第178話 4回戦(21) Final Round

文字数 1,175文字

 タンザに向かってギンジロウがスリ足でにじり寄る。普段は調子に乗ったただのアジアの小僧に見えた。だが、相対するとよく分かる。さすがは元ダビデ王の騎士団だ。隙がない。かなりの実力者だ。戦闘力だけを見ればアイゼンよりもかなり高い。
ーーこいつが隠し玉だったか。奇をてらって位置を変えたわけじゃねーんだな。
 さらにギンジロウの隣には、アイゼンが小刻みに飛び跳ねている。動きに変化をつけ、中心をずらして狙いを定めさせない動き。妖精の舞踏だ。こちらも突然、タンザに目標を変える可能性がある。かといって、タンザから攻めれば逃げられるので、完全に受身状態だ。
ーー気が抜けねぇ。
 横から小さな塊が飛んできた。
ーー何だ?
 タンザとビンゴは軽く首を捻って避けた。
 同時にギンジロウとアイゼンが攻撃態勢に入る。
ーー間が悪ぃ。
 タンザとビンゴは現状を把握するため、いったん後ろに下がった。
ーーなんでヤンスか?
 タンザとビンゴは目の前の敵から視線を外せない。代わりにボルサリーノが、小物が飛んでくる方向を確認した。
ーーやはりお嬢ちゃんでヤンしたか。
 橋の下の少し離れた場所から、サオリが小物を投げている姿が見える。彼女の足元にはいくつかの宝箱。海賊たちが街からかき集めてきたお宝だ。
 サオリは、その宝箱から取り出した宝石や、近くに置いてある海賊たちの小道具を惜しげもなく投げている。オポポニーチェ戦で、この戦法に味をしめたのだろう。
 早いスピード。
 遅いスピード。
 たくさん。
 少なめ。
 山なり。
 直球。
 照準を合わせるのが上手い。少しも痛くはないが、正確にタンザやビンゴの顔や目に向かって飛んでくる。しかも絶妙な規則感のなさが、2人の集中力を削いでいく。エリアは略奪されたお宝だらけだ。まだまだ投げる物は無くならない。
ーー手で払った方が良いでヤンスか。それとも鈴を守った方が良いでヤンスか。
 耐久力には絶対の自信を持っているタンザもビンゴは、目の前の敵に全力を注ぐようだ。確かにこのゲームは、鈴を奪われさえしなければ負けはない。
ーーよし。アッシも鈴を守るでヤンス。
 ボルサリーノもサオリの遠距離攻撃は気にしないようにし、改めて両腕でタンザの首にしがみつく。だが、気にしないように思っていること自体がすでに気になっている証拠だ。ついついサオリの動きを横目で追ってしまう。
ーー見てる。
 サオリはウ・インクをしたり、クマのぬいぐるみに手を振らせたりしてみた。
ーーか、可愛いでヤンスー。
 ボルサリーノは思わず見惚れてしまった。デレると力が緩む。興味を持つと気が削がれる。ボルサリーノは少しだけサオリのいる左下へと目線を傾けた。
ーー死角ができた!
 ボルサリーノの右側でビンゴと対峙していたアイゼンは、独特のステップでボルサリーノの死角へと侵入し、そのままビンゴへと攻撃を仕掛けにいった。
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