第128話 3回戦(9) Third Round
文字数 1,713文字
第4エリアは長い。
扉の先にも暗い廊下が続く。
アナウンスが聞こえる。
「この廊下はどこまで続くのか。私にもわからない。凍るような寒さになったり、焼け付くような暑さになったり、嬉しいくらい住みにくい。しーっ。ほら、聞こえるでしょう? 亡霊達の声が」
確かに、あちこちから悲鳴やうなり声がする。右側にも、1本の長い廊下が伸びている。どこまで続いているのか分からないほど長い。左右に無数の扉が並んでいる。
「沙織ー。あれ、どこまで続いてるのか、見に行っていーい?」アカピルの鼻息が荒い。
「いいけど……置いてっちゃうよ」サオリが言う。
「じゃあ……いい……」アカピルは残念そうだ。
サオリも本当は気にはなっている。だが、ドゥームバギーから遠くに離れてはいけない、というルールがある。
ーー我慢。
クマオを見ると、なんだか含みのある顔をしている。サオリも行きたいことがバレている様だ。
「仕方ないねー」アオビルが慰める。
「あれで遊ぼー」キーピルが指さす。
ーーあれ?
柱時計だ。12時ではなく13時まである文字盤。高速で針が逆回転している。これなら置いていかれることもない。ピョーピルたちは、針にぶら下がってキャッキャと遊んでいた。見ていて微笑ましい。
ーーん?
こんな時でも注意力は切らさない。サオリは聞き耳を立てた。
ーー遠くから女性の声? しかも、英語で変なこと言ってる。
「蛇さん、クモさん、ネズミの尻尾。あの世から死者を呼び戻す。机を叩け。応えよ魂。今こそ送れよメッセージ」
ーー呪文?
長かった通路を抜ける。
大きな部屋だ。
真ん中には小さな机。上には水晶玉が置かれている。空中にはタロットカードが何十枚も浮かび、ただ、ゆらゆらと漂っている。どういう仕組みなのかは分からない。
天井付近にある巨大な天窓からは、闇夜に浮かぶ三日月が、サオリたちを覗いていた。
「ザ・ゲームのために、この世に来た小鬼たちよ。ゾンビたちよ。タンバリンの音色と共に、死者の魂を呼び覚ませ」
先ほどから聞こえてくる呪文の声は、どうやら水晶玉から聞こえてくるようだ。
「昆虫達と、沼地のカエル。共に奏でよ、音楽を」水晶玉には髪の長い女性の顔が映っている。彼女が呪文を唱えているのだ。
ーーだーれー?
水晶玉に映る女性の顔を正面から見られる位置まで、ドゥームバギーはゆっくりと流れていく。
サオリは、その女性の顔を見た。
暗い水晶玉に、髪の長い、顔立ちの整った美女……。
「アイちゃん!!!」
サオリとピョーピルとクマオは、同時に叫んだり思ったりした。
振り返り、アイゼンの乗っているドゥームバギーを見る。
アイゼンの乗るドゥームバギーからは後ろにある。水晶玉がまだ見にくい。
ゆえに気づくのは、サオリよりも少し遅かった。
ーー水晶玉に映っているのは私! 既に幻術にハマってる!!
アイゼンは自分の鈴をしっかりと押さえた。
だが、時すでに遅く、その手は虚しく自分の喉をつかむだけだった。
「黒魔術師とシャーマンたちは、お前がどこに逃げようと、霊の力を教えるだろう。ほら、このように。ベルを鳴らして」
チンチラチンチラチンチラチンチラリン。
ーー鈴の音。
アイゼンの後ろのドゥームバギーには、いつの間にかオポポニーチェが座っていた。片足を組み、ウインクをする。
オポポニーチェは奪ったばかりの鈴をつまみ、挑発的な表情でリンリンと鳴らしていた。
ーー水晶玉に自分の顔が映ったことに動揺した。人は自分に一番関心を持つ。わかっていたのに防げなかった。
「4時20分41秒。ネコチーム。ダビデ王の騎士団。ラーガ・ラージャ。アウトー」
アイゼンは自分に落胆した。だが、毅然とした態度は崩さない。
この戦いは、世界の権力者たちが見ているのだ。自分の商品価値を落とすような行動をとってはならない。それがカリスマ性を作り上げる。
メイドがアイゼンを迎えに来る。
ーー迎えに来られずとも自分から出ていく。敗者は戦場にいる資格すらない。そんなことは分かっている。
サオリからの視線が熱い。だが視線は合わせない。ただ左腕を地面と平行に伸ばし、親指を立て、ウインクを左右一度ずつ。それだけで非常口へと向かっていった。
扉の先にも暗い廊下が続く。
アナウンスが聞こえる。
「この廊下はどこまで続くのか。私にもわからない。凍るような寒さになったり、焼け付くような暑さになったり、嬉しいくらい住みにくい。しーっ。ほら、聞こえるでしょう? 亡霊達の声が」
確かに、あちこちから悲鳴やうなり声がする。右側にも、1本の長い廊下が伸びている。どこまで続いているのか分からないほど長い。左右に無数の扉が並んでいる。
「沙織ー。あれ、どこまで続いてるのか、見に行っていーい?」アカピルの鼻息が荒い。
「いいけど……置いてっちゃうよ」サオリが言う。
「じゃあ……いい……」アカピルは残念そうだ。
サオリも本当は気にはなっている。だが、ドゥームバギーから遠くに離れてはいけない、というルールがある。
ーー我慢。
クマオを見ると、なんだか含みのある顔をしている。サオリも行きたいことがバレている様だ。
「仕方ないねー」アオビルが慰める。
「あれで遊ぼー」キーピルが指さす。
ーーあれ?
柱時計だ。12時ではなく13時まである文字盤。高速で針が逆回転している。これなら置いていかれることもない。ピョーピルたちは、針にぶら下がってキャッキャと遊んでいた。見ていて微笑ましい。
ーーん?
こんな時でも注意力は切らさない。サオリは聞き耳を立てた。
ーー遠くから女性の声? しかも、英語で変なこと言ってる。
「蛇さん、クモさん、ネズミの尻尾。あの世から死者を呼び戻す。机を叩け。応えよ魂。今こそ送れよメッセージ」
ーー呪文?
長かった通路を抜ける。
大きな部屋だ。
真ん中には小さな机。上には水晶玉が置かれている。空中にはタロットカードが何十枚も浮かび、ただ、ゆらゆらと漂っている。どういう仕組みなのかは分からない。
天井付近にある巨大な天窓からは、闇夜に浮かぶ三日月が、サオリたちを覗いていた。
「ザ・ゲームのために、この世に来た小鬼たちよ。ゾンビたちよ。タンバリンの音色と共に、死者の魂を呼び覚ませ」
先ほどから聞こえてくる呪文の声は、どうやら水晶玉から聞こえてくるようだ。
「昆虫達と、沼地のカエル。共に奏でよ、音楽を」水晶玉には髪の長い女性の顔が映っている。彼女が呪文を唱えているのだ。
ーーだーれー?
水晶玉に映る女性の顔を正面から見られる位置まで、ドゥームバギーはゆっくりと流れていく。
サオリは、その女性の顔を見た。
暗い水晶玉に、髪の長い、顔立ちの整った美女……。
「アイちゃん!!!」
サオリとピョーピルとクマオは、同時に叫んだり思ったりした。
振り返り、アイゼンの乗っているドゥームバギーを見る。
アイゼンの乗るドゥームバギーからは後ろにある。水晶玉がまだ見にくい。
ゆえに気づくのは、サオリよりも少し遅かった。
ーー水晶玉に映っているのは私! 既に幻術にハマってる!!
アイゼンは自分の鈴をしっかりと押さえた。
だが、時すでに遅く、その手は虚しく自分の喉をつかむだけだった。
「黒魔術師とシャーマンたちは、お前がどこに逃げようと、霊の力を教えるだろう。ほら、このように。ベルを鳴らして」
チンチラチンチラチンチラチンチラリン。
ーー鈴の音。
アイゼンの後ろのドゥームバギーには、いつの間にかオポポニーチェが座っていた。片足を組み、ウインクをする。
オポポニーチェは奪ったばかりの鈴をつまみ、挑発的な表情でリンリンと鳴らしていた。
ーー水晶玉に自分の顔が映ったことに動揺した。人は自分に一番関心を持つ。わかっていたのに防げなかった。
「4時20分41秒。ネコチーム。ダビデ王の騎士団。ラーガ・ラージャ。アウトー」
アイゼンは自分に落胆した。だが、毅然とした態度は崩さない。
この戦いは、世界の権力者たちが見ているのだ。自分の商品価値を落とすような行動をとってはならない。それがカリスマ性を作り上げる。
メイドがアイゼンを迎えに来る。
ーー迎えに来られずとも自分から出ていく。敗者は戦場にいる資格すらない。そんなことは分かっている。
サオリからの視線が熱い。だが視線は合わせない。ただ左腕を地面と平行に伸ばし、親指を立て、ウインクを左右一度ずつ。それだけで非常口へと向かっていった。