第205話 特設ステージ(1) Castle Forecourt Stage
文字数 2,187文字
時刻は6時59分。代表戦は四回戦の続きだ。賭けは続いている。だが、ワイアヌエヌエ・カジノ内だけは、1万ドルチャレンジと題し、どちらか一方の選手に1万ドルを賭けられる。
掛け率は、タンザ1.3対エスゼロ5。
サオリも、それなりに期待されている。
タンザとサオリは、左右の階段から別々にステージに登り、始まりの合図を、今や遅しと待ち構えていた。
「さあ。結末まで時は止まりません。いよいよ決戦の火蓋がきられます。お客様。そしてお二人様。ご準備はできていますでしょうか?」クリケットが問いかける。
タンザは返事の代わりに、拳を打ち鳴らした。サオリは、ストッピング・ストーンを習ってから、ずっと一人で練習を続けている。最初は10秒かかっていた技の発動も、今では7秒程度に縮められている。後は、試合でどれだけ使える速度まで発動できるか。それが勝負の鍵だ。
「それでは、10秒前です!」クリケットが手を上げた。客の全員が一緒にカウントを数える。
9、
8、
7、
6、
5、
4、
3、
2、
1、
「ファイトーーーーーーーーッッッ!!!」クリケットは、大きく手を振り下ろした。
同時に、シンデレラ城の後方から花火が打ち上がる。
「わーっっっっ!!」歓声が、シンデレラ城前に響き渡る。
試合時間はわずか6分。
だが、人間は、全力で6分間も戦い続けることはできない。出来て2分が限界だ。ボクシングの世界タイトルは3分12ラウンドある。総合格闘技は5分3ラウンドだったりする。だが、あれは、選手たちが時間に合わせて戦略を決め、スタミナを温存しながら闘っているだけだ。
ーー6分なら、七割の速度で動きながら、全力で攻撃する形を三回作れる。相手が攻めてきたら防御しなくちゃだ。八割の速度で動いて、全力を二回に絞ろ。
ミハエルとは十年以上、何度も実践形式の組み手を重ねている。自分のスタミナも分かるし、タンザの戦闘力も分析できている。
サオリは、ウサギのように軽快なステップで、タンザの周りを回り、膝の横や、手の甲を狙って攻撃を仕掛けた。
一方タンザは、手加減する気、満々だ。掴みにきたり、軽いパンチを繰り出してはいるが、本気ではない。
サオリは、最初こそ緩急をかけた攻撃を仕掛けてくるのかと思って身構えた。が、次第に分かってきた。
ーーまたナメられてる?
サオリは、バックステップで、ステージの一番端まで後退した。
大きく息を吸い、一気に一直線、タンザに向かって走っていく。
タンザは、振りの大きなストレートパンチで迎え撃った。攻撃力は高いが、テレホンパンチだ。簡単に避けられる。
サオリは、タンザの前で、思い切り右足を踏み込んだ。
突き出してきたタンザの拳に、自らの顔を思い切りぶつける。もちろん、モード・アルケミストは発動中だ。タンザの攻撃がサオリに届くことはない。
ーーコメマイ!?
タンザは、サオリの顔の重みをしっかりと感じていた。
サオリは足を踏ん張り、一歩も後ろにひかない。じっとタンザを睨みつける。
その殺気に、タンザは思わず拳を引いた。
睨み続けているサオリの表情を見る。
「Kidding Me?」
サオリが肩をすくめた。明らかに軽蔑した表情。眉毛も釣り上がっている。
「全力で来て」
サオリに後顧の憂いはない。ケガをしてもいい。ただ、全力で萌え盛りたい。
こんなナメられた攻撃では、こちらも本気を出せない。本気を出せなければ、自分の限界を超えられない。
ーー軽視していた、か。
タンザは考え直した。
「いいんだな?」念を押す。
「Have a fun!」サオリは、ご機嫌な顔に戻った。
ーーそうだ。こいつは、あのカトゥーの娘だった。いいだろう。殺す気で闘ってやる。
タンザは笑顔を見せた後、一瞬で本気の顔になり、全力で右足を振り抜いた。サオリはすれすれで避ける。そこに左ストレート。死角から高速で丸太が飛んでくるような攻撃。何人もの敵を葬り去ってきた、タンザの必殺コンビネーションだ。
ーーこれこれ。
サオリは戦いに夢中になった。神経はますます研ぎ澄まされていく。避け続ける。ーータンザの体格だ。全力で攻撃すれば、スタミナはもたないだろうっっっ。
思った瞬間、反射速度では知覚できない攻撃が、サオリの体を高く吹き飛ばしていた。
ーーSV。
タンザの右足からのスーパー・ヴェローチェ。体の連動とは関係なく発動できるので、読んでいなければ避けられない。
サオリの体は、5メートルほど空中に飛んでいた。ただ、モード・アルケミスト中はケガをしない。むしろ、対空時間が長い方が体勢を整えやすい。
サオリは一回転し、五点接地法でステージに着地した。転がった勢いを止めずにそのまま立ち上がり、間髪入れず、タンザに向かっていく。
ーーなるほどな。
タンザは、迎撃の体制をとったまま、ニヤリと笑った。
ーー攻撃しても傷つかないのか。
おそらく、オポポニーチェの幻覚と同じような錬金術の一種なのだろう。だが、今は理由はどうでもいい。常識で考えても仕方がない。蹴ったタンザの脛が痛いという結果だけが判断材料だ。どうやらサオリは、硬くなれるらしい。
「びっくりしたー」シロピルが肝を冷やす。
「でもオモロ!」キーピルが手を叩いて笑う。
「オーポポポポ。うらやましいですねぇ」オポポニーチェは目を細め、全力で闘う二人の試合を見物していた。
掛け率は、タンザ1.3対エスゼロ5。
サオリも、それなりに期待されている。
タンザとサオリは、左右の階段から別々にステージに登り、始まりの合図を、今や遅しと待ち構えていた。
「さあ。結末まで時は止まりません。いよいよ決戦の火蓋がきられます。お客様。そしてお二人様。ご準備はできていますでしょうか?」クリケットが問いかける。
タンザは返事の代わりに、拳を打ち鳴らした。サオリは、ストッピング・ストーンを習ってから、ずっと一人で練習を続けている。最初は10秒かかっていた技の発動も、今では7秒程度に縮められている。後は、試合でどれだけ使える速度まで発動できるか。それが勝負の鍵だ。
「それでは、10秒前です!」クリケットが手を上げた。客の全員が一緒にカウントを数える。
9、
8、
7、
6、
5、
4、
3、
2、
1、
「ファイトーーーーーーーーッッッ!!!」クリケットは、大きく手を振り下ろした。
同時に、シンデレラ城の後方から花火が打ち上がる。
「わーっっっっ!!」歓声が、シンデレラ城前に響き渡る。
試合時間はわずか6分。
だが、人間は、全力で6分間も戦い続けることはできない。出来て2分が限界だ。ボクシングの世界タイトルは3分12ラウンドある。総合格闘技は5分3ラウンドだったりする。だが、あれは、選手たちが時間に合わせて戦略を決め、スタミナを温存しながら闘っているだけだ。
ーー6分なら、七割の速度で動きながら、全力で攻撃する形を三回作れる。相手が攻めてきたら防御しなくちゃだ。八割の速度で動いて、全力を二回に絞ろ。
ミハエルとは十年以上、何度も実践形式の組み手を重ねている。自分のスタミナも分かるし、タンザの戦闘力も分析できている。
サオリは、ウサギのように軽快なステップで、タンザの周りを回り、膝の横や、手の甲を狙って攻撃を仕掛けた。
一方タンザは、手加減する気、満々だ。掴みにきたり、軽いパンチを繰り出してはいるが、本気ではない。
サオリは、最初こそ緩急をかけた攻撃を仕掛けてくるのかと思って身構えた。が、次第に分かってきた。
ーーまたナメられてる?
サオリは、バックステップで、ステージの一番端まで後退した。
大きく息を吸い、一気に一直線、タンザに向かって走っていく。
タンザは、振りの大きなストレートパンチで迎え撃った。攻撃力は高いが、テレホンパンチだ。簡単に避けられる。
サオリは、タンザの前で、思い切り右足を踏み込んだ。
突き出してきたタンザの拳に、自らの顔を思い切りぶつける。もちろん、モード・アルケミストは発動中だ。タンザの攻撃がサオリに届くことはない。
ーーコメマイ!?
タンザは、サオリの顔の重みをしっかりと感じていた。
サオリは足を踏ん張り、一歩も後ろにひかない。じっとタンザを睨みつける。
その殺気に、タンザは思わず拳を引いた。
睨み続けているサオリの表情を見る。
「Kidding Me?」
サオリが肩をすくめた。明らかに軽蔑した表情。眉毛も釣り上がっている。
「全力で来て」
サオリに後顧の憂いはない。ケガをしてもいい。ただ、全力で萌え盛りたい。
こんなナメられた攻撃では、こちらも本気を出せない。本気を出せなければ、自分の限界を超えられない。
ーー軽視していた、か。
タンザは考え直した。
「いいんだな?」念を押す。
「Have a fun!」サオリは、ご機嫌な顔に戻った。
ーーそうだ。こいつは、あのカトゥーの娘だった。いいだろう。殺す気で闘ってやる。
タンザは笑顔を見せた後、一瞬で本気の顔になり、全力で右足を振り抜いた。サオリはすれすれで避ける。そこに左ストレート。死角から高速で丸太が飛んでくるような攻撃。何人もの敵を葬り去ってきた、タンザの必殺コンビネーションだ。
ーーこれこれ。
サオリは戦いに夢中になった。神経はますます研ぎ澄まされていく。避け続ける。ーータンザの体格だ。全力で攻撃すれば、スタミナはもたないだろうっっっ。
思った瞬間、反射速度では知覚できない攻撃が、サオリの体を高く吹き飛ばしていた。
ーーSV。
タンザの右足からのスーパー・ヴェローチェ。体の連動とは関係なく発動できるので、読んでいなければ避けられない。
サオリの体は、5メートルほど空中に飛んでいた。ただ、モード・アルケミスト中はケガをしない。むしろ、対空時間が長い方が体勢を整えやすい。
サオリは一回転し、五点接地法でステージに着地した。転がった勢いを止めずにそのまま立ち上がり、間髪入れず、タンザに向かっていく。
ーーなるほどな。
タンザは、迎撃の体制をとったまま、ニヤリと笑った。
ーー攻撃しても傷つかないのか。
おそらく、オポポニーチェの幻覚と同じような錬金術の一種なのだろう。だが、今は理由はどうでもいい。常識で考えても仕方がない。蹴ったタンザの脛が痛いという結果だけが判断材料だ。どうやらサオリは、硬くなれるらしい。
「びっくりしたー」シロピルが肝を冷やす。
「でもオモロ!」キーピルが手を叩いて笑う。
「オーポポポポ。うらやましいですねぇ」オポポニーチェは目を細め、全力で闘う二人の試合を見物していた。