第226話 イコン Icon
文字数 1,610文字
部活が終わり、軽めの仙術修行を終えて眠る。次の日には、朝五時に起きる。サオリは、いつもの時間感覚を完全に取り戻した。
今日はいよいよ、リアルカディアへと戻る日だ。ダビデ王の騎士団に任命される日でもある。朝の修行を終え、食事をとり、宿題を終わらせる。
お昼になった。ミハエルはどこかへ出かけているようだ。
ーーひっさびさんの、モッフモフん♪
サオリは、モフフローゼンやミドリに会えることが、嬉しくてたまらなかった。
ーーモフモフさんは、いつも紅茶飲んでるから……、たまには……、うん! あれにしよ!!
サオリは寛永堂に立ち寄り、銘菓『まろのおみた』と黒豆茶を手土産にした。
ーーちょと、買いすぎた。
クエスト屋のランぜに、溜まっている平和バトの羽を届けなくてはならない。コスモスアイデンティティのイラクサにも、自作のペンダントをあげたい。入団を後押ししてくれたフタバやヤマナカにも会いたい。ダビデ王と騎士団にも……。
そう思っていたら、いつの間にか、たくさん買っていたのだ。六箱のまろのおみたは、サオリの、他人への感謝が可視化された物、だといえよう。
サオリは、かさばる荷物をリュックに詰め、東京メソニックセンターまでの道のりを早歩きした。たった一日だが、足の調子は大分いい。歩きながらクマオやピョーピルと話ができれば最高なのだが、クマオもピョーピルも、昨日から眠ったままだ。
けど、やり切った後の散歩は、気持ちいい。
久しぶりの東京メソニックセンター。
入口でブザーを押す。
扉が開く。
イコンのステンドグラスの前。ワクワクする。
だが、行く前に、やることがある。ダビデの星への御礼だ。いつもイコンを自由に使わせてもらっているのに、全然、感謝の気持ちを表せていない。
サオリは、エントランスホールの奥にある受付に話をして、モーゼを呼び出してもらった。すぐにやってくる。
「おー。久しぶりだな。どうした?」この偉そうな態度が最初は気に食わなかったが、誰に対してでもこの態度なので、今では全く気にならない。
「これ」まろのおみたを突き出した。
「ん?」
「御礼」
「おー、ありがとう」
ーーみたらし団子か……。
モーゼは甘いものが嫌いだった。
ーーだが、マルネは和菓子が好きだったな。明日集まった時に開けよう。
モーゼは、ありがたく受け取った。
「今日からイコンが使えるのか?」
「うん。アタピ、KOKに入団できた」
「ギンから聞いたよ。アイゼンも昨晩来たし。ミハエルも復帰らしいな」
「う、うん」
ーーミハエルが復帰? 聞ーてない。
サオリは嬉しかったが、先に自分が知っていたかった。
「あの人は人格者だからな。なんで追放されたか分からなかったが、俺もすごく嬉しいぞ」
「禿同」サオリはリアルカディアに着いたら、まず、ミハエルに問い詰めようと心に決めた。
「そろそろ行くか?」モーゼは、時計を見ながら言った。仕事中に抜け出してくれたようだ。
「うん」サオリはうなづき、リュックを抱えた。
ステンドグラスの前に立つ。
「じゃ、またな」
サオリは親指を突き出した。
扉が閉まる。エントランスホールには自分しかいない。
ーープーちゃん。結界。
プットーを呼び、部屋に結界をかける。賢者の石にオーラを吹き込み、ステンドグラスに手を当てる。
「ダイバーダウン」サオリはつぶやいた。
その瞬間、景色が、ゆが……、まない。
いつも通りにダイバーダウンをしても、目の前は全く変わらない。
ーーあれ?
ギュッと手を押し付ける。
「ダイバーダウン!」
両手をつけてみる。全くイコンが作動しない。
ーーどして?
その時、サオリの脳裏には、オポポニーチェの言葉が思い浮かんだ。
「もし勝っても、貴方は二度と、リアルカディアへは戻れませんよ」
「オーポッポッポッポッポ」
「オーポッポッポッポッポ」
「オーポッポッポッポッポ」
頭の中で、オポポニーチェの高笑いが、何度も何度も、コダマのように響いていた。
今日はいよいよ、リアルカディアへと戻る日だ。ダビデ王の騎士団に任命される日でもある。朝の修行を終え、食事をとり、宿題を終わらせる。
お昼になった。ミハエルはどこかへ出かけているようだ。
ーーひっさびさんの、モッフモフん♪
サオリは、モフフローゼンやミドリに会えることが、嬉しくてたまらなかった。
ーーモフモフさんは、いつも紅茶飲んでるから……、たまには……、うん! あれにしよ!!
サオリは寛永堂に立ち寄り、銘菓『まろのおみた』と黒豆茶を手土産にした。
ーーちょと、買いすぎた。
クエスト屋のランぜに、溜まっている平和バトの羽を届けなくてはならない。コスモスアイデンティティのイラクサにも、自作のペンダントをあげたい。入団を後押ししてくれたフタバやヤマナカにも会いたい。ダビデ王と騎士団にも……。
そう思っていたら、いつの間にか、たくさん買っていたのだ。六箱のまろのおみたは、サオリの、他人への感謝が可視化された物、だといえよう。
サオリは、かさばる荷物をリュックに詰め、東京メソニックセンターまでの道のりを早歩きした。たった一日だが、足の調子は大分いい。歩きながらクマオやピョーピルと話ができれば最高なのだが、クマオもピョーピルも、昨日から眠ったままだ。
けど、やり切った後の散歩は、気持ちいい。
久しぶりの東京メソニックセンター。
入口でブザーを押す。
扉が開く。
イコンのステンドグラスの前。ワクワクする。
だが、行く前に、やることがある。ダビデの星への御礼だ。いつもイコンを自由に使わせてもらっているのに、全然、感謝の気持ちを表せていない。
サオリは、エントランスホールの奥にある受付に話をして、モーゼを呼び出してもらった。すぐにやってくる。
「おー。久しぶりだな。どうした?」この偉そうな態度が最初は気に食わなかったが、誰に対してでもこの態度なので、今では全く気にならない。
「これ」まろのおみたを突き出した。
「ん?」
「御礼」
「おー、ありがとう」
ーーみたらし団子か……。
モーゼは甘いものが嫌いだった。
ーーだが、マルネは和菓子が好きだったな。明日集まった時に開けよう。
モーゼは、ありがたく受け取った。
「今日からイコンが使えるのか?」
「うん。アタピ、KOKに入団できた」
「ギンから聞いたよ。アイゼンも昨晩来たし。ミハエルも復帰らしいな」
「う、うん」
ーーミハエルが復帰? 聞ーてない。
サオリは嬉しかったが、先に自分が知っていたかった。
「あの人は人格者だからな。なんで追放されたか分からなかったが、俺もすごく嬉しいぞ」
「禿同」サオリはリアルカディアに着いたら、まず、ミハエルに問い詰めようと心に決めた。
「そろそろ行くか?」モーゼは、時計を見ながら言った。仕事中に抜け出してくれたようだ。
「うん」サオリはうなづき、リュックを抱えた。
ステンドグラスの前に立つ。
「じゃ、またな」
サオリは親指を突き出した。
扉が閉まる。エントランスホールには自分しかいない。
ーープーちゃん。結界。
プットーを呼び、部屋に結界をかける。賢者の石にオーラを吹き込み、ステンドグラスに手を当てる。
「ダイバーダウン」サオリはつぶやいた。
その瞬間、景色が、ゆが……、まない。
いつも通りにダイバーダウンをしても、目の前は全く変わらない。
ーーあれ?
ギュッと手を押し付ける。
「ダイバーダウン!」
両手をつけてみる。全くイコンが作動しない。
ーーどして?
その時、サオリの脳裏には、オポポニーチェの言葉が思い浮かんだ。
「もし勝っても、貴方は二度と、リアルカディアへは戻れませんよ」
「オーポッポッポッポッポ」
「オーポッポッポッポッポ」
「オーポッポッポッポッポ」
頭の中で、オポポニーチェの高笑いが、何度も何度も、コダマのように響いていた。