第74話 次のステージ(2) Next Stage
文字数 2,114文字
「2回戦の試合場はここ! プーさんのハニーハント! プーさんのハニーハントとなります!!」
「おおっ」観客がどよめいた。
一斉に資料を捲る音。予想屋のもとに集まる客の群れも見られる。
ーープーさんのハニーハント?
ヒナも、客と同じように資料を見たかった。だが、姿勢を崩せない。自分の休憩時間以外は笑顔で手を振る。それが仕事だ。一晩で5千ドル貰っているので仕方がない。
ーーそれでも、少しでも情報を集めたい。
ヒナは笑顔を崩さないまま、スクリーンや解説に全神経を集中させた。
「プーさんのハニーハントのアトラクションツアーは現地時間1時6分、ハワイ時間6時6分から開始する予定です! 準備がありますので、一度、ワイアヌエヌエ・カジノにお返ししまーす」クリケットは手を振った。
「クリケット、ありがとう」
スクリーンに映されている画面は消え、再び、1回戦のハイライト映像に戻る。画面の下にはテロップが流れる。「次戦の会場はプーさんのハニーハントとなりました。ただいまクリケットは、アトラクションツアーの準備中です。しばらくお待ちください」
クーは解説を再開した。
「2回戦は、プーさんのハニーハントになりました」
資料を見ながら説明をする。フタバとマックス・ビーの手元にも資料がある。オリエンタルランド社によって製作された、東京ディズニーランドの詳細マップだ。客にも同様の地図が配られている。
「ティーカップの真横だね」フタバが地図を確認する。
「さっきと比べて、プーさんのハニーハントは大きなアトラクションだな」マックス・ビーがページを捲る。
「はい。全部で10のエリアからなっている、乗り物も使ったアトラクションですね。だいたい、1周は4分30秒かかります」より詳細な資料を持っているクーが補足をする。
「なかなか複雑な試合場だね」フタバは地図に興味津々だ。
「うむ。CTMの面白さがわかりやすい試合になりそうだな」マックス・ビーも身を乗り出す。解説席の机が重みできしんだ。
「しかしなぜ、リリウス・ヌドリーナは、このステージを選んだのでしょうか?」
ーーそれ! 知りたかったとこ!
ヒナと同様、客も一斉に耳を傾ける。
ヒナは、2回戦のステージは、マジックランプ・シアターか、タートル・トーク辺りが選択されるのではないかと予想していた。リリウス・ヌドリーナの特徴は、その巨体と戦闘力だ。細くて複雑なアトラクションよりも、広くて隠れる場所がないアトラクションを選択した方が勝率が上がる。
それがよりによって複雑なアトラクション。なぜ、プーさんのハニーハントを選んだのか。誰もが知りたいところだ。
フタバはのんびりと答えた。
「あんがい、タンザのあだ名のひとつとして、地獄のプーさんてのがあるからじゃないかな?」
全員がすかされた気持ちになった。ヒナも頭にクエスチョンマークがたくさん浮かんだ。
ーーあんなゴツいのに、プーさんてあだ名を気に入ってるの? そんなのおかしいよ。だって、中国の習近平首席は、プーさんてあだ名をつけられてから、ネットでプーさんの記事が出たらすぐに削除するようにって、国全体でシステム作らせたほどだよ? 偉ぶりたい人はプーさんなんて言われたくないはず。
「え? それだけですか?」クーも、ヒナや客と同じ気持ちだ。真剣な顔で食い下がった。納得できていないからだ。
マックス・ビーが口を開く。
「それは、あながち間違いでもないかもしれないな」
「え?」
ーー反論を言うかと思っていたら、まさかの同調?
全員が不思議がる中、マックス・ビーは説明を続けた。
「あだ名のことは俺は知らない。だが、彼らがステージの選択を、その程度のものだと思っている可能性はある。なんせ、ステージを決める時間中、彼らはただ、ワインを飲んで、ピザとパスタを食していただけだからな」
ーーそれに、太っている人がキャバクラで、プーさんみたいに可愛いと言われてデレデレしている姿は、よく見る光景だ。
「あ!」クーは、試合場を決める時のことを思い出した。確かにリリウス・ヌドリーナは下調べを何もしていない。
「ま、それでも勝てると思っているのは、さすがに増上慢がすぎる所業だがな」マックス・ビーは白い顎髭を撫でた。
「けど、さっきの試合を見ちゃうとなー」フタバの言葉に2人は振り返る。
「自分の強さに絶対的な自信を持っている人ってさ、その自信が絶対的な強さに変わることもあるんだよね。もし、次もヌドランゲタがとったら、これは独走もあり得ちゃうかもね」
ーーそうかもしれない。
ヒナは、フタバの言葉に怯えた。
確かに、自信が力になることがある。普段は女子大生として過ごしているヒナも、自分が神様の生まれ変わりなのだと本気で思う時がある。月の女神の生まれ変わりだという血筋と、月の女神だと本当に信じている人たちに崇め奉られている時だ。
ーー天才には必ずあるといわれる絶対的な万能感。それをもし、タンザやビンゴが持っているのだとしたら……。
やはり、リリウス・ヌドリーナは恐ろしい。
スクリーンでは、現在の選手の状況が映されていた。サオリは、のんきに柔軟運動をしている。
ヒナは、不安のあまり身震いした。
「おおっ」観客がどよめいた。
一斉に資料を捲る音。予想屋のもとに集まる客の群れも見られる。
ーープーさんのハニーハント?
ヒナも、客と同じように資料を見たかった。だが、姿勢を崩せない。自分の休憩時間以外は笑顔で手を振る。それが仕事だ。一晩で5千ドル貰っているので仕方がない。
ーーそれでも、少しでも情報を集めたい。
ヒナは笑顔を崩さないまま、スクリーンや解説に全神経を集中させた。
「プーさんのハニーハントのアトラクションツアーは現地時間1時6分、ハワイ時間6時6分から開始する予定です! 準備がありますので、一度、ワイアヌエヌエ・カジノにお返ししまーす」クリケットは手を振った。
「クリケット、ありがとう」
スクリーンに映されている画面は消え、再び、1回戦のハイライト映像に戻る。画面の下にはテロップが流れる。「次戦の会場はプーさんのハニーハントとなりました。ただいまクリケットは、アトラクションツアーの準備中です。しばらくお待ちください」
クーは解説を再開した。
「2回戦は、プーさんのハニーハントになりました」
資料を見ながら説明をする。フタバとマックス・ビーの手元にも資料がある。オリエンタルランド社によって製作された、東京ディズニーランドの詳細マップだ。客にも同様の地図が配られている。
「ティーカップの真横だね」フタバが地図を確認する。
「さっきと比べて、プーさんのハニーハントは大きなアトラクションだな」マックス・ビーがページを捲る。
「はい。全部で10のエリアからなっている、乗り物も使ったアトラクションですね。だいたい、1周は4分30秒かかります」より詳細な資料を持っているクーが補足をする。
「なかなか複雑な試合場だね」フタバは地図に興味津々だ。
「うむ。CTMの面白さがわかりやすい試合になりそうだな」マックス・ビーも身を乗り出す。解説席の机が重みできしんだ。
「しかしなぜ、リリウス・ヌドリーナは、このステージを選んだのでしょうか?」
ーーそれ! 知りたかったとこ!
ヒナと同様、客も一斉に耳を傾ける。
ヒナは、2回戦のステージは、マジックランプ・シアターか、タートル・トーク辺りが選択されるのではないかと予想していた。リリウス・ヌドリーナの特徴は、その巨体と戦闘力だ。細くて複雑なアトラクションよりも、広くて隠れる場所がないアトラクションを選択した方が勝率が上がる。
それがよりによって複雑なアトラクション。なぜ、プーさんのハニーハントを選んだのか。誰もが知りたいところだ。
フタバはのんびりと答えた。
「あんがい、タンザのあだ名のひとつとして、地獄のプーさんてのがあるからじゃないかな?」
全員がすかされた気持ちになった。ヒナも頭にクエスチョンマークがたくさん浮かんだ。
ーーあんなゴツいのに、プーさんてあだ名を気に入ってるの? そんなのおかしいよ。だって、中国の習近平首席は、プーさんてあだ名をつけられてから、ネットでプーさんの記事が出たらすぐに削除するようにって、国全体でシステム作らせたほどだよ? 偉ぶりたい人はプーさんなんて言われたくないはず。
「え? それだけですか?」クーも、ヒナや客と同じ気持ちだ。真剣な顔で食い下がった。納得できていないからだ。
マックス・ビーが口を開く。
「それは、あながち間違いでもないかもしれないな」
「え?」
ーー反論を言うかと思っていたら、まさかの同調?
全員が不思議がる中、マックス・ビーは説明を続けた。
「あだ名のことは俺は知らない。だが、彼らがステージの選択を、その程度のものだと思っている可能性はある。なんせ、ステージを決める時間中、彼らはただ、ワインを飲んで、ピザとパスタを食していただけだからな」
ーーそれに、太っている人がキャバクラで、プーさんみたいに可愛いと言われてデレデレしている姿は、よく見る光景だ。
「あ!」クーは、試合場を決める時のことを思い出した。確かにリリウス・ヌドリーナは下調べを何もしていない。
「ま、それでも勝てると思っているのは、さすがに増上慢がすぎる所業だがな」マックス・ビーは白い顎髭を撫でた。
「けど、さっきの試合を見ちゃうとなー」フタバの言葉に2人は振り返る。
「自分の強さに絶対的な自信を持っている人ってさ、その自信が絶対的な強さに変わることもあるんだよね。もし、次もヌドランゲタがとったら、これは独走もあり得ちゃうかもね」
ーーそうかもしれない。
ヒナは、フタバの言葉に怯えた。
確かに、自信が力になることがある。普段は女子大生として過ごしているヒナも、自分が神様の生まれ変わりなのだと本気で思う時がある。月の女神の生まれ変わりだという血筋と、月の女神だと本当に信じている人たちに崇め奉られている時だ。
ーー天才には必ずあるといわれる絶対的な万能感。それをもし、タンザやビンゴが持っているのだとしたら……。
やはり、リリウス・ヌドリーナは恐ろしい。
スクリーンでは、現在の選手の状況が映されていた。サオリは、のんきに柔軟運動をしている。
ヒナは、不安のあまり身震いした。