第80話 勝敗予想 Prediction

文字数 2,136文字

 クーは乗り出していた体を起こした。
「どうでしたか? お2人とも。今回のステージ、どこのチームに有利だと思いますか?」
「ふむう」背もたれに寄りかかっていたマックス・ビーは、そのままのゆったりとした姿勢で質問に返す。
「戦略によって、有利不利は大きく変わるな」
「うんうん」椅子の上で体育座りをしながら、フタバもうなづく。多動症なので仕方がない。
「それでは順番にお伺いいたしましょう。まずはマックス・ビー。今回の試合展開はいかがですか? 予想する勝利チームと、MVPとと共にお答えください」
 客は、解説席でどのような予想がなされるのか、興味津々という顔で2階を見上げている。マックス・ビーは、観客の視線を楽しみながらゆっくりと答えた。
「うん。そうだな。2回戦もヌドランゲタが勝つ、と予想しよう」
「それはなぜですか?」
「やはり、1回戦のあの戦闘力だ。しかも、今回は複雑なステージとはいえ、最初にスタートするのがヌドランゲタだ。入口で待っていれば、対戦相手は5分間、必ずヌドランゲタと戦わなければならない。体力的に3連戦がキツければ、10エリアの出口付近は一本道だ。そこで敵を待てば、背後から奇襲を受ける心配もない。まだ実力が全く分からないGRCも気にはなっているが、単純な戦闘力で彼らより強いということはないだろう。体格は力、だからな」
「他の2チームはどうですか?」
「KOKは女子供のチームだ。話にならない。ケガをしないように祈るだけだ。真言立川流は、1回戦のダメージと戦略次第かな。エリア4の森や、7の夢の中で敵を待ち伏せすれば、後ろから1人ずつ狩っていけるかもしれない」
「ということは、勝敗予測は?」
「1位から順番に、ヌドランゲタ、GRC、真言立川流、KOKとしよう。MVPは、今回もタンザかな」
 客がざわめく。書き込みをしたり、執事に何かを持たせたりと様々だ。超一流の闘技者の言葉には説得力がある。
「なるほど。それでは、フタバさんはいかがですか?」
「おいら?」フタバは驚いたような顔をした後、ニコニコとして話を続けた。
「聞くまでもない。終始一貫して、KOKが勝つと思ってるよ」
 客がざわつく。あいつは闘技者じゃねーからな、という声も聞こえる。
「しかし、KOKは、1回戦で何もできませんでしたよ? フタバさんが必ず勝つと言い切る、その根拠はなんなんですか?」クーが客の気持ちを代弁する。
 ヒナも、なぜフタバがそこまで自信を持っているのか分からなかった。
ーー身を乗り出して話を聞いてみたい。
 階下の客に笑顔で手を振りながら、ヒナは解説に耳をそば立てた。
「そりゃ、オイラの紹介だからね。みんなの目で確かめてもらいたいんだよ」フタバは、細い目でお茶目にウインクをした。
「俺はお前に賭けるぞー!」階下で客が、フタバに拳を突き上げる。
ーー私も! エスゼロちゃんたちに賭ける。
 ヒナは、グッと拳を握りしめた。
「ありがと」フタバは客に手をふり返した後、クーに言葉を追加した。
「ただ1つだけ。もし2回戦もヌドランゲタが快勝したら、もう流れは変えられないかもしれない、とも思ってるよ」
「ということは、2回戦が天王山といっても過言ではない。そういうことですね」
 フタバがうなづく。
「他の2チームはどうですか?」
「マックス・ビーの言う通りだと思う。実力未知数のGRCは分からない。真言立川流は優勝に黄色信号が灯り始めたが、そうはいってもまだ19点差。これから十分取り返せる点差だよ。倍率はかなり落ちるだろうから、大穴狙いとして賭けてみてもいいと思う」
「ということは、予想順位は?」
「1位から、KOK、ヌドランゲタ、GRC、真言立川流かな」
「KOK以外の順位は全て一緒ですね」
「現状だとこうならざるを得ないだろう。誰かが女子供のチームを猛プッシュしているが、彼には、何らかの裏取引や儲けが存在しているんだろうな」マックス・ビーが手を広げて、フタバに皮肉を言う。
「とんでもない。おいら、ただ、彼らのファンてだけさ! 金なんてこれ以上いらない。美しい光景をひとつでも多く網膜に焼き付けたい。そのために生きているんだ。そして、エスゼロは必ずやってくれる! そう信じてる!!
ーーうんうん。
 ヒナも同じ気持ちになってうなづいた。
 ダイナソンが1階で、客の声を聞いて回っている。クーは様子を見ながら、解説を一度締める事にした。
「なるほど。マックス・ビーの予想通り、1回戦で真言立川流を完膚なきまでに叩きつぶしたリリウス・ヌドリーナが、2回戦ではさらに他チームを蹂躙し、ダニエレ・ヌドリーナここにありと知らしめるのか! それとも、それを押さえるチームが果たして出現するのか! 真言立川流の逆襲はあるのか? 不気味な黄金薔薇十字団がいよいよベールを脱ぐのか? フタバさんが推薦するダビデ王の騎士団が活躍するのか? さあ。注目の2回戦が始まるのは、日本時間の2時6分、こちらでは7時6分から! 最終ベットは2時までです!! みなさんに、月の女神ヒナのご加護がありますように」
 クーは大きく手を広げ、お客さんに向けてアピールをした。
 ヒナも慌てて、心の中に月の女神らしさを取り戻し、優しい顔で、優雅に小さく手を振った。
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