第62話 試合開始 Start

文字数 1,090文字

「0時です! お時間がやってまいりました。泣いても笑っても後6分。みなさん、試合場にお入りください」
 それぞれについているお姫様の案内で、東西南北4方向に各チームが立つ。サオリたちも前に進む。
 それぞれの後方には、古めかしいローブを着たフリーメイソンがやってきた。彼らは、抱えている雪だるまのようなオブジェを地面に置いた。
 全選手がアトラクションに入ったことを確認すると、男たちは、銀色の雪だるまに両手を触れる。
 キュゥゥゥゥン。
 雪だるまが小動物のように唸り、互いに共鳴する。空間が仕切られていく感覚。
ーー結界みたい!
 サオリは、久しぶりに見たファンタジーに興奮した。ファンタジーは、錬金術師にしか使えない魔法の道具だ。
 雪だるまのようなファンタジーは、胴体から頭だけが離れ、ゆっくりと真上に上がっていく。10メートルほどで頭は上昇をやめ、空中に浮かんだまま固定された。これで、頭と胴体で作られた立方体の空間が出来上がった。
「宝具フォースダルマースにより、このアトラクションの中は、時間を巻き戻せる空間になりました。参加者がどれほどアトラクションを破壊してしまっても、試合が終われば元どおりになります。安心して戦ってください。ただし、生物は一切時間が巻き戻ることがありません! くれぐれも、怪我にはご注意を!」
 クリケットは、大きなシルクハットを大袈裟に振った。
 先程までClub33にいたスタッフたちは30人以上、遠くからアトラクションを囲っている。事故が起きた時には助けてくれるのだろう。
 ステージの真ん中に置かれた巨大ポットの蓋が開き、中から1匹のネズミが現れた。マーチングバンドの指揮者の格好をしている。
「こんばんはー。ここからはオイラが審判だー。ドーマウスだドーン。過去に幾度もTDLでチェイス・ザ・マウスがおこなわれたけんど、一度もアリスのティーパーティが使用されたことはなかったドーン。オイラ、張り切ってるんだドーン。よろしくなー」ドーマウスは、小さなピストルを持って手を振った。
「それでは、まもなく、0時6分になるドーン。お待たせいたしたーン。キャッチ・ザ・ミッキー! モリナガドクロナイト! いよいよスタートだ、ドーン! ネズミチーム! 真言立川流! 試合場に、ドーンぞー!!」ドーマウスは、手に持ったピストルを1回、真上に向けて撃ち鳴らした。
 パーン。
 乾いた音がする。
ーー始まったか。
 指を鳴らし、ゆっくりと歩を進めるカンレン。静かな顔のジャクジョウ、下卑た笑顔のカンショウ。3人が順番に、アリスのティーカップへと入っていく。
 いよいよ1回戦が開始された。
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