第176話 4回戦(19) Final Round

文字数 1,077文字

 たった2分の準備時間だ。激突までは後40秒もない。
「ボル」タンザはボルサリーノを呼んだ。
ーー必勝の策でもあるんでヤンスかねぇ。
 普段は「近くに来い」と言われることがない。躊躇したいが時間もない。ボルサリーノは震える体を必死に前に進めた。
ーー遅ぇ。
 タンザはボルサリーノをグイと引き寄せた。
ーーヒェ。
「ボル。俺の鈴を取られないように押さえておくんだ」タンザはアイゼンたちから目を逸らさない。
「えっ、え?」怒られるわけではなかった。タンザは、わからねぇ奴だなという顔をして続けた。
「俺の背中に乗れ。首に腕を回し、後ろから俺の鈴を押さえろ。そうすれば物理的に誰も俺の鈴には触れられねぇ。ボルも俺の背中に密着しろ。そうすればお前も鈴を奪われねぇ。奴らがどんな策略を使おうが、鈴を奪られなけりゃ後は純粋な戦闘だ。純粋な戦闘なら、俺たちは負けねぇ」
「そんなことないわよ」2人の会話にアイゼンが強い声で割って入る。恐ろしいほどに美しい笑顔だ。
ーーイタリア語で話していたのに分かるんでヤンスか!
 ボルサリーノは驚いた顔をした。
「私たちが時間終了まで逃げきる作戦を取れば、55対53でKOKの勝利でしょ?」
「フン。そんな手を打つのか? それならば、お前はそのくらいの女だったと落胆して終わろう。それだけのことだ」タンザは笑った。
「私は勝つためなら、どんな手を使うことも厭わない。知ってるでしょ?」アイゼンも言い放つ。
 タンザはアイゼンから目をそらさない。両者ともに真剣だ。
「クライマックスまで10秒前!」
 ジョニー・デップがカウントを始める。
 もう時は止まらない。
 ポイント・オブ・ノー・リターンだ。
 アイゼンは体の力を緩め、ゆっくり竹刀を持ち上げた。
 臨戦態勢。
 先ほどああは言ったが、もちろんアイゼンにも逃げる気はない。タンザも知っている。足の幅を広げて腰を落とす。
「ラーガ・ラージャ。俺はお前に一切の油断はしねぇ。なんせ、気づけば武器まで持って俺らの前に立ちはだかっているんだからな。だが、お前が強敵だということ以上に、俺は自分とビンゴの強さを信じている」
「兄弟」ビンゴが腕まくりをし、腕の試運転を開始する。
「ぶちかませよ」
「おう!」
「3」
 ビンゴの攻撃範囲は広い。アイゼンは軽く笑って間を取った。
「2」
 橋の左右で2対2の構図。タンザの前にはアイゼン。ビンゴの前にはギンジロウ。お互いの距離は約4メートル。
「1」
 サオリは建物の影から飛び出し、ネズミのように素早く橋の下へと移動を開始した。
「スタート!!
 戦士たちは一斉に動き出す。
 いよいよ決戦がはじまった。
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