円、MVPには100万円が進呈されます。また、優勝チームには5000万円と護良親王のドクロ、MVP選手には別に1000万円が進呈されます」
ーーお金もらえるんだ!
 初めて聞かされた情報にサオリは興奮した。こんなにもたくさんのお金があれば、ユザワヤや日暮里や世界堂で、服を作る生地や、アクセサリーを作るための光石も買える。ピーチーズにいつも迷惑をかけているから、一度くらいは奢りマックだってすることができる。
ーー普段は毎月1万円のお小遣いなのに! なんてロマンチ!
「唯一やった郵便局でのバイトなんて、ほとんど毎日働いても1ヶ月4万円だったのにね」アオピルが震える。
「場所が変われば常識が変わる」ミドピルが深くうなづく。
ーーうん。場所が変われば常識が変わる。アタピは今、それを深く実感してるよ。
 クロケットの説明は続く。
「次にルールです。ここであった出来事は、一切記録に残すことは禁止します。また、関係者以外の相手に情報を漏らすことも禁じます。戦闘終了の合図があるまで、参加者はTDLから出ることができません」
「手の甲にスタンプ押してもらってもダメかなー」キーピルは残念そうだ。
ーーお店やってたら出なくても楽しそうだよ。
 サオリは慰めた。まだ禁止事項が続いている。
「試合続行不可能な怪我を負った場合でも、選手の交代は認められません。ただし、生命の危機などの緊急事態に限り、審判の判断で、即時、医療班が介入いたします」
「こわー」
「鈴や尻尾を狩るためのありとあらゆる攻撃は……、認められます! ただし、あくまで狩るための攻撃のみです。それ以外のタイミングでの攻撃は全て認められません。過失、偶然にかかわらず、絶対に相手を殺してはなりません。ルールを破った場合は、その時点で試合を放棄してもらい、今後20年間、その悪質度に応じて、フリーメーソンリーが所属組織や関係者に様々な罰を執行します」
ーーじゃあ、大丈夫そうだね。
「でも、やる奴はいるんだろうなー」アオピルが心配そうだ。
「例えば、あの、横にいるヘビ坊主とかね」ピョレットが、目が合わないようにしながら小さく指差す。
ーーあ。あの人ならやるかも。
 そう思って参加者を見渡すと、全員がやりそうな気がする。サオリは気持ちが引き締まった。
「この30年間で、3件の悪質な、過失による死亡事故が起こりました。が、その全てのチームは解散を強制され、所属していた幹部は、例外なく、死体か植物人間となっております。お気をつけください。我々の組織力を舐めないほうがいい」クリケットは、出場選手を眺め回して続けた。
「ルールは以上です。他に緊急事態が起きたその時は、我々スタッフの指示に従ってください。よろしければ、それぞれのネコの、首輪の三日月部分に親指を押し付けください」
 巨大なマフィア2人は、後ろにいる通訳の話を聞いた後で、ニヤリと笑いながらサオリを見下ろし、サオリでもわかりやすいように英語で話しかけてきた。
「おいおい。気をつけなくちゃな。いつの間にか踏み潰して殺してしまいそうなやつもいやがるぜ」
「ふふ。アリンコのように、プチッといっちまいそうだ」
 仙術の基本は、絶対的なアファメーションだ。
ーー負けない!
 サオリは、一切の怯えを見せないで睨み返した。
「おお、怖い怖い」
 白いスーツを着たマフィア2人は笑いながら、それぞれの猫の首輪に、太くて長い親指を押しつけた。
 サオリも、チャタローの首輪に親指を押しつける。三日月だった首輪の模様が徐々に満月になっていく。サオリはダウンロードしているような不思議な感覚がし、ピロンという音が聞こえた時、はっきりと契約が終了したことがわかった。周りからも、次々と契約が完了した音が聞こえる。
「みなさん。契約はお済ませですね。実に結構。これで今回のザ・ゲーム、賭け事として成立いたしました。それではゲストのみなさまがた、ベットを開始してください! 第1試合のベットは、ただいまから深夜0時までとなっております!!
 クリケットは、カメラの先にいる客に向けて、賭け方の説明をする。説明を終えると、クリケットはサオリたちの方を向いた。
「我こそは絶対、と思いし3人の勇者たち! あなた方にはこれから、ネズミチームになる順番を決めるくじを引いていただきます。各チームのリーダー。前へ」
 言われて、タンザ、カンレン、オポポニーチェが前に出る。
ーーあ、アタピたち、誰がリーダーなんだろ?
ーー俺が2人を守ってみせる。
 ギンジロウが前に出ようとしたが、アイゼンが手で押さえ、じっと見つめる。
ーーわかったよ。
 ギンジロウは手を挙げて下がった。サオリも異存はない。
ーーさーて。
 いよいよ自信のある者同士による、四つ巴の戦いが始まる。この中の3チームは、朝には負けている。だが参加者は、誰1人として自分たちの勝利を疑っていなかった。
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