第172話 4回戦(15) Final Round
文字数 1,384文字
まずは悪の片棒、ビンゴだ。彼は街の入口でタンザを見送った後、何艘か後のバトーに1人で乗り込んだ。20人乗りのバトーに1人で乗り込むが、体の大きさ的にはちょうどいい。ボルサリーノの元へ行ってフォーの鈴を奪るのが一番の良手だが、気がはやって最終決戦のことで頭がいっぱいだ。
ーーへへ。腕がなるぜ。
やれ作戦だの、やれ戦術だのといった複雑な闘いは好きではない。真正面からの殴り合いが1番楽しい。人間としては規格外の2メートル40センチの身長。人類の絶対強者は、タンザ以外に負けを意識したことはない。
間も無くやってくる戦闘の開放感。今まで我慢して面倒くさいアイゼンの作戦に付き合ってきたのはこのためだ。
ビンゴは長い指を組み合わせてポキポキと鳴らした。
一方、神の相方であるサオリは、ようやく恥ずかしさから回復して顔を上げた。
そして眼下に広がる信じられない光景。
ーー???
フォーの首がない。
ーー!!!
生々しい。
言葉が出ない。
口を覆う。
フォーの首を抱えていたボルサリーノは、腰を抜かして胸までを水に浸していた。温かい液体が下半身を浸していく。
フォーの生首が冷えていく。流れる血は温かい。
浸っている水はぬるい。下半身は温かい。
あらゆる混乱。感覚が壊れそうになる。
が、グッと堪える。
イタリア、中国、フィリピンなどで裏の世界を渡り歩いてきたボルサリーノだ。敵や仲間の死には何度も立ち会っている。人間は、壊れさえしなければ精神が強くなる生物だ。ボルサリーノの28年間の経験は、ボルサリーノ自身の精神を救ってくれた。
だがスタッフは違う。多少の怪我の治療は覚悟していたが、残虐なシーンに出会うとは思ってもいなかった。えずいている者もいる。清掃処理や敗者の移動などの業務にも支障をきたしている。
オポポニーチェは屈み、ボルサリーノの耳元に何かを囁いた。
ーーえっ?
たった一言。だが、精神の落ち着く言葉だ。
「エスゼロちゃんにも伝えといてね。頼んだわよ」オポポニーチェはスタッフに連れられ、大人しく戦場から去っていった。
フォーの死体が片付けられ、紅に染まった水が元の透明を取り戻す。
ボルサリーノの精神状態は完全に治っていた。ボルサリーノはまた一つ強くなった。
サオリは現場から距離が遠かった。そして瞬間を見ていなかった。この2点が幸いした。ホムンクルスとはいえ他人の死だ。間近で凝視していたら精神は崩壊していただろう。
試合中だということも運が良かった。サオリは、やるべきことはやるという意志を強く持っている人間だ。試合中である以上、どこに気を取られようとも必ず試合のことを1番に考えている。脳の容量は一定だ。故に、じっくりと死については考えずにすんだ。
ーーやば!
それ以上何も頭に浮かんでこない。ただ、この状況を早くアイゼンに伝えなくてはいけないことは分かっていた。それが試合を優位に進めてくれるし、精神の安定にも繋がる。
何も考えていない。ただ反射的に、サオリは流れてくるバトーに跳び乗った。
ーー急がなきゃ。
サオリは放心状態だった。本当はバトーを降りて街を走って行きたい。急かす脳とは裏腹に、体は全く急ごうとはしてくれない。その姿は、客からは冷静そのものに見えていた。
サオリがバトーに跳び乗った姿を見て、ボルサリーノものろのろと、後に続くバトーに乗り込んだ。
ーーへへ。腕がなるぜ。
やれ作戦だの、やれ戦術だのといった複雑な闘いは好きではない。真正面からの殴り合いが1番楽しい。人間としては規格外の2メートル40センチの身長。人類の絶対強者は、タンザ以外に負けを意識したことはない。
間も無くやってくる戦闘の開放感。今まで我慢して面倒くさいアイゼンの作戦に付き合ってきたのはこのためだ。
ビンゴは長い指を組み合わせてポキポキと鳴らした。
一方、神の相方であるサオリは、ようやく恥ずかしさから回復して顔を上げた。
そして眼下に広がる信じられない光景。
ーー???
フォーの首がない。
ーー!!!
生々しい。
言葉が出ない。
口を覆う。
フォーの首を抱えていたボルサリーノは、腰を抜かして胸までを水に浸していた。温かい液体が下半身を浸していく。
フォーの生首が冷えていく。流れる血は温かい。
浸っている水はぬるい。下半身は温かい。
あらゆる混乱。感覚が壊れそうになる。
が、グッと堪える。
イタリア、中国、フィリピンなどで裏の世界を渡り歩いてきたボルサリーノだ。敵や仲間の死には何度も立ち会っている。人間は、壊れさえしなければ精神が強くなる生物だ。ボルサリーノの28年間の経験は、ボルサリーノ自身の精神を救ってくれた。
だがスタッフは違う。多少の怪我の治療は覚悟していたが、残虐なシーンに出会うとは思ってもいなかった。えずいている者もいる。清掃処理や敗者の移動などの業務にも支障をきたしている。
オポポニーチェは屈み、ボルサリーノの耳元に何かを囁いた。
ーーえっ?
たった一言。だが、精神の落ち着く言葉だ。
「エスゼロちゃんにも伝えといてね。頼んだわよ」オポポニーチェはスタッフに連れられ、大人しく戦場から去っていった。
フォーの死体が片付けられ、紅に染まった水が元の透明を取り戻す。
ボルサリーノの精神状態は完全に治っていた。ボルサリーノはまた一つ強くなった。
サオリは現場から距離が遠かった。そして瞬間を見ていなかった。この2点が幸いした。ホムンクルスとはいえ他人の死だ。間近で凝視していたら精神は崩壊していただろう。
試合中だということも運が良かった。サオリは、やるべきことはやるという意志を強く持っている人間だ。試合中である以上、どこに気を取られようとも必ず試合のことを1番に考えている。脳の容量は一定だ。故に、じっくりと死については考えずにすんだ。
ーーやば!
それ以上何も頭に浮かんでこない。ただ、この状況を早くアイゼンに伝えなくてはいけないことは分かっていた。それが試合を優位に進めてくれるし、精神の安定にも繋がる。
何も考えていない。ただ反射的に、サオリは流れてくるバトーに跳び乗った。
ーー急がなきゃ。
サオリは放心状態だった。本当はバトーを降りて街を走って行きたい。急かす脳とは裏腹に、体は全く急ごうとはしてくれない。その姿は、客からは冷静そのものに見えていた。
サオリがバトーに跳び乗った姿を見て、ボルサリーノものろのろと、後に続くバトーに乗り込んだ。