第179話 4回戦(22) Final Round

文字数 1,269文字

 話は15秒ほど前に戻る。アイゼンとギンジロウが先ほどお互いの立ち位置を入れ替えた時、ビンゴはこんなことを考えていた。
ーー単純な戦闘力では俺が一番強いとみたか。ラーガ・ラージャ。なかなか見所があるじゃねーか。
 アイゼンはダビデ王の騎士団のリーダーだ。単純なビンゴは、アイゼンが敵の中で1番強いと思っている。そのリーダーが、タンザではなく自分と闘うために位置を入れ替えたのだ。
ーーへっ。分かってるねぇ。
 幾多の強敵を蠅を叩くように潰してきたビンゴだ。自分よりも60センチも小さい少年少女を相手にすることは、一般人でいう猫と遊んでいるようなものだ。先ほどまでは気楽なものだった。
 だが、認められるとやる気が湧く。ビンゴは最大限に集中力が高まった。小刻みに不規則な動きを繰り返すアイゼンに対し、突き出した右手で照準を定める。
 アイゼンはこれを狙っていた。集中できる精神には限りがある。高い集中を維持するほど、ビンゴの精神は消耗されていく。その上、ビンゴの目を目掛けてポコポコと飛んでくる小さな財宝たち。
ーーちっ。鬱陶しい。
 10秒もたたずにビンゴの集中力が落ちはじめる。もともとビンゴは、試合に対するモチペーションが他の2人に比べて低かった。バチカン市国との繋がりはもちろん、デュポン家やP2との密約についても全く知らない。ただ戦いが好き。大好きなタンザに誘われた。リリウス・ヌドリーナを舐めた真言立川流に制裁を加えたい。ついでに日本を観光したい。それくらいの軽い思いで出場していた。つまり、目的はすでに達成している。
 そして、思慮深いタンザとは違い、極東の小さな黄色人が何をしようが、自分の敵にはならないとも思っている。自信家で単純な性格なのだ。
 さらにビンゴには、タンザが本気になるほどその相手を認めたくないという嫉妬心もある。かつてタンザと義兄弟になる前におこなった本気のタイマン勝負。大怪獣大激突のような激しい喧嘩。全力を尽くしてなお負けたが、心から敗北を認められたあの清々しさ。アイゼンをあの喧嘩の時のタンザ以上に強い敵であるとは、どうしても思いたくない。思い出を大事にしているのだ。
 このような原因により、ビンゴは自分の中では本気を出しているつもりだが、知らないうちに少しずつ集中力が削がれていったのである。
 サオリのちょっかいにも気にしないようにはしてきたが、相手にペシペシと叩かれ続けると、徐々にバカにされているように感じる。こんな屈辱を感じたことがない。男としてかっこ悪いという感じがする。
ーー鬱陶しい。
 一度イラ立つとどうしても止まらない。投げてくる方角を突き刺すように睨む。サオリと目が合う。サオリは口をニッとして、ビンゴに向かって真珠のネックレスを投げつけた。ネックレスはビンゴの伸ばしている手に向かって山なりに飛ぶ。この軌道だと、輪投げのようにしてビンゴの伸ばしている右腕に引っかかる。
ーー邪魔くせぇ。
 引っかかったところで戦いの支障にはならない。だが、自分の恥ずかしい姿が頭に浮かび、ビンゴはネックレスを手で払った。
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