第49話 ルール説明(1) Game Rules
文字数 2,153文字
部屋の奥に、一筋のスポットライトが当たる。スポットライトの中から、小さな紳士がやってきた。後ろには、一列で行進する沢山の猫が続く。男は、部屋の真ん中にある一段高い台にのぼった。
「校長先生の挨拶みたい」キーピルがなんの緊張もなく指さす。
紳士は、サオリと同じくらいの身長で、四頭身だ。被り物でもしているのだろうか。顔は緑色で、目が大きい。体つきは細いが、お腹だけが丸い。青いシルクハットを被り、緑の燕尾服を羽織り、中には赤いジレを纏っている。少し派手だが、完璧な正装だ。
紳士の後ろに、大型スクリーンが引きだされる。
映像が映し出される。
ーーわ! 眩し!! 儚くて永久の眩し!!
目のチカチカを耐えながら画面を見る。
スクリーンには、大きな海外のカジノが映し出されていた。豪華なだけではない。かなり格も高そうだ。3階建ての帝国劇場のような作りで、お客も500人はいる。それぞれが赤いソファーに座り、ここの10倍以上もある巨大スクリーンの前で、お酒を飲みながら騒いでいる。巨大スクリーンに映っているのは、サオリたちだ。
「レディースアンドジェントルマン!」
小さな紳士がマイクで話す。お腹が丸いだけある。太く良く通る、最高に聞きやすい声だ。
「お互いの誇りをかけた闘い、ザ・ゲームへようこそぉ!」
薄暗い周りを見渡すと、テーブルについているお客さんは、全員、彼のほうを向いている。
ーーもしかして、対戦相手?
1つのテーブルには、白いスーツを着た大きすぎる2人の白人と、細くて小さな白人。
1つのテーブルには、モデルのような白人2人と、三つ編みを大量に下ろしている、目のぎょろぎょろとした中年の白人。
1つのテーブルには、坊主の日本人3人。
よく観察してみれば、どこも3人1組だ。
ーーアルキメストになってから異常なことが続いてたから、異常が普通になってるな。
よく考えたら、司会者の外見も人間じゃない。サオリは再度、自分の心を注意深くすることにした。
「司会は私、ザ・ゲーム日本支部責任者、ジミニー・クリケットです」
「マメおじさんだ!」サオリは小声で叫んだ。
ジミニー・クリケットとは、童話ピノキオに出てくる緑色のコオロギの名前だ。サオリは、親しみを込めてマメオジサンと呼んでいた。
「確かに似てる!」
「エンドウマメ!!」ピョーピルも口々に騒ぐ。
アイゼンは、サオリの声が聞こえて笑顔になった。
もちろん小声だったので、クリケットには聞こえていない。進行はかまわず進められる。
「事前にお伝えしていた通り、今回のゲームは、キャッチ・ザ・マウスとなります。ルールはご承知の通り。ネコ役とネズミ役に分かれた4チームが、4回戦で勝敗を競う、追いかけっこによる点の取り合いとなっております。だがしかし、ただそれだけでは、ゲストの皆様もご満足されないでしょう。そこで今回は、一風趣向を凝らしてみました。みなさん。後方にご注目ください」
サオリたちは後ろを向いた。紅いカーテンに覆われた壁。全ての参加者が後ろを振り向いた頃合いを見計らって、2メートルおきに立っていたウェイターが、一斉にカーテンを開ける。
大きな窓がたくさん並んでいる。
外は暗いが、部屋はもっと暗い。反射することもなく景色が見渡せる。ここは建物の2階だ。眼下には、たくさんの光るパラソルが開いている。
さらに遠くを見る。茂る緑と綺麗に舗装された道。そして、日本ではあまりお目にかかれない形の建物。全てが光に包まれている。そして、ひときわ光り輝く西洋風の城。
「あー!」ピョレットが叫んだ。
「ここ、ディズニーランドじゃねっ?」 シロピルが驚く。
「絶対そーだよ。あれ、シンデレラ城!」アオピルも夢中だ。
ピョーピルたちがざわめく。周りもざわついている。
ーーディズニーランド? アタピ、初めて来た。
ゴールデンウィークにピーチーズと行けなかった時から、ずっと行きたいと思っていたのだ。
ーーまっ、桃と一緒じゃないのは寂しいけど、ね。
サオリは嬉しくて小躍りしそうになった。実際ピョーピルたちは、サオリの頭の上で手を組んで、円をえがきながら小躍りしている。
クリケットは誇りたかそうな顔で、持っている傘を一回転させた。
「そう! 今回の試合場はここ、東京ディズニーランドで行われます! 競技名は、チェイス・ザ・マウス改め、チェイス・ザ・ミッキー! 怖れるドナルド野郎どもは、今すぐここから去れ! イかれたプルートどもは、ここに集え!」
先ほどまでの丁寧な口調とはうって変わって、熱量のある言葉だ。さぞかし練習したのだろう。
クリケットは英語で話しているので、各テーブルには通訳がついている。大きな白人のチームは、ゆっくりと立ち上がった。その後で、他のチームも立ち上がる。
「ドナルドってダックだよねー? チキンじゃないのにー?」ピョレットが悩む。
「ダックって、かわい子ちゃんて意味だっけ?」アオピルだ。
ーーアタピ、可愛いから帰らなきゃかなー?
「サオリー。どーすんのー?」キーピルがニヤつく。
ーーなーんてね。
サオリは、一番最後に椅子から立ち上がった。
ーーやるかって? キャナ ダック スイム?
サオリは決意をみなぎらせた。クリケットは背伸びをしながら、大げさに参加者を見回した。
「校長先生の挨拶みたい」キーピルがなんの緊張もなく指さす。
紳士は、サオリと同じくらいの身長で、四頭身だ。被り物でもしているのだろうか。顔は緑色で、目が大きい。体つきは細いが、お腹だけが丸い。青いシルクハットを被り、緑の燕尾服を羽織り、中には赤いジレを纏っている。少し派手だが、完璧な正装だ。
紳士の後ろに、大型スクリーンが引きだされる。
映像が映し出される。
ーーわ! 眩し!! 儚くて永久の眩し!!
目のチカチカを耐えながら画面を見る。
スクリーンには、大きな海外のカジノが映し出されていた。豪華なだけではない。かなり格も高そうだ。3階建ての帝国劇場のような作りで、お客も500人はいる。それぞれが赤いソファーに座り、ここの10倍以上もある巨大スクリーンの前で、お酒を飲みながら騒いでいる。巨大スクリーンに映っているのは、サオリたちだ。
「レディースアンドジェントルマン!」
小さな紳士がマイクで話す。お腹が丸いだけある。太く良く通る、最高に聞きやすい声だ。
「お互いの誇りをかけた闘い、ザ・ゲームへようこそぉ!」
薄暗い周りを見渡すと、テーブルについているお客さんは、全員、彼のほうを向いている。
ーーもしかして、対戦相手?
1つのテーブルには、白いスーツを着た大きすぎる2人の白人と、細くて小さな白人。
1つのテーブルには、モデルのような白人2人と、三つ編みを大量に下ろしている、目のぎょろぎょろとした中年の白人。
1つのテーブルには、坊主の日本人3人。
よく観察してみれば、どこも3人1組だ。
ーーアルキメストになってから異常なことが続いてたから、異常が普通になってるな。
よく考えたら、司会者の外見も人間じゃない。サオリは再度、自分の心を注意深くすることにした。
「司会は私、ザ・ゲーム日本支部責任者、ジミニー・クリケットです」
「マメおじさんだ!」サオリは小声で叫んだ。
ジミニー・クリケットとは、童話ピノキオに出てくる緑色のコオロギの名前だ。サオリは、親しみを込めてマメオジサンと呼んでいた。
「確かに似てる!」
「エンドウマメ!!」ピョーピルも口々に騒ぐ。
アイゼンは、サオリの声が聞こえて笑顔になった。
もちろん小声だったので、クリケットには聞こえていない。進行はかまわず進められる。
「事前にお伝えしていた通り、今回のゲームは、キャッチ・ザ・マウスとなります。ルールはご承知の通り。ネコ役とネズミ役に分かれた4チームが、4回戦で勝敗を競う、追いかけっこによる点の取り合いとなっております。だがしかし、ただそれだけでは、ゲストの皆様もご満足されないでしょう。そこで今回は、一風趣向を凝らしてみました。みなさん。後方にご注目ください」
サオリたちは後ろを向いた。紅いカーテンに覆われた壁。全ての参加者が後ろを振り向いた頃合いを見計らって、2メートルおきに立っていたウェイターが、一斉にカーテンを開ける。
大きな窓がたくさん並んでいる。
外は暗いが、部屋はもっと暗い。反射することもなく景色が見渡せる。ここは建物の2階だ。眼下には、たくさんの光るパラソルが開いている。
さらに遠くを見る。茂る緑と綺麗に舗装された道。そして、日本ではあまりお目にかかれない形の建物。全てが光に包まれている。そして、ひときわ光り輝く西洋風の城。
「あー!」ピョレットが叫んだ。
「ここ、ディズニーランドじゃねっ?」 シロピルが驚く。
「絶対そーだよ。あれ、シンデレラ城!」アオピルも夢中だ。
ピョーピルたちがざわめく。周りもざわついている。
ーーディズニーランド? アタピ、初めて来た。
ゴールデンウィークにピーチーズと行けなかった時から、ずっと行きたいと思っていたのだ。
ーーまっ、桃と一緒じゃないのは寂しいけど、ね。
サオリは嬉しくて小躍りしそうになった。実際ピョーピルたちは、サオリの頭の上で手を組んで、円をえがきながら小躍りしている。
クリケットは誇りたかそうな顔で、持っている傘を一回転させた。
「そう! 今回の試合場はここ、東京ディズニーランドで行われます! 競技名は、チェイス・ザ・マウス改め、チェイス・ザ・ミッキー! 怖れるドナルド野郎どもは、今すぐここから去れ! イかれたプルートどもは、ここに集え!」
先ほどまでの丁寧な口調とはうって変わって、熱量のある言葉だ。さぞかし練習したのだろう。
クリケットは英語で話しているので、各テーブルには通訳がついている。大きな白人のチームは、ゆっくりと立ち上がった。その後で、他のチームも立ち上がる。
「ドナルドってダックだよねー? チキンじゃないのにー?」ピョレットが悩む。
「ダックって、かわい子ちゃんて意味だっけ?」アオピルだ。
ーーアタピ、可愛いから帰らなきゃかなー?
「サオリー。どーすんのー?」キーピルがニヤつく。
ーーなーんてね。
サオリは、一番最後に椅子から立ち上がった。
ーーやるかって? キャナ ダック スイム?
サオリは決意をみなぎらせた。クリケットは背伸びをしながら、大げさに参加者を見回した。