第154話 VIPルームA VIP Room A

文字数 1,580文字

「起きてください」モクレンは女性信者の声で目が覚めた。いつのまにか眠っていたらしい。精力絶倫とはいえ老人だ。仕方ない。
「お、おお……」動きが緩慢だ。
「まもなくベットタイムが終了するそうです」
 部屋の入口を見ると、担当のラウンジガールが手を振っている。
ーー外人もええのぉ。
 モクレンはデレた顔で手を振り返した。
「今回は誰に賭けるんだい?」向かいのソファーで女性信者を抱いているレンネンが、やっと起きたかという顔でたずねる。
「誰だと思う?」モクレンは伸びをしながら聞き返した。
「あなたのことだから、どうせGRCを選ぶんだろ?」
「甘いな」モクレンは起こしてくれた女性を抱き寄せて頭を撫でた。
「わしぁ立川流の僧侶よ。この世界は女がいないと何も生み出されないことを知っておる。となりゃあ今度の試合、わしぁKOKに賭けるよ。おい」ラウンジガールに向かって手を挙げる。
「KOKに2万ドルじゃ。よろしく頼む」流暢な英語。ラウンジガールは笑顔で了承した。
「KOK!?」レンネンはおどける。
「勝ったら本部員全員でBBQでもしに行こうな」モクレンは気にせず、甘い声を女に投げかけている。
「6.66倍だからか?」レンネンは軽い感じでモクレンを皮肉った。モクレンの動きが止まる。
「お前、まだそこまでしか観られぬ器か?」真面目な目つきに変わる。
「今までの試合で、お前は何を見ていた? 弟子たちの葛藤をしっかと刮目せよ」
ーーこれは真面目なヤツだ。
 レンネンは女性を一度自分から離し、裸のままで正座した。
「すいません」モクレンは呆れたようにため息をついて話を続けた。
「観蓮。あいつは2回戦が終了した後、自分たちの勝利を捨てた。自分たちの勝利を諦め、女たちに救いを求めた。寂静も意志を汲み、KOKに鈴を渡していた。さぞかし無念であったろう」良い声で説法するように語る。
「だが観照は雑念が捨て切れていなかった。そして観蓮も、観照の気持ちを切り捨てることはできんかった。すぐに全ての鈴を彼女たちに渡すことはできなかった。その結果がこの醜態じゃ。もし観蓮の計算通りに素直に鈴を渡していたら、今頃KOKはGRCと24点差もない。たったの13点差じゃった」
 弟子の無念を思う気持ち、感情的な言葉に、部屋にいる全員が引き込まれている。ラウンジガールは日本語がわからないが、それでも良いことを言っている雰囲気は伝わっている。
「だが観照もバカじゃない。もう懲りたじゃろ。次はすぐに鈴を渡す。点数差は裏まで観ないと理解はできない。KOKはGRCと24点差に見えるが、わしぁらの9点が入るので15点差。さらにネズミチームのアドバンテージ。尻尾と鈴の点差が6点入る。つまり、実質の点差はわずか9点だ。たった9点。わしぁ、最後は弟子たちと女に賭けてみようと思う。この世界は女が救う。それが全てじゃ。お前ももっと、自分の弟子たちと女の頑張りを信じよ」
「は、ははぁ」レンネンはソファーからも降り、床に正座したまま深々と頭を下げた。
「拙僧の眼力不足であることを認めざるをえない。誠にすまなかった」涙ながらに謝罪する。素直だ。レンネンはすぐに立ち上がり、ラウンジガールに向かって英語で話した。
「追加だ! 拙僧もKOKに3万ドル賭ける!」すでに明るく元気な声。まるで子供のように素直な魅力がレンネンにはある。
「わ、私もおそれながら、1000ドルをKOKに賭けさせていただきたいのですが……よろしいですか?」千手丸が手を上げる。モクレンは目を丸くした後、嬉しそうな顔になった。
「おお! やってけやってけ!! ついでだ。楓。桔梗。皐月。おまえらにも1000ドルずつボーナスをやろう! みんなで女の勝利を祈ろうではないか!!
「はい!」
「ありがとうございます!!
「やったぁ」
 呵呵大笑。VIPルームAの雰囲気はいつでも和やかだった。
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