第204話 VIPルームC VIP Room C

文字数 1,623文字

 話は四回戦の途中に戻る。
 VIPルームCにいるマクジョージ・バンディは、冷静な顔を崩していなかった。だが、冷房が効いた部屋だというのに、禿げ上がったおでこは紅潮していた。
ーー私の策が失敗するとは……。
 戦術にかけては百戦錬磨のマクジョージだが、驚きを隠し切れていない。
 ダビデ王の騎士団が一番危険な存在だ、ということは見抜いていた。故に、あらかじめ足枷をかけていた。アイゼンには、優勝しないことを条件に、スカル&ボーンズへの入団許可を与えようとしていた。
 だが、出し抜かれた。まさかアイゼンが、黄金薔薇十字団が優勝できないように、先にオポポニーチェを倒してしまうとは思わなかったのだ。
 これではもはや、どこが優勝しようが、マクジョージには関係ない。むしろ、ロスチャイルド派閥のデュポン家が黒幕としてついているリリウス・ヌドリーナには、優勝をしてもらいたくない。
ーー普通の人間なら、我々に媚びを売る状況だろう。
 だが、逆に、ダビデ王の騎士団が優勝した方が良い状況へと立場を逆転させる。
ーー腹ただしい。
 まるで、バンディ家の看板に泥をかけるような行為だ。マクジョージにとって、これは反逆に等しかった。約束を裏切るようなことをされては、バンディ家の権威に関わる。
ーーならば最終戦。約束通り、ダビデ王の騎士団が優勝したら、アイゼンをスカル&ボーンズには入団させぬ。たとえ、黄金薔薇十字団が優勝できない、ということが決まっていても、な。
 マクジョージは、こう考えていた。

 しかし、四回戦が終わり、まさかの引き分け。
ーー彼女は、私が思う以上の傑物なのかもしれないな。
 マクジョージは、アイゼンにたいする認識を改めなくてはいけない、と気がついた。
ーー他の権力者に奪われると、将来は巨大な敵としてバンディー家の前に立ち塞がる予感がする。
 マクジョージは、バンディ家の繁栄のため、予想以上にキレるアイゼンを、自分の駒の1人として手に入れたいと考え直した。
 決めたら行動は迅速だ。
 ベランダに出て、向かいのVIPルームDにいるヤマナカに、指を3本立てて見せる。「愛染の、スカル&ボーンズへの入団を許可しよう」という合図だ。ヤマナカは「伝えておく」という合図を返してきた。アイゼンに知らせる方法を持っていることは、事前に聞いている。
 細工は流流仕上げを御覧じろ。後は代表戦を観戦すればいい。マクジョージは、ソファーに腰を落とした。
ーーおそらく代表戦は、アイゼンが出場するだろう。
 だが、アイゼンは、とことんマクジョージの期待を裏切る。なんと、1番非力なサオリを出してきたのだ。これにはマクジョージも落胆した。
ーーアイゼンは戦わない。エスゼロでは勝てない。ドクロも入手できない。ならばこのゲーム、これ以上観戦する意味がない。
 マクジョージは、タンザとサオリの試合には興味がなかった。自分の目で見るべきは、アイゼンだけだ。ドクロや勝敗に関しては、後で話を聞けばいい。アメリカを動かす男には無駄な時間がない。政治や環境から選挙工作まで、やるべきことは、まだまだある。
 マクジョージは、最初から最後まで、ザ・ゲームを楽しんで見ていたわけではない。ただ、今後のために見ておいただけなのだ。
「帰る。これ以上、用はない」
 マクジョージは、いきなり立ち上がり、観戦を楽しんでいるハリー・バンディの肩を叩いた後、顔も合わせず、そのまま部屋から出て行った。
「お気をつけて」ハリーは、見られてもいないのに軽く手を振った。
 一緒に帰っても良いのだが、ハリーには、まだやることがある。オポポニーチェがフォーを殺害した件、についての説明会見だ。先ほど少しだけおこなったが、最後まで見守る責任がある。
「やれやれ」
ーーマクジョージのことは好きだし、尊敬もしている。だが、やはり一人になるとホッとするわい。
 ハリーは落ち着いた表情で、惰性と慣性のまま、ソファーに腰を落とした。
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