第136話 3回戦(17) Third Round
文字数 1,464文字
ーーオポ?
オポポニーチェは躊躇した。
ゴム毬のように丸まっているので、手を入れる隙間がないのだ。
ーーただ丸まる。それだけの行為が、私のエリクシール・ポワゾンにたいしてこんなにも有効だとは思いもしませんでしたわ。
オポポニーチェは少し悩んだ。
だが、ハムスターに噛まれることを躊躇して檻に手を入れないほど臆病な人間ではない。強引ではあるが、左手でボルサリーノの金髪リーゼントを掴み、後ろから入れ墨だらけの右腕を首にかけ、巨大なカブを引っ張るかのように鈴をもぎ取ろうとした。
「いやー! 嫌でやんすー!!」
ボルサリーノはますます強く頭を抱え、ワクチン注射を嫌がる小学生のように泣き叫んだ。おかげでオポポニーチェの腕は鈴に届かない。
オポポニーチェの考えている次の演出までの時間が、刻一刻と迫ってくる。
ーー仕方ないわねーん。
美しくない力任せの行為が嫌いだ。
だが、この後に及んでは仕方がない。
ボルサリーノの腰を両手で抱え、カメを裏返すかのようにして持ち上げる。
「いやー! いやだー!!」
ボルサリーノは激しく両手を振って暴れた。
オポポニーチェの顔に爪が当たる。
頬に一筋の赤い血。
ーーこの……。
ただでさえ自分の作戦に傷をつけられ、時間のために美しくない闘いをさせられている。
ーー私の顔に傷をつけるなんて!
怒りで顔が歪む。
先ほどまで綺麗に闘おうとしていたのが嘘のようだ。
強引に体重の軽いボルサリーノを頭の上まで抱え上げ、ドゥームバギーのセーフティバーに叩き付ける。
ドガッ。
「ギャー!!」
それだけでは飽き足らない。
ガシッ。
ガシッ。
ガシッ。
何度も何度も、固いブーツでボルサリーノの胸や頭を蹴り続けた。
「許して。許して」オポポニーチェの声は小さくなる。
ガシッ。
ガシッ。
ガツッ。
6発目の蹴りがボルサリーノの鈴に引っかかり、鈴は勢いよく首から飛んでいった。
丘の下の暗闇に、カラカラという乾いた音を立てながら吸い込まれていく。
「4時間25分2秒。ネコチーム。リリウス・ヌドリーナ。オポポニーチェ。アウトー。これでリリウス・ヌドリーナは全滅です!」
もう少し鈴が取れるのが遅れれば、ボルサリーノの首から外れていたのは鈴ではない。頭であっただろう。よほどの恐怖だったのか、ボルサリーノはドゥームバギーから転がり落ち、声にならない叫びをあげている。メイドの恰好をしたスタッフが2人きて、ボルサリーノを慰めながら出口へと連れていった。
鈴が取れた後もオポポニーチェは鼻息荒く、蹴りを2、3度空振りした。まだ興奮がおさまらない。
「ふー。ふー」ドゥームバギーから飛び降りる。目が血走っている。視線が定まらない。ボルサリーノが退場していく姿も見ていないようだ。
サオリのドゥームバギーが、宙を見つめて立っているオポポニーチェの横を通り過ぎようとする。
サオリは、ボルサリーノを助けにいこうと頭に命令をかけてはいたが、恐怖で体を動かすことができなかった。
「沙織! 動け!!」クマオに尻を叩かれ、反射的にサオリはオポポニーチェの尻尾に手を伸ばした。サオリの細い右腕をオポポニーチェは見ていない。
チャンスだ。
だが、サオリの手は無慈悲にはたかれた。こっそりとおやつを盗もうとした子供が親に叱られたように。2回戦の時のようにうまくはいかなかった。
「2匹目のドジョウはいなかったな」ミドピルが呟く。
サオリは、ジーンとする右手をさすった。立っているオポポニーチェは振り返りもしない。踊っている大きな亡霊に食べられ、そのまま消失した。
オポポニーチェは躊躇した。
ゴム毬のように丸まっているので、手を入れる隙間がないのだ。
ーーただ丸まる。それだけの行為が、私のエリクシール・ポワゾンにたいしてこんなにも有効だとは思いもしませんでしたわ。
オポポニーチェは少し悩んだ。
だが、ハムスターに噛まれることを躊躇して檻に手を入れないほど臆病な人間ではない。強引ではあるが、左手でボルサリーノの金髪リーゼントを掴み、後ろから入れ墨だらけの右腕を首にかけ、巨大なカブを引っ張るかのように鈴をもぎ取ろうとした。
「いやー! 嫌でやんすー!!」
ボルサリーノはますます強く頭を抱え、ワクチン注射を嫌がる小学生のように泣き叫んだ。おかげでオポポニーチェの腕は鈴に届かない。
オポポニーチェの考えている次の演出までの時間が、刻一刻と迫ってくる。
ーー仕方ないわねーん。
美しくない力任せの行為が嫌いだ。
だが、この後に及んでは仕方がない。
ボルサリーノの腰を両手で抱え、カメを裏返すかのようにして持ち上げる。
「いやー! いやだー!!」
ボルサリーノは激しく両手を振って暴れた。
オポポニーチェの顔に爪が当たる。
頬に一筋の赤い血。
ーーこの……。
ただでさえ自分の作戦に傷をつけられ、時間のために美しくない闘いをさせられている。
ーー私の顔に傷をつけるなんて!
怒りで顔が歪む。
先ほどまで綺麗に闘おうとしていたのが嘘のようだ。
強引に体重の軽いボルサリーノを頭の上まで抱え上げ、ドゥームバギーのセーフティバーに叩き付ける。
ドガッ。
「ギャー!!」
それだけでは飽き足らない。
ガシッ。
ガシッ。
ガシッ。
何度も何度も、固いブーツでボルサリーノの胸や頭を蹴り続けた。
「許して。許して」オポポニーチェの声は小さくなる。
ガシッ。
ガシッ。
ガツッ。
6発目の蹴りがボルサリーノの鈴に引っかかり、鈴は勢いよく首から飛んでいった。
丘の下の暗闇に、カラカラという乾いた音を立てながら吸い込まれていく。
「4時間25分2秒。ネコチーム。リリウス・ヌドリーナ。オポポニーチェ。アウトー。これでリリウス・ヌドリーナは全滅です!」
もう少し鈴が取れるのが遅れれば、ボルサリーノの首から外れていたのは鈴ではない。頭であっただろう。よほどの恐怖だったのか、ボルサリーノはドゥームバギーから転がり落ち、声にならない叫びをあげている。メイドの恰好をしたスタッフが2人きて、ボルサリーノを慰めながら出口へと連れていった。
鈴が取れた後もオポポニーチェは鼻息荒く、蹴りを2、3度空振りした。まだ興奮がおさまらない。
「ふー。ふー」ドゥームバギーから飛び降りる。目が血走っている。視線が定まらない。ボルサリーノが退場していく姿も見ていないようだ。
サオリのドゥームバギーが、宙を見つめて立っているオポポニーチェの横を通り過ぎようとする。
サオリは、ボルサリーノを助けにいこうと頭に命令をかけてはいたが、恐怖で体を動かすことができなかった。
「沙織! 動け!!」クマオに尻を叩かれ、反射的にサオリはオポポニーチェの尻尾に手を伸ばした。サオリの細い右腕をオポポニーチェは見ていない。
チャンスだ。
だが、サオリの手は無慈悲にはたかれた。こっそりとおやつを盗もうとした子供が親に叱られたように。2回戦の時のようにうまくはいかなかった。
「2匹目のドジョウはいなかったな」ミドピルが呟く。
サオリは、ジーンとする右手をさすった。立っているオポポニーチェは振り返りもしない。踊っている大きな亡霊に食べられ、そのまま消失した。