第220話 情報 Information

文字数 835文字

 VIPルームEにいたカールアウグスト・トゥルン・ウント・タクシスは、部下からの電話を切った。
「聞いたか?」
「ええ」長男のヨハネスは、自分にきたメールを見せた。
 両方とも、同じ内容だ。
『勝者に贈られた護良親王の髑髏は、リリウス・ヌドリーナから真言立川流へと譲り渡されました。ただし、その所有者は、真言立川流ではなく、ダビデ王の騎士団となるそうです。原因は、現在調査中です』
 次男のアルベルトは、もう、この部屋にはいない。タンザが代表戦を勝つと見込んで、リリウス・ヌドリーナの日本での滞在場所、日本イタリア大使館へと向かう準備を進めている。Death13を奪うためだ。
 だが、彼らの手にNo.8トマスはない。このことは、観客たちも知らない。スタッフの中にスパイを忍び込ませていた、カールアウグストやヨハネスだからこそ知り得た情報である。
 そして、No.8トマスがダビデ王の騎士団所有のものである以上、無理に盗み取ろうとすれば、ダビデ家から注意勧告が下される。「タクシス家は関係ない。アルベルトの単独行為だ」と言えば、一族に火の粉はかからない。ダビデ家もタクシス家とわざわざ対立したくはないからだ。だが、アルベルトは危機に陥るだろう。
「アルベルトに知らせてやるか?」カールアウグストはヨハネスの顔を見た。
「ご冗談を」ヨハネスは鼻で笑う。
「正確な情報を知ることは、タクシス一族である以上、最重要スキルです。それを怠った弟には、それなりの罰を受けて貰えばいいでしょう」
「お前は冷酷だな」
「当たり前です。目的に向かって、ただ機械的に生きる奴が強い。父が私に教えてくれた教訓です」
「そうだな。だが、情も時には必要だと思うぞ」
「情が深く見えた方がカリスマ性が上がる。そう仰るのであらば、そうしましょう」ヨハネスは、振り返りもせずに返答した。
ーー我が子ながら立派に育った。だが、多少、立派に育ちすぎてもしまったな。
 カールアウグストは、息子の後ろ姿を見ながら、何だか複雑な気分に陥った。
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